<figure id="attachment_272322" aria-describedby="caption-attachment-272322" style="width: 4920px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="61574644"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/aflo_181136533.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-272322" class="wp-caption-text">収入格差の大きいフードデリバリー（画像：ロイター／アフロ。写真はイメージで一部加工しています）</figcaption></figure>
<p>スマホの操作一つで自宅まで食べ物を届けに来てくれるフードデリバリーの配達員たち。彼らの中に貧困にあえぎ、ホームレス同然の生き方をしている人が交じっていることを知っているだろうか。</p>
<p>日本でフードデリバリーが広まったきっかけは、20年に起きた新型コロナの感染拡大だった。それから２年が経ち、数多くの企業が競合するようになった上、ステイホームの空気も緩んだことから、配達員の収入は厳しくなっている。</p>
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<p>今回、取材した配達員の１人はこう語る。</p>
<p><span class="strongInContent">「都心のかなりいいところでなければ稼げなくなりつつありますが、そういう地域は競争相手も多いのが現状です。なので、公園のベンチで寝たり、漫喫生活したりしながら、仕事が来るのを待つ人たちがいるのです。僕自身も稼ぐために、１週間ほど漫喫生活をしたことがありますが、仕事が来るたびに起きなければならないし、体も休まらないので、あっという間に体調を崩しました」</span></p>
<p>フードデリバリーの客は、配達員の実情を知る機会がほとんどない。だが、この男性のようにホームレスに近い暮らしをしながら、食べ物を届けている人が一定数いるのだ。</p>
<p>若者の貧困現場を追うシリーズ「ヤング・ホームレス」、今回はフードデリバリーの底辺から社会の闇の一面を見てみたい。</p>
<h2>困窮相談者の４割が……</h2>
<figure id="attachment_272323" aria-describedby="caption-attachment-272323" style="width: 3914px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="be8fcf5b"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/aflo_167893621.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-272323" class="wp-caption-text">収入格差の大きいフードデリバリー（画像：ロイター／アフロ。写真はイメージで一部加工しています）</figcaption></figure>
<p>現在は、フードデリバリーが群雄割拠する戦国時代と言っていいだろう。</p>
<p>ウーバーイーツ、出前館、ウォルトのような専門の業者から、大手のハンバーガーショップやスーパーまでもがデリバリーサービスを行っている。</p>
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<p>20年春に、新型コロナの感染拡大によって、デリバリーサービスは急成長を遂げた。当初は需要が急増していたことに加え、コロナ禍で休業を余儀なくされた人たちが一時的に配達員をしていたことが多かったため、そこそこ稼げる職業というイメージがあった。</p>
<p>だが、そこから社会情勢が大きく変わったことで、配達員は必ずしも高収入を得られる職業ではなくなった。後に述べるような勝ち組と呼ばれるような人たちがいる一方で、生活困窮者が仕事の合間に行ったり、障害や病気などを持つ人たちがやむをえず行ったりするケースがあるのだ。</p>
<p>生活困窮者の支援事業を行っている団体に、一般社団法人「つくろい東京ファンド」がある。ここの新規事業部長を務める佐々木大志郎は次のように語る。</p>
<p><span class="strongInContent">「うちは長らく生活困窮している方への支援を行っていますが、コロナ禍がはじまった時からフードデリバリーの配達員の割合が多いなと感じていました。経験者や登録済のみの方を含めると、一時期は体感で緊急相談につながる方々の４割くらいを占める時がありました。</span></p>
<p><span class="strongInContent">現在でも配達員、あるいは過去に配達員だった人の割合は依然として高いままです。彼らがこの仕事を選んでいる理由は主に３つあると考えています。１つ目は登録さえ完了しておけば即日仕事ができるという点、２つ目がわずらわしい人間関係を避けられる点、３つ目が就労意欲を満たせる点です。これらの理由によって、生活に困っている人や、人間関係が苦手な人が、配達員の仕事に集まっているのかもしれません」</span></p>
