学会で発表されて話題沸騰 中高年「リアルな性」レポート
SNS登録者数1万3000人の声を集め分析! 意外に多い「朝する派」、青春時代ではない「人生最高の絶頂」、 男女で異なる「行為中の悩み」ほか 生のデータでわかった隣の性事情
日本の中高年はどんなセックスをしているのか、あるいはしたいと思っているのか――様々なメディアで特集が組まれ報じられているが、″隣のリアルな性事情″はあくまでも個々の秘め事とされ、公(おおやけ)にされることはほとんどない。
そんな中、9月中旬の日本性機能学会第32回学術総会において発表された、あるレポートが医師の間で話題になった。タイトルは「人生100年時代を生きる日本人中高年の性事情」。
愛媛県の『富永ペインクリニック』で院長をつとめる富永喜代氏が、自らが主宰するFacebookのコミュニティで登録者に対するインターネット調査を行った。この分析データでは中高年のリアルな性事情が赤裸々に明かされていたのだ。登録者は30〜80歳代の日本人男女約1万3000人、承認待機者が約1万人もいる。
「医師が主宰するコミュニティサイトでは最大級で、セックスについて真面目に語り合う稀有な場です」(富永氏、以下同)
今回のレポートで公表されたのは、次の6問についての回答と分析だった。
Q1 あなたの人生最高のセックスは何歳のときでしたか?
Q2 あなたがセックスする時間帯はいつですか?
Q3 あなたはセックスで痛みを感じますか?
Q4 あなたが苦手(嫌い)なセックス体位は何ですか?
Q5 あなたが気になるセックスの悩みは何ですか?
Q6 大人の性交痛や腟萎縮を知っていましたか?
結果は大方の予想を大きく覆すものだった。FRIDAYが注目したのはQ2のセックスする時間帯だ。
最も多かったのは22〜24時なのだが、4〜6時、6〜9時と早朝から励んでいる人も多く、全体の4分の1は午前中にしていたのである。2番目に多い昼食後から昼下がりを加えると、半数近い人が太陽が高い昼間にイタしているのだ。
「朝勃ちを利用しているんです。『セックスは夜するもの』という常識を覆す、面白い結果だと思います」
なぜこういう結果になったのだろうか。
「テストステロンという性欲や、やる気に関係する男性ホルモンの分泌は朝に多いんです。さらにコロナ禍の影響もあるでしょう。在宅時間が増えて、子供が学校に行っている間など、″チャンス″が増えたのだと思われます。冷静に考えても、昼食を食べてセックスして、明るいうちにお風呂に入って夕飯を食べたら、一日がすごくラクなんですよ」
「人生最高のセックスはいつか(Q1)」のアンサーが青春時代ではなかったことも目からウロコだった。60代の男性登録者のこんな声が代表例だ。
「20代前半は6時間で12回したこともありましたが、今思えば完全にひとりよがりでした。60代で65歳の淑女とセックスしたとき、スローだけどお互いに快楽ポイントを外さない熟練の技の応酬で、経験したことのない絶頂を迎えることができた。″2回戦″でしたが、2人ともぐったりでした」
なぜ体力が低下した「今」が人生の絶頂だと感じるのか。富永氏が続ける。
「令和の中高年は元気な人が多いのも一因ですが、年齢を重ねるにつれてセックスのスキルが上がっているのが大きい。中高年になると勃起力が低下し、うまく勃たなくなる人もいますが、挿入を伴わないアウターセックスで前戯に時間をかけたり、時にはバイブレーターも使い、″中イキ″も″脳イキ″もして、精神的に満たされる人が増えているんです」
Q4の「苦手なセックスの体位」については、足腰に負担がかかるアクロバティックなものや立位系が上位にきた。
「アダルトビデオなどの影響で、変わったプレイが好まれるのかと思っていましたが、中高年は身体が硬くなっているのでM字開脚は痛いし、足腰が弱るので立位はふらついて危ない。そのため正常位や後背位などが好まれています」
Q5は男性に対する質問だ。最も多かった悩みは勃起障害(ED)・勃起不全。3位のセックスレス、4位のパートナー探しという悩みは、今の時代を象徴している。
「性の二極化が進んでいて、セックスをしている人はすごくしている一方、『妻に拒否されたらもう他に相手がいないからできない』という人も少なくない。SNSをうまく使いこなせずに、パートナー探しに悩む人が多いです」
