日本代表シュミット・ダニエル 「川島さんになくて僕にあるもの」 | FRIDAYデジタル

日本代表シュミット・ダニエル 「川島さんになくて僕にあるもの」

スペシャルインタビュー サッカー日本代表GK 197㎝の長身と元ボランチのスキルを活かしたフィードプレーが森保ジャパンの攻守をレベルアップする ついに覚醒したワールドクラスの守護神

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9月27日のエクアドル戦、0-0で迎えた後半35分に迎えたPKを見事にキャッチ。CKのピンチも何度も防いだ(写真:渡辺航滋)
9月27日のエクアドル戦、0-0で迎えた後半35分に迎えたPKを見事にキャッチ。CKのピンチも何度も防いだ(写真:渡辺航滋)

カタールW杯開幕が目前に迫ってきた。直近の強化試合で最も存在感を示したのは、GKのシュミット・ダニエル(30)だ。9月27日のエクアドル戦で、前半37分にミドルシュートを防ぎ、後半35分にはPKも止めてみせた。同40分に放たれたヘディングシュートもセーブした。

W杯アジア予選では権田修一(33)が正GKを務めたが、この試合でのシュミットのパフォーマンスは鬼気迫るものがあった。

「自分の手が届く範囲にボールがきてくれた。僕の気持ちが引き寄せたのだと思います。試合中はずっと集中し、ゲームに入り続けることを意識していました」

件(くだん)のPKも「自ら仕掛けてボールを引き寄せた」と言う。

「蹴られる前にゴールライン上で右に左にと動いて、相手の気持ちを揺さぶるというか、集中を妨げるように持っていきました。そしてキッカーの顔をじっと見てプレッシャーをかけたのです」

代表11キャップにして、「ベストパフォーマンスを見せられた」とシュミットは手応えを感じている。守備範囲の広さを海外メディアが褒め称えたが、当人は課題を冷静に見つめている。

「コーナーキックに苦戦した場面がありました。相手選手と接触してボールをキャッチし損ねたり、パンチングの距離が出なかったりした局面があった。ただ、僕は『ゴールエリアの中にあげられたボールはすべて弾き出す』というイメージを相手に植え付けたかったので、『守備範囲が広い』と評価してもらえたのは嬉しいですね」

’92年生まれのシュミットが初めて目にしたW杯は’02年の日韓大会だった。サッカーを始めた当初はフィールドプレーヤーで、高校からGKとなった。彼の197cmというサイズとポテンシャルにいち早く目を付けた中央大学に進学するも、レギュラーに定着したのは4年次。筆者がシュミットと知り合ったのはこの頃だった。さいたま市にある施設「プラザイースト」で、障害を抱えた児童と中央大学卒業を間近に控えたシュミットら5選手が交流する場を設けたのだ。

シュミットは柔らかなゴムのボールで放たれるシュートを受け、あるいはゴールさせたりして、児童を笑顔にした。車椅子に座る子には自ら近付いてボールに触らせて励まし、ハイタッチを繰り返した。児童たちも、その保護者も、介護施設のスタッフも、ほんの数分で心が通った。何名かは目を真っ赤にしていた。シュミットに将来の目標を訊ねると「W杯出場」と答えた。

彼がベガルタ仙台で正GKの座を掴んだのは4シーズン目。3年間はJ2のチームにレンタル移籍をくり返して研鑽を積んだ。口ぐせは「自分は雑草です」だ。

御存知のようにカタールW杯アジア予選でのシュミットは権田修一、川島永嗣(39)とポジション争いを続けてきた。

「川島選手は、日本の全GKからリスペクトされるべきことをやってきた人です。W杯3大会に出場し、海外の様々なチームでプレーし続けています。僕もステップアップのためにシント=トロイデンVVに移籍しましたが、ヨーロッパ内でオファーを受けるのはとても難しい。それを川島さんはずっとやってのけている。代表でも、ちょっと空気が緩んだりすると、場を引き締めてくれます。シュート練習でも、体を張って止めるセーブが多い。彼の姿勢に学ぶことばかりです。毎回『この人は凄いな』と思わされますよ。ライバルですが、憧れの男です。 ユースのころから日の丸を背負っている権田選手に経験では勝てません。シュートを止める能力も高いし、キックも狙ったところに正確に蹴ることができる。総合的にレベルの高いGKだと感じます。一番の武器は『○○のプレーをするためには、××の準備をしなければいけない』という組み立て方をしっかり持っていること。僕はそこが足りない」

ライバル二人になくて、シュミットにあるもの。それは「伸びしろ」だ。

川島より10㎝以上も大きいサイズを生かしたハイボールの強さ、守備範囲の広さが目を引くが、高校までボランチだったシュミットは長短自在に蹴り分けられるキックも大きな武器となる。GKを起点としたカウンターなど、攻撃参加できる”ボールを持てる守護神”として代表チームで信頼を得ている。

「お前は30歳からが勝負だ」

シュミットの才能を見抜いてスカウトした中央大学の佐藤健チームダイレクター(63)の言葉通り、30にしていよいよ、開花の時を迎えつつあるのだ。

「シュートストップはもっと反応を速く、より多く止められるようにならなければ。それが出来ないうちは、世界のトップで勝負する選手にはなれないでしょう」

シュミットは謙遜しつつも、W杯グループリーグで対戦するドイツ、コスタリカ、スペインら強豪国を「勝てない相手ではない」と見ている。

「ドイツ戦で最低でも勝ち点1は取りたいですね。ドイツはボールを繫いで支配してくると思います。先日(9月24日)、ドイツは強化試合でハンガリーに0-1で敗れました。自陣に押し込まれて、カウンターで決定機を生み出すシーンが多くなるように感じます。 2戦目のコスタリカも強いでしょうが、ここに勝てなければベスト8には行けない。スペイン戦の前に決めたいですね。スペインはドイツ以上に相手にボールを持たれる展開になると予想されますが、どの試合も粘って粘って勝利という内容になるんじゃないでしょうか」

長らく手本にしてきたドイツ代表GKのマルク=アンドレ・テア・シュテーゲン(30)との対戦も心待ちにしている。

「僕がいいパフォーマンスを発揮して彼らに勝つことができたら計り知れない自信になるでしょうし、そうしなくてはいけない。もし勝てたら、彼の動画は見なくなるんじゃないですか(笑)。更なる上が見えてくるでしょうから」

シュミットの覚醒が、ニッポンの悲願「ベスト8」をグッと引き寄せそうだ。

「憧れの男」川島(左)も’10年の南アW杯直前まで控えだったが、親善試合で好セーブを連発して正GKに。シュミットも続けるか
「憧れの男」川島(左)も’10年の南アW杯直前まで控えだったが、親善試合で好セーブを連発して正GKに。シュミットも続けるか
  • 取材・文林 壮一

    ノンフィクション作家

  • 写真渡辺航滋

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