<p>生活に困窮している人であれば、すぐにできる仕事に飛びつくし、対人関係を苦手とする人であれば、できるだけ他者とかかわらずに済む仕事を選びたがる。結果として、配達員における生活困窮者の割合が増えることは必然だろう。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="配達員が稼ぐための３つのメソッド"></div>
<figure id="attachment_272324" aria-describedby="caption-attachment-272324" style="width: 8416px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="42e95a43"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/aflo_177747723.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-272324" class="wp-caption-text">収入格差の大きいフードデリバリー（画像：ロイター／アフロ。写真はイメージで一部加工しています）</figcaption></figure>
<p>事実、今回の取材で出会った配達員の中にも、障害があって人とかかわることが苦手な人、刑務所に何度か入ったことにある人、うつ病で気分の波が日によって激しい人などがいた。彼らにしてみれば、「体調のいい時にだけ」、「人と深く関わらず」、「日銭を稼げる」仕事は大きなメリットなのだ。</p>
<p>ただし、念のために書いておくが、すべての配達員がこうした事情を抱えているわけではないし、生活に困窮しているわけではない。問題は、配達員が二極化しつつある点なのだ。つまり、月に30万円以上稼げるような成功者と呼べる層と、生きていくのにギリギリの収入しか得られない層の格差が広がっているのである。</p>
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<p>現在、配達員をしている勝沼泰司（仮名）はこう語る。</p>
<p><span class="strongInContent">「配達員で稼ぐには、稼ぐためのメソッド（やり方）があるんです。それをきちんと押さえれば、月に30万～40万円というのは決して夢じゃありません。でも、現実的にはそれを遂行することのハードルがとても高いんです」</span></p>
<h2>東京23区で需要のある地域</h2>
<p>配達員として高収入を得るためには何が必要なのか。</p>
<p>勝沼によれば、第一に必要なのが発注を数多く受けられる地域を見極めておさえる力だそうだ。東京23区に限っても、需要のある地域とそうでない地域がある。それを正確に把握し、仕事を的確に選び、効率よくさばいていくことが、仕事の回転率を上げる要素となるのだ。</p>
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<p>第二に重要なのが、流れを読むことだという。同じ地域であっても、曜日、天気、時間によって仕事の量はバラバラだ。それらに合わせて働かなければ、高い収入にはつながらない。</p>
<p>第三に挙げられるのが、乗り物や装備品だ。丈夫なロードバイクであれば、スピードはもちろん、パンクやチェーンが外れるなどのトラブルも少ない。あるいは、雨や雪など天候の変化に対応できる服装も欠かせない。体が資本なので、乗り物や装備品の性能が収入に影響を及ぼす。</p>
<p>ただし、配達員の中でこれだけの能力と装備を兼ね備えている者は決して多いわけではない。むしろ、低所得で苦しんでいる配達員は、そうした能力が乏しかったり、十分な乗り物や装備品をそろえられなかったりする傾向が高い。</p>
<p>勝沼は言う。</p>
<p><span class="strongInContent">「配達員で高収入を得られるくらいの能力があれば、別の仕事に就いて力を活かした方がずっといいと思います。だから稼げる人っていうのは、配達員の仕事を好きでやっているんです。最新のロードバイクとスマホを持ってどんどん仕事を受注することに生きがいを見いだしている。</span></p>
<p><span class="strongInContent">一方で、そうでない人は、壊れかけた中古のママチャリに乗って、携帯の電源を気にしながらノロノロと仕事をしている。服装も普段着なのですぐに体調を壊してしまう。これじゃ、銃を持っている相手に、水鉄砲で立ち向かうようなものですよ」</span></p>
<div data-friday-nextpage-lead="配達員ホームレスの生々しい肉声"></div>
<figure id="attachment_272325" aria-describedby="caption-attachment-272325" style="width: 8416px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="53a48a34"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/aflo_177733996.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-272325" class="wp-caption-text">収入格差の大きいフードデリバリー（画像：ロイター／アフロ。写真はイメージで一部加工しています）</figcaption></figure>