Q6は気持ちいいはずのセックスを苦痛に転じさせる、痛みに関する質問だ。腟はセックスしなければ萎縮して、狭くなったり、挿入痛が生じたりするが、これらについて「知っていた」と回答したのは男性18%、女性31%と少なかった。
「セカンドバージン(最後のセックスから長い間、男性とセックスをしていない状態)でのセックスは本当に痛いのに、皆さん知らない。私は性交痛外来を開設しているのですが『子育てが終わったので久々にしてみようとしたら痛くて入らない』と慌てて受診する女性が非常に増えています。男女とも自転車に乗る感覚でいつでもセックスできると思っている人が多いのですが『していないとできなくなる』ことをもっと知ってほしいです」
Q3の「セックスで痛みを感じますか」という質問に対し、男性で20%、女性では61・5%と過半数が性交痛を抱えていることも見逃してはいけない。
「男性が痛みを感じる要因は、ペニスは加齢にともなって皮膚粘膜が薄くなるから。とくに糖尿病がある場合は顕著です。すると、若い頃のようなピストン運動はこすれて痛いんです」。充実したセックスのためには痛みのケアが不可欠だ。
人生100年時代を反映してセックス年齢も延びているが、満喫するにはそれなりに工夫や努力が必要なのだ。富永氏のコミュニティでは今、「秋冬のセックスの工夫」についての話題が大いに盛り上がっているという(表参照)。
「中高年のセックスには潤滑ローションが不可欠なのですが、回答を見てみると秋冬はお風呂に容器ごと浮かべて温めて、彼女がヒヤッとならないようにするんです。室温管理やお風呂も行き届いているという理由で、ラブホテルを上手に活用しているカップルも多いです」
前出のQ4から派生した「若いときに好んだ性交、中高年になって好む性交は何ですか?」に対する回答にも、中高年の身体的事情が反映されている。
「股関節やひざ関節が悪くなってくるので、立位だけでなく、屈曲位も減ります。回答にあった『対面立位・立位後背位・複数人プレイ→正常位・側位・交差位』のように、若い頃は過激さを好んだ人も、体力的に無理のないセックスを好むようになる。ただスキルは上がって、挿入以外の楽しみ方も増えるため『正常位・対面立位・立位後背位・後背位→正常位・騎乗位・側位・寝バック・交差位・その他』のような回答も見られました」
やりとりはいずれも率直で、他者への思いやりがある。「セックスの目的」を尋ねたスレッドでは「妻のために、もう一度チャレンジ」という答えもあれば「征服欲求」と回答する人もいた。
「女性たちからは『なんやそれー!』と引かれています(笑)」
富永氏は戦後8年目の日本人のデータも調査し、比較していた(Q7グラフ参照)。
「日本人は草食系であまりセックスはしないと思われていますが、私たちの親世代について調査した1953年当時のデータでは、『週の半分以上』または『ほぼ毎日』という新婚夫婦が、それぞれ30%以上もいました」
70年前の日本人は肉食系だったのだ。そう考えると、「60歳代の今、人生最高のセックスを楽しんでいる」人が多いというのも頷ける。この事実を知らないばかりに悩んだり、我慢したりしている人はきっと、少なくないのではないだろうか。富永氏がこう締めくくる。
「たとえば女性が性交痛について、婦人科や泌尿器科に相談すると、『年相応ですよ』『まだ(セックス)したいんですか?』と、まともに相手してもらえないことがあるようですが、それは医師が間違っています。こうした現状を正し、誰もが中高年になっても健康に楽しくセックスライフを送れるよう、これからもコミュニティの運営や情報発信に努めてまいりたいと思っています」
『FRIDAY』2022年11月11日号より
- 取材・文:木原洋美
- PHOTO:アフロ
医療ジャーナリスト
宮城県石巻市生まれ。大学在学中にコピーライターとして働き始め、20代後半で独立してフリーランスに。西武セゾングループ、松坂屋、東京電力、全労済、エーザイ等、ファッション、流通、環境保全から医療まで、幅広い分野のPRに関わる。’00年以降、軸足を医療分野にシフトし、「ドクターズガイド」(時事通信社)「週刊現代 日本が誇るトップドクターが明かす(シリーズ)」(講談社)「ダイヤモンドQ」(ダイヤモンド社)「プレジデントウーマン」(プレジデント社)等で、企画・取材・執筆を手掛けてきた。著書に「「がん」が生活習慣病になる日 遺伝子から線虫までーー早期発見時代はもう始まっている」(ダイヤモンド社)がある。2012年、「あたらす株式会社」を設立し、現在、代表取締役。