<p>〈「最期まで面倒を見てくれた○○に全財産を譲る」という遺言。テレビや小説でありがちな遺言で、それを聞いたほかの相続人は反省し、遺産をあきらめるという流れになることが多いが、実際にこのような遺言が死後初めて発覚した場合、相続トラブルは避けられない。</p>
<p>今回は、相続税専門の税理士である岡野雄志税理士が「長女に全財産を相続させる」と記された「終活ノート」が発端で発生した相続争いについて解説する〉</p>
<figure id="attachment_274076" aria-describedby="caption-attachment-274076" style="width: 5616px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="df76fcd5"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/11/aflo_20205747.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-274076" class="wp-caption-text">（写真はイメージです/アフロ）</figcaption></figure>
<p>年老いた両親のどちらかが亡くなった時、ひとり暮らしになった親の面倒を誰がみるか。いつかはその日が来るだろうと覚悟はしていても、片方の親が病気や認知症になってからあわてる人も多いだろう。</p>
<p>子どもの誰かが同居や近居していればいいが、全員自立して親とは離れて暮らし、仕事や家庭を持っていれば、頭を悩ませることになる。</p>
<p>今回のA家のケースでは、父親亡き後、長女が離婚して実家に戻っていた。長女の上には長男と次男がいたが、いずれも都会で就職し、結婚している。母親は末っ子で待望の女児として生まれてきた長女を溺愛していたため、一緒に暮らせることを喜んだ。また、兄たちも妹が高齢の母と暮らすことをありがたがっていた。</p>
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<p>やがて母親も病気になり、長女に数年介護された後に亡くなった。葬儀が終わり、母親の持ち物を整理しているとタンスから「終活ノート」が出てきた。そのノートには「自宅と財産のすべてを長女に相続させる」と記されていたのである。</p>
<p>心情的には、母親を最期まで世話してきた娘なのだから、当然のようにも思える。ところが、なかなかそうは問屋が卸さないのが相続である。長男と次男がこの母の遺言に猛反発。長女vs.長男＆次男の“争族”に発展してしまった。</p>
<h3>残念ながら「終活ノート」には法的効力はない</h3>
<p>誰しも自分がこの世を去った時のことを考えるのは辛い。「自分の死んだ後のことなんて知ったことではない。家族で何とかしろ」という人もいるかもしれない。しかし、遺言は自分の人生にきちんと句読点を打つ行為だ。遺言がないと、相続人はその人の意思がわからない。</p>
<p>その点、A家の母親は「終活ノート」で自分の意思を明確にし、自らの人生の後始末の希望を記した。見習うべき行為だ。「終活ノート」があれば、遺された家族は母親にどんな財産があったか知ることができるし、それを参考に遺産配分について相続人同士で話し合うことができる。</p>
<p>ただ、この母親の遺言の残し方には、2つほど“争族”に発展しかねない点がある。1つは、「終活ノート」には法的効力がないという点だ。つまり、相続人は「終活ノート」の内容に従わなくても、法的には何ら問題はないということである。</p>
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<div data-friday-nextpage-lead="終活ノートで引き裂かれた兄妹の絆"></div>
<p>相続人が遺産分割を行うには、被相続人（財産を残して亡くなった方）の遺言書に従う方法と、遺産分割協議によって相続人全員で話し合うという方法があるが、法定通りに書かれた遺言書は遺産分割協議に優先される。法定通りに書かれた遺言書とは、一般的には以下の3種類となる。</p>
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<p>１．自筆証書遺言<br>
遺言者が自ら紙にペンで書く遺言書である。現在は多くの公的書類が押印不要になっているが、自筆証書遺言には遺言全文・日付・氏名を自書し、押印しなければ、法的効力が認められない。通常、財産目録を添付するが、2019年からパソコン等で財産目録を作成できるようになった。</p>
<p>また、相続発生の際、自筆証書遺言が発見されたら開封せずに速やかに家庭裁判所へ提出し、検認を受けなければいけない。ただし、2020年から法務局で保管してもらえる制度ができ、被相続人が法務局に預けた自筆証書遺言は検認を省略できる。</p>
<p>２．公正証書遺言<br>
公証役場で公証人に作成してもらう遺言書で、公証人が遺言者の述べる遺言内容を口述筆記し、その際、2人以上の証人が立ち会う必要がある。公証役場に相談すれば証人を紹介してもらうこともできる。公正証書遺言の原本は公証役場で原則20年間保管され、日本公証人連合会による「検索システム」もある。相続発生の際、家庭裁判所による検認も必要としない。</p>
