1973年生まれ。大手電機メーカー、出版社などを経て、06年から「週刊文春」記者に。現在はフリーランスのノンフィクションライターとして、経済事件、介護問題などの記事を執筆。著書に『実録ルポ 介護の裏』（文藝春秋）、『ルポ 超高級老人ホーム』（ダイヤモンド社）など

甚野 博則

<figure id="attachment_273349" aria-describedby="caption-attachment-273349" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="03048ee6"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/11/1c48a8f3891edf0707e39f3a43516463.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-273349" class="wp-caption-text">事件発生直後、現場周辺を調べる京都府警の捜査員たち。投入された捜査員の数はのべ26万人にのぼった（撮影：共同通信社）</figcaption></figure>
<p>スキンヘッドに褐色の肌。メガネの奥には鋭い眼光――。福岡刑務所から京都府警山科署に移送された男は、特定危険指定暴力団「工藤会」系組幹部・田中幸雄容疑者（56）。殺人容疑で逮捕された、いかにも凶暴そうな風貌の男を取材すると、意外な素顔が見えてきた。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>’13年に「餃子の王将」を展開する王将フードサービスの社長だった大東隆行さん（当時72）が射殺された事件で、田中容疑者が逮捕されたのは10月28日のこと。迷宮入りとも言われた事件が、約９年ぶりに動き出したのである。</p>
<p>工藤会の二次団体で、福岡県春日市を拠点とする石田組の幹部だった田中容疑者。彼が’08年１月、大手ゼネコン大林組の従業員らが乗った車を銃撃した事件の実行犯として、’19年に懲役10年の判決を受け、服役中の身であったことは既報の通りだ。</p>
<p>’15年12月、報道各社は一斉に、大東さん殺害現場近くにあった遺留品から、九州の暴力団関係者が浮上したことを伝えている。現場に棄てられたタバコの吸い殻のＤＮＡ型が服役中の田中容疑者のものと一致したのだ。この時点で一部メディアも田中容疑者の名前を把握しており、事件はすぐに解決するかに見えた。ところが、工藤会の拠点をカバーする福岡県警と京都府警の間で足並みが揃わなかった、と振り返るのは全国紙社会部記者だ。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p><span class="strongInContent">「’16年には、京都と福岡で合同捜査本部を立ち上げるという話になっていたものの、立ち消えになった。もちろん福岡県警が部屋を貸すことはあっても積極的に協力しなかったのは、府警に対する不信感があったから。捜査情報がマスコミに漏れる度に、『また京都が漏らしよった』と憤(いきどお)る幹部もいたほど。工藤会壊滅の〝頂上作戦〟を行っていた大事な時期に、府警の連中に工藤会周辺をかき回されたくないと漏らす捜査員もいました」</span></p>
<p>当然、捜査は難航するが、これまで「田中が近く逮捕される」との情報が報道各社の間を駆け巡ったことは何度かあった。</p>
<p><span class="strongInContent">「事件当日、田中が福岡のパチンコ店にいたのではないかとの話が持ち上がったこともあった。タバコの吸い殻を他の者が現場に持ち込んだ可能性も排除できなかったりと、結局、決定打がなく、逮捕には至らなかった」（前出・記者）</span></p>
<p>そうした中での今回の逮捕劇。当然、田中容疑者の素性にも注目が集まり、メディアは彼を、こんな風に報じている。「武闘派」「プロのヒットマン」「口が堅い暴力団幹部」。ところが――。田中容疑者をよく知る工藤会関係者の一人は、こう明かすのだ。</p>
<p><span class="strongInContent">「田中は身体も大きくなく、ニコニコした気のいい兄ちゃんで、武闘派でも何でもない。大きなシノギ（収入源）もなく、親分から小遣いを貰って生活していたような奴です。普段は親分の運転手など、お世話係をしていた。春日（石田組が拠点を置く福岡県春日市）で彼と会って『おう、何しよっと？』と話しかけたら、『今日は親分おらんから掃除ですよ』なんて、よく言うてました。<br>
石田組は、溝下さん（故・溝下秀男元総裁）がいた頃は力があった。石田（正雄）組長は、かつては溝下姓を名乗っていたくらいですから。しかし今、石田組の主要メンバーは工藤会で勢いのあるＯ組などに流れて行きよった。辞めた人間も多い。田中が本部長いうても、彼くらいしか組におらんのです。髪を伸ばしとった頃の田中は、頭のてっぺんが薄くて、いかにも人のよさそうな風体。昔は白縁のメガネをかけとって、『哀川翔みたいなメガネして』なんてイジっても、『いやいや、今これ流行っとるとですよ〜』なんて言いよったですもんね」</span></p>
<div data-friday-nextpage-lead="ヒットマンのタマじゃない"></div>
<h2>「そんなタマじゃない」</h2>
<p>さらに別の工藤会関係者も、田中容疑者についてこう証言する。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p><span class="strongInContent">「大学に行き、サラリーマン経験もあるインテリ。人の紹介で石田組に入ってきた。最初は集金係をしとったはずで、組が貸していたカネを回収したり、フロント企業の社長連中を集めてメシ会みたいなのをやっとったんですが、その集金役も田中がやっていた。田中には嫁がいると聞いたが一度も見たことがなく、女もおらんかった。時々、地元のスナックに仲間と遊びに出とって、偶然店で田中と会うたことがあった。女の子とちょっと話した後は、誰も知らんようなマニアックな演歌を歌っていました。親分にいつ呼び出されてもいいようにと、酒も飲まんのですよ」</span></p>
<p>そして、田中容疑者を知る彼らは、一様にこう口を揃えるのだった。</p>
<p><span class="strongInContent">「プロのヒットマンとかテレビで言うてましたが、悪い冗談にしか聞こえません。そんなタマじゃない。実行犯といっても実態はせいぜい見届け役くらいのもんやないですか。口が堅いも何も、詳しい事情を知らされていないだけやと思います」</span></p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>はたして事件は解決に向かうのか。福岡県警の関係者はこう首をかしげる。</p>
<p><span class="strongInContent">「正直、京都府警も危ない賭けに出たもんやと思っています。タバコの吸い殻を２本鑑定したところ、事件現場で田中が吸っていたものと推定できると判断されたとはいえ、それだけで公判維持できるんかと。現時点で、大東さんと田中の直接的な接点はない。そうした状況で、〝黒幕〟に辿(たど)りつけるのか」</span></p>
<p>一方、京都府警は会見で、組織的犯行の可能性を示唆する。警察が新証拠となり得るカードを切る日は近いのか。</p>
<figure id="attachment_273348" aria-describedby="caption-attachment-273348" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="47b41e8b"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/11/0d0e0ddfb2639dc4075ed20c64948caf.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-273348" class="wp-caption-text">10月29日、京都府警山科署に移送される田中容疑者。雑談には応じているが、事件については黙秘している</figcaption></figure>
<p>『FRIDAY』2022年11月18日号より</p>


甚野博則（ノンフィクションライター）

共同通信社　加藤 慶

「餃子の王将」大東社長が射殺された事件で、「工藤会」系組幹部・田中幸雄容疑者が逮捕された。早い時点で田中容疑者の名は浮上していたが、なぜこのタイミングなのか。また、彼の意外すぎる素性とは――。

餃子の王将社長射殺事件工藤会系ヒットマン「本当の素顔と評判」

あなたへのオススメ

関連記事