頻発する北朝鮮のミサイル発射…地下駅への避難で命を守れるのか? | FRIDAYデジタル

頻発する北朝鮮のミサイル発射…地下駅への避難で命を守れるのか?

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ミサイルの威力や着弾地点によっては生き埋めになる危険性あり!?

北朝鮮が異例のペースでミサイル発射を繰り返している。

去る10月4日には青森県の上空を通過し、岩手県から東へ約3200キロの太平洋に落下。北海道と青森県、誤報により東京都の島しょ部でJアラートの警告音が鳴り響き、スマホなどに建物の中や地下への避難を促す緊急速報メールが配信された。

SNSで「青森で地下とは?」「地下がないのに避難しろと言われても……」など青森在住者の投稿が相次いだようだが、ロシアによるウクライナ侵攻もあって地下駅を「緊急一時避難施設」に指定する自治体が相次ぐ。内閣官房によると、10月1日の時点でその数は全国で516駅まで増えている。

だが果たして、地下駅はミサイル攻撃に有効なのか?

「ミサイル攻撃の程度と逃げ込む地下駅の組み合わせによって助かる場合もあれば、かえって危険な場合もあるでしょうね」

こう話すのは弁護士の大前治さんだ。第2次世界大戦末期の空襲の被害者が国に対して損害賠償を求めた「大阪空襲訴訟」の弁護団員だった大前さんが、空襲時に地下鉄施設を避難場所に使用させないとした「防空法」に詳しいことから話を聞いた。

11月2日にも、北朝鮮が弾道ミサイルを3発発射。巡航ミサイルも含めると今年29回目だ。写真は、ソウル駅(写真;アフロ)
11月2日にも、北朝鮮が弾道ミサイルを3発発射。巡航ミサイルも含めると今年29回目だ。写真は、ソウル駅(写真;アフロ)

国民保護法は都道府県や政令指定都市に対し、武力攻撃を想定した避難施設を指定するよう定めており、今年に入って東京都や関西の各都市、札幌市、横浜市、福岡市などが地下鉄駅を指定。首都の東京は5月と9月に都営地下鉄と東京メトロ、私鉄を合わせ129駅を緊急一時避難施設とした。

ちなみに国は「地下施設(地下駅舎・地下街・地下道等)を重点的に指定推進」している。

「東京都の銀座線や丸ノ内線には、それほど深くない駅もあります。地上から浅い地下駅だと道路のすぐ下に避難することになり、ミサイルの威力や着弾地点によっては、道路が崩落して生き埋めになる危険性があります。 

階段の降り口の狭さも問題でしょう。Jアラートが鳴って誰もが我先に逃げ込もうとするとパニックになります。圧死事故さえ起きかねません。 

ミサイル着弾時の衝撃や爆風に耐え得るか計算して、居住人口や就労人口も算定したうえで避難場所として適切だから指定したというならまだしも、安全性や効果を個別に確認しないで決めているんです。指定された地下駅への避難が実効性のある対策だとは、とても言えないと思います」

地下駅はあくまで1~2時間程度の一時的な避難先であるため、当然、備蓄品なども配備されていない。

「食料の備蓄も電源もないですね。避難場所としての機能を何ら備えていません。にもかかわらず、政府は地下駅の指定を推進しているんです。本気で国民の生命を守るつもりがあるのか、はなはだ疑問を感じます」 

内閣官房国民保護ポータルサイトには「弾道ミサイル落下時の行動」について書かれているが、このサイトを目にしたことがある国民ははたしてどれだけいるか……
内閣官房国民保護ポータルサイトには「弾道ミサイル落下時の行動」について書かれているが、このサイトを目にしたことがある国民ははたしてどれだけいるか……

戦時中の日本は「空襲時に地下鉄駅に逃げるな、火を消せ」

ロシアによる侵攻で地下鉄駅に避難するウクライナ市民の姿が度々報道されているが、古い歴史を持つヨーロッパの地下鉄は戦争時の避難を想定してつくられたのだろうか。

大前さんは自身が運営する「戦時中の『防空法』情報サイト」で、戦時中のロンドンの地下鉄駅避難について触れている。

「第1次世界大戦の時から、ロンドンでは地下鉄駅が避難場所として活用されていました。ただし、あらかじめ空襲に耐え得る構造で地下鉄駅がつくられたという記録はありません。 

日本は戦時中どうだったか。1941年の日米開戦1か月前に、政府は帝国議会で『空襲時には地下鉄の駅や施設を避難場所に使わせない』という方針を表明しました」

その理由は「空襲後は身を挺して消火活動に当たらなければならないから、地下駅に逃げることは許されない」「空襲時は軍事や消防目的の輸送が優先されるため、国民一般の避難に使わせることは不可能」というものだった。

「戦時中の『大阪府防空計画』(1943年制定)は、夜中に空襲が始まると10分ごとに地下鉄を走らせるよう定めていました。ただしそれは、地下鉄を救助要員や物資の輸送に使うためであって、市民が駅構内に入ることは許されていませんでした。地下駅に逃げるな、火を消せ、と。 

1945年の米軍機による空襲で使われたのは主に、木造住宅を燃やすことを狙った焼夷弾です。地面に大きな穴を開けるほどの威力を持った爆弾は比較的少なかったので、地下駅に逃げることも十分意味があったと思います。でも当時は、『地下駅には逃げるな』という方針が取られました。 

今、北朝鮮から飛んでくるのは焼夷弾ではなくミサイルなんです。場合によっては地下駅が破壊されるかもしれないのに、安易に避難しろと言っている。戦時中と対策がまったく逆だけれども、政府が国民の安全を本気で守ろうとしていない点においては、80年前も今も変わっていないんです」 

帝国議会で政府が示した方針は1941年11月18日付の朝日新聞が1面で報じ、「空襲下における地下鉄避難行わず」の見出しが大きく踊った
帝国議会で政府が示した方針は1941年11月18日付の朝日新聞が1面で報じ、「空襲下における地下鉄避難行わず」の見出しが大きく踊った

危機感をあおる政府の行動から透けて見えるのは……

さらに大前さんは「国民の危機感をあおるような政府のやり方は問題」と指摘する。

「Jアラートも、国民の命や生活を守る総合的な避難計画のもとで運用されるのであれば意味があると思いますよ。ところが避難計画自体がそうなっていません。要するに政府は、国民の命を奪うようなミサイル危機、被害が起きるとは本気で思っていないんでしょう。 

だから、政府がJアラートを鳴らす目的は、国民を守ることではなく危機感をあおることだと思うんです。『日本はこのままでは危険だから、軍事費を2倍にしなければならない、憲法を変えて自衛隊を軍隊として位置づけなければならない』という方向に誘導する目的で。そういう思惑が透けて見える気がします」

今回のJアラート、最初に発令されたのは北朝鮮の弾道ミサイルが日本上空を通過した1~2分前。「逃げようがない」の声がSNSで相次いだのも当然かもしれない。80年前の戦争末期と変わらず、やはり日本政府の国民を守る意識は希薄ということか。

大前治(おおまえ・おさむ)弁護士。1970年京都府生まれ。大阪大学法学部卒業。鉄道会社勤務を経て2002年に弁護士登録(大阪弁護士会)。2015年より日本弁護士連合会立法対策センター事務局次長。大阪空襲訴訟では戦時中の国策を解明。共著に『大阪空襲訴訟は何を残したのか』(せせらぎ出版)、著書に『逃げるな、火を消せ――戦時下 トンデモ 防空法』(合同出版)など。

  • 取材・文斉藤さゆり

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