自殺ほう助犯罪続発の中…犯罪学者が考える自殺防止の手立て | FRIDAYデジタル

自殺ほう助犯罪続発の中…犯罪学者が考える自殺防止の手立て

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自殺願望者を思いとどまらせたい…ドクター・キリコの試み

後を絶たない自殺ほう助のニュースと、そのきっかけになったとされる自殺系サイトや心中掲示板。

2017年には、神奈川県座間市で、男がサイトで自殺願望者を探し、9人もの殺人を犯したという事件があった。一方、サイトで知り合った人に、「死にたい気持ちをしっかり聞いてくれて、自殺を思いとどまった」という人もいる。

札幌市で女子大生死体遺棄の容疑で男が逮捕されたが、この男と話して自殺を思いとどまったという女性の話も報道されている。彼が、自殺願望者を助けたいと思っていたのかどうかは不明だが、

「実際、自殺願望者を助けたいという人はいるんです。その一人がドクター・キリコ」

と言うのは、犯罪学者の小宮信夫氏。

ドクター・キリコ事件が起きたのは1998年。薬学関係に詳しく、インターネットの掲示板に書き込みにくる“自殺願望者”に対し“診察”と称して相談を受けていたという。

「今のやり方の元祖といっていいかもしれません。彼は、“いつでも死ねる”という状況を作ることで自殺を思いとどまらせることができるという理論のもとに、“保管委託”という名目で数人の女性に青酸カリを送っていました。 

ところが、そのうちの一人が送られた青酸カリを使って自殺してしまった。それによって事件が明るみに出て、結局送った男性も自殺してしまったわけですけど」

「いのちの電話」など相談できる機関はいろいろあるが、100人自殺したい人がいたら、その理由は100通り。100人全員に自殺を思いとどまらせるのは難しいと小宮氏は言う。

米カルフォルニア州で起こった一家無理心中。どんな理由で死を選んだにせよ、残された人は悲しい(写真:アフロ)
米カルフォルニア州で起こった一家無理心中。どんな理由で死を選んだにせよ、残された人は悲しい(写真:アフロ)

海外で自殺防止の手法として使われているメンタリングシステム

だからといって、虎視眈々と獲物を狙っている人のところに行くようになることを放っておいていいのだろうか。北海道の死体遺棄容疑で逮捕された男は、自殺願望者を募る書き込みを繰り返し行ったため、運営サイドがアカウントを消したこともあるようだが、

「『自殺したい人の相談にのります』という掲示板を見ても、それが善意からなのか、悪意からなのか、判断するのは難しいでしょう」

小宮氏はこう言う。では、救う手立てはないのか?

「海外には、若者の非行防止、自殺防止の手法として、メンタリングシステムというものがあります」

メンターとは、憧れの先輩、人生の師匠とも言われる存在。欧米ではメンター希望者を募ったり、リクルートして研修を受けてもらい、登録し、問題があると思われる子どもにつけるのだとか。勉強を教えたり、一緒にスポーツをしたり、映画を観に行ったりするなかで信頼関係を築いていくと、子どもが自然に悩みを相談するようになるという。

「『きみの周りの人が全部きみを嫌いになったり、敵になっても、僕だけはきみの味方だよ』と、承認欲求を満たしてあげる。そうすると、未来に希望がもてるようになるんです。今日より明日のほうがいいかもと思ったら、自殺はしません。非行にも走りません」

自殺と非行はコインの裏表。自分を殺すか、他人を殺すかの違いだという。

「人生を捨てたいという意味では、自殺も非行も同じなんです。大切なのは、自殺よりもいいことがあるかもと気づくこと。本人が『そうだったのか』と思わなければ意味がないんです」

メンターになっているのは会社員もいるし、主婦もいる。大学生も多いとか。

自殺した青酸宅配事件の男が開設したホームページ「ドクター・キリコの診察室」(写真:1998年・共同通信)
自殺した青酸宅配事件の男が開設したホームページ「ドクター・キリコの診察室」(写真:1998年・共同通信)

相談を待つのではなく、積極的にアクセスする

デジタル社会になった現代、ネット型のメンターでもいいのではないかと小宮氏は言う。

「たとえばオンライン上のゲームの中に相談できる家を作って、メンターとして訓練を受けた人のアバターや相談用チャットボットを置くとか。そういうところでちょっと話をするだけでも自殺をやめる可能性があるし、『その問題は〇〇の家のアバターが詳しいよ』など具体的な解決方法を教えてあげられれば、さらに効果はあがると思います」

相談に来るのを、待っているというシステムもよくないという。

「海外では、困っている人のところに自ら足を運ぶというのが基本的なスタンスです。アウトリーチと呼ばれています」

確かに、悪意をもっている人が、自殺願望者にアクセスすることができるなら、メンターを取りまとめている機関だって自殺願望者に声をかけることができる。

「そういう時間を作り出すためにはデジタル・トランスフォーメーションを進めること。紙の作業を減らせば、自殺願望者を見つける時間やじっくり相談する時間ができると思います」 

小宮信夫 立正大学教授(犯罪学)。社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。本田技研工業情報システム部、国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。第2種情報処理技術者(経済産業省)。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。

代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ――遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)、『犯罪は予測できる』(新潮新書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材、全国各地での講演も多数。

HPYouTube チャンネル「小宮信夫の犯罪学の部屋」はコチラ

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  • 取材・文中川いづみ

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