<p>３．秘密証書遺言<br>
その名の通り、遺言内容は秘密にしたままその存在だけを公証役場で証明してもらう遺言書のこと。存在証明には公証人と2人以上の証人が必要。秘密証書遺言も日本公証人連合会による「検索システム」で探すことはできるが、本人が保管できるので、その存在自体が発見しにくい。相続発生の際は、家庭裁判所による検認が必要。</p>
<h3>相続人には「法定相続分」と「遺留分」がある</h3>
<p>もちろん、法的効力はなくても、「終活ノート」の内容通りに相続が行われる場合はある。遺産分割協議で、相続人全員が「終活ノート」の遺言内容に従おうと意見が一致すれば、そうなる。</p>
<p>しかし、A家の場合はそうはいかなかった。悪いことに、父親の相続の際も「妻に全財産を相続させる」という遺言が残されていて、母親の今後を考えて長女含め子ども全員、相続放棄していた。長男や次男にしてみれば、今回も放棄させられるなんてとんでもない！と不満が噴出したのだ。</p>
<p>A家のケースで“争族” に発展しやすい２点目は、「ひとりの相続人に全財産を相続させる」と遺言してしまったことだ。母親としては娘を守るつもりだったのかもしれないが、それがかえって仇となり、兄妹間に争いを生んでしまった。</p>
<p>なぜなら、民法では、「相続順位」と「法定相続分」というものが定められている。配偶者（夫または妻）は常に相続人となり、そのほかの「相続順位」と「法定相続分」は以下の通り。第１順位の者がいれば、第２順位の者は相続できない。</p>
<p>配偶者と子どもがいれば、「法定相続分」は配偶者が全相続財産の1/2、残り1/2を子どもたちで等分に分配する。A家の場合は配偶者がすでに亡くなっているので、「法定相続分」に従えば、全相続財産を３人の子どもで1/3ずつ分けることになる。</p>
<p>では、母親が「終活ノート」ではなく、法定通りの遺言証書を残していれば、兄妹は揉めなかっただろうか？　残念ながら、その場合でも揉め事は起こり得る。母親の遺言書通りに長女が遺産を独占するなら、それに対して兄たちは「遺留分侵害請求」することができる。</p>
<p>「遺留分」とは「強制相続分」とも言い、法律で最低限保障されている法定相続人の遺産取得分のことだ。相続人が子どものみの場合、遺留分権利者全員に割り当てられる「総体的遺留分」は遺産全体の1/2となり、これに法定相続分を掛け算して各相続人の「個別的遺留分」を計算する。</p>
<p>A家の兄妹は1/2×1/3で、各々の「遺留分」は相続財産総額の1/6となる。もしも、母の遺言が有効であったとしても、当事者間の話し合いで妹が全遺産を相続することを兄たちが納得しなければ、長男と次男はこの「遺留分」を侵害されたとして裁判所に訴え出ることもできるのだ。</p>
<p>「すべて国民は、法の下に平等であって」と日本国憲法にもあるように、遺産が平等に法定相続人へ渡るよう「法定相続分」や「遺留分」が法で定められている。可愛い子に“争族”の憂き目をさせたくないが故の「その子だけに相続を」との遺言が、かえって逆効果になる場合もあるのだ。</p>
<p>A家の兄妹はまだ揉めている最中だが、相続税の申告・納税期限は相続発生から10カ月以内。相続財産総額が（3,000万円＋600万円×法定相続人の数）の基礎控除額を超えるなら、遺産分割協議が決着しなくても、法定相続分で分割したと仮定していったん相続税を納めることになる。</p>
<p>兄たちは「法定相続分」で遺産分割することを主張している。それには、母が残した預貯金や生命保険では足りず、妹は家族の思い出がつまった実家を売却。その後は古いワンルームマンションに住むことになった。仲のいい兄弟だったが、今回の件でほぼ絶縁状態になってしまったという。</p>
<p>このようなことにならないためにも、遺言書を書く前に弁護士や税理士への相談と子どもとの話し合いがかかせない。</p>
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<p>&nbsp;</p>
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<p>岡野雄志　1971年、千葉県生まれ。早稲田大学商学部卒業。相続税専門の税理士。岡野相続税理士法人（<a href="https://www.souzoku-zei.jp/" target="_blank" rel="noopener noreferrer">https://www.souzoku-zei.jp/</a>）代表社員。2005年、新横浜駅近に事務所開設。‘22年に法人化し、東京駅近くにも支店事務所を開設。特に土地の評価を得意とし、手がけてきた相続案件は全国各地で累計3,000件以上。著書に『自分で相続税の申告ができる本』（幻冬舎メディアコンサルティング）、『土地評価を見直せば相続税はビックリするほど安くなる』（あさ出版）など。</p>
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〈「最期まで面倒を見てくれた○○に全財産を譲る」という遺言。テレビや小説でありがちな遺言で、それを聞いたほかの相続人は反省し、遺産をあきらめるという流れになることが多いが、実際にこのような遺言が死後初

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