<p>実際に配達員の中でホームレス同然の暮らしを余儀なくされているのは、どのような人たちなのか。実例を示したい。</p>
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<p>〇34歳男性</p>
<p>黒岩俊（仮名）は、28歳の時にうつ病で正社員を辞めてから、派遣でホテルの宴会場の設営の仕事で食いつないでいた。だが、新型コロナの流行によって失業。なかなか仕事が見つからず、一時的なつなぎの仕事のつもりで配達員をはじめた。</p>
<p>量販店で売っていた数千円の自転車を買ってはじめたが、１ヵ月もするとチェーンが日に何度も外れるようになり、タイヤもくり返しパンクした。スマホも古く、マップがうまく立ち上がらないなどのトラブルが起きていた。</p>
<p>仕事の効率を良くしようと、俊はカードローンを利用してロードバイクや新しいスマホを購入した。元を取るためには、月に30万円以上稼がなくてはならない計算だったが、当初はうまくいく予定だった。</p>
<p>俊は深夜も仕事を得るために週６日は家に帰らず、ネットカフェで休憩しながら仕事を受注した。繁華街に拠点を置けば、24時間仕事を受けられるという考えだった。おかげで最初の月は目標の額に届いたが、体調を壊した。</p>
<p>彼の言葉である。</p>
<p><span class="strongInContent">「真冬でろくに睡眠もとらずに外で働いているんですから、体を壊すのは当然ですよね。それでも、休めば収入がなくなるので体に鞭打って働いていました。買ったばかりのスマホを落として壊したり、ネットカフェ以外にも洗濯代や外食代などがかんだりするので、稼ぎつづけなきゃならないんです。負のループに入っている感覚はありましたが、職がある以上は、がんばって何とかしなければならないという気持ちでした」</span></p>
<h2>仕事道具を盗まれた！</h2>
<figure id="attachment_272489" aria-describedby="caption-attachment-272489" style="width: 4491px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="3a247c53"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/aflo_180423399.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-272489" class="wp-caption-text">収入格差の大きいフードデリバリー（画像：ロイター／アフロ。写真はイメージで一部加工しています）</figcaption></figure>
<p>そんな中で、予期せぬことが起こる。夜に公衆トイレに入っていた時、ロードバイクや仕事道具を盗まれてしまったのだ。</p>
<p>もう一度買いそろえて再開するにしても、これ以上ローンを組むことはできない。そこで俊はほとんど帰っていなかったアパートを解約し、敷金や家具を売った金をそれに当てることにした。この場に及んでも、配達員の仕事さえつづければ、生活を立て直せるという気持ちがあった。</p>
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<p>俊はカプセルホテルやネットカフェを転々としながら働きつづけた。だが、４カ月後、ついに体が悲鳴を上げる。胃と肺に異常が見つかり、入院が必要となったのだ。だが、貯金はほとんどなかった。そこで病院から行政の相談窓口につながり、生活保護を受けて治療をしていくことになったのである。</p>
<p>取材の中で、黒岩俊は「配達員という職業についていたため、いつかは何とかなると思っていた」と語っていた。だが、生活や仕事の支出に収入が追い付かず、さらに体調を崩したことで、行きづまってしまった。生活困窮に陥る配達員には、こうしたケースが少なくない。</p>
<p>それでも男性の場合は女性と比べて、まだ安全面でのリスクは低いと言えるかもしれない。女性の場合は、こうした問題に加えて犯罪など様々なトラブルに巻き込まれるリスクがある。</p>
<p>その実例と、配達員の仕事のブラックな面については、【後編：31歳女性フードデリバリー「壮絶生活」】で詳しく述べたい。</p>
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<p>【<a href="https://friday.kodansha.co.jp/article/272215">後編：娘と困窮する31歳女性デリバリー「壮絶生活」</a>】</p>
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ロイター／アフロ　REX／アフロ

77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。

石井光太

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