韓国だけじゃない…日本で”群衆雪崩”が発生するこれだけのリスク
立っていても押し潰される 韓国 ソウル市梨泰院「血のハロウィン」 150人超の命を奪った惨劇はあなたの身の回りでも起こりうる
「最初は混雑しているな――というくらいの感覚だったのが、次第に前に進めなくなり『この先の道で何かあったらしい』『戻れ!』という物々しい雰囲気に変わった。ところが、後ろから来る人に押し戻されて、状況は悪化するばかり。次第に左右からも圧迫され、痛みを感じるようになった。『転んだら踏み潰される』と恐怖がよぎり、転ばないよう、人を転ばせないように注意して通りの外に逃げた」(現場付近に居合わせた在韓日本人男性)
10月29日の夜、韓国ソウル市梨泰院(イテウォン)で起きた圧死事故は、日本人留学生2人を含む150人以上の命を奪った。およそ10万人が詰めかけたとされる”韓国の六本木”の土曜日は、悲鳴や怒号が飛び交う「血のハロウィン」と化した。
事故が起こったのは、地下鉄梨泰院駅がある表通りと飲食店街が連なる裏通りを繋ぐ幅3.2m、長さ40mの坂道。2本の通りから流れてくる人が坂道の両端に蓋をするような形になり、群衆は進むことも退くこともできなくなった。死傷者の大半が、わずか5坪ほどのスペースに集中していたという。彼らが巻き込まれたのは、”群衆雪崩(なだれ)”と呼ばれる現象だ。
防災・危機管理ジャーナリストの渡辺実氏がメカニズムを解説する。
「1㎡に10人以上が密集しているような状況だと、群衆雪崩が起こるリスクが高まります。それでも同じ方向に同じ速度で人が流れているぶんにはいいのですが、誰かがつまずいたり、方向を変えて移動しようとしたりすると、空いた隙間に圧力が向かって人が雪崩状に倒れていく。下敷きになった人は、百数十㎏という重量が身体にのしかかり、回避行動を取れないまま亡くなった可能性が高い」
背の低い女性や子供であれば、立ったままでも鼻や口が塞がれ窒息してしまう。’01年、犠牲者11人を出した兵庫県明石市の花火大会で起きた歩道橋事故では、ステンレス製の手すりが折れ曲がるほどの圧力がかかっていた。回避行動を取る余裕は少しもなかったのだ。
明石の例を見れば、群衆雪崩は日本のあらゆる場所で起こりうることがわかる。とくにこの年末年始は久々にイベントの本格開催が相次ぎ、例年以上の人出が予想される。人混みや満員電車に慣れた日本人は危機感が薄くなりがちで、より一層リスクが増すという。
どのような場所が危ないのか。危機管理アドバイザーの国崎信江氏は言う。
「世界的に群衆雪崩が起きやすいのは、スタジアムです。スポーツや音楽のイベントが開催されると、出入り口や狭い通路に群衆が殺到し、押し合いになってしまう。構造的には、横に逃げる抜け道がない場所も危険です。梨泰院のケースは、細い道でかつ横がホテルの壁になっていて、逃げるスペースがなかったのも災いしたとみられます」
年末年始は、恒例のカウントダウンライブやスポーツ興行が各地で開催される。毎年のことと思って油断していると、群集雪崩の危険性が俄(にわ)かに浮上する。より身近な場所はどうだろうか。たとえば、梨泰院と同じくハロウィンでごった返したJR渋谷駅の、山手線ホームに上がる階段。横に逃げ場のない階段で乗車客と降車客の流れがぶつかってしまうと、群衆雪崩の発生リスクは上がる。また、砂利道や石畳、階段に参拝客が殺到する神社も、初詣の時期は人混みに気を取られ、転倒してしまう危険がある。
梨泰院のケースがそうだったように、一度群衆雪崩が発生すると、あまりの圧力で外からの救助は困難を極める。
混み合った場所には近づかないのが大前提だが、万が一に備えるにはどうすればいいのか。前出・国崎氏は言う。
「バッグを前に抱えて、自分のスペースを確保するといった機転が重要です。立ったまま押し潰されて亡くなる、それが群衆雪崩のいちばん怖いところですから」
自分だけは大丈夫という「正常性バイアス」が、梨泰院のような悲劇を招く。この年末年始は注意が必要だ。


『FRIDAY』2022年11月18日号より
PHOTO:アフロ 『ゆっくりJKRチャンネル』より(3枚目)