遺伝子で読み解く「食べ過ぎ&快眠率」が最も高い意外な県
「食べ過ぎる人」が多い出身地は日本海側の西日本エリア?
「食べ過ぎてしまう傾向が高めの遺伝子タイプが多い出生地」「よく眠れる遺伝子タイプが多い都道府県」「お酒に強い遺伝子タイプが多い都道府県」…。遺伝子解析サービス「ユーグレナ・マイヘルス」のゲノムデータをもとにユニークなランキングを発表している株式会社ユーグレナ。
このデータによると、山梨県生まれの人の24.26%、およそ4人に1人が食べ過ぎてしまう傾向が高めのタイプで、奈良県民の72.42%、およそ4人に3人がよく眠れるタイプであるという。
なぜこんなことがわかるのか。
「今、世界中で遺伝子の研究が行われており、どんな遺伝子がどのようなことに関わっているのか、いろいろわかってきています。その研究論文をもとに、当社の遺伝子解析サービスを利用してくださっている方の検査結果を照らし合わせてランキングを出しています」
と言うのは、株式会社ユーグレナ「ユーグレナ・マイヘルス」担当ディレクターの岩田修さん。
たとえば「SNP:rs1726866」という遺伝子は食事に対する自制力があり、その中で遺伝子型がTTであれば「食べ過ぎの傾向が高め」、遺伝子型がCTであれば「食べ過ぎの傾向が一般的」、CCであれば「食べ過ぎの傾向が低め」なのだそう。
ユーグレナ社が提供している遺伝子解析サービス「ユーグレナ・マイヘルス」では、なんと、たった2㎖の唾液で、高血圧症や脳卒中、脳動脈瘤など100以上の病気のなりやすさのほか、栄養や食習慣で気をつけたいこと、適した運動やダイエット、体質など200以上のことがわかるという。
なかには、「尿内のアスパラガス臭をかぎ分ける能力」があるかないか、ニンジンをたくさん食べるとやせやすいかどうかをみる「ニンジンの摂取頻度とBMI」などという項目もある。そんな研究をしている人がいるのだ。
「ヒトはさまざまな遺伝情報を持って生まれてきます。その長さは30億塩基対。そのうち99.9%は、みんな同じなんです。0.1%の部分で、顔かたちをはじめ、体質など、さまざまな差が生まれるんです」(岩田修さん・以下同)
「コーヒーが好きな遺伝子タイプ」が多い都道府県には、喫茶店が多い
それにしても、奈良県にぐっすり眠れるタイプの人が多くて、山梨県出身者が食べ過ぎてしまうタイプの人が多いのはどういうわけだろうか?
「理由が類推できるものと、できないものがあります。よく眠れる遺伝子タイプが奈良県に多い理由や、食べ過ぎてしまう遺伝子タイプが山梨県出身者に多い理由はわかりません。
けれど、『お酒に強い遺伝子タイプ』を持つ方は東北地方に多くて、中部地方には少ない理由は、ある程度類推できます。
というのは、もともと日本に住んでいた方は、お酒に強い方ばかりでしたが、大陸のほうからお酒に弱い方が移り住んできた。そのため、大陸から入ってきた人との交流が進んだ地域の方はお酒に弱いと考えられます」
面白いのは「お酒に強い遺伝子タイプ」と、「魚を多く食べる遺伝子タイプ」の都道府県ランキングがほぼ一致していること。
「お酒に関連する遺伝子と、魚に関連する遺伝子は近くにあって、お酒に強い人は、たいてい魚をよく食べる遺伝子をもっているんです」
なんだか、不思議だ。
遺伝子がなせるわざなのかどうか、「コーヒーが好きな遺伝子タイプ」が多い都道府県ベスト10に入っている愛知県、福井県、岐阜県は、人口1万人あたりの喫茶店の都道府県ランキングベスト10にも入っている。コーヒー好きの遺伝子が、喫茶店を欲しているのかもしれない。
遺伝子解析は、天気予報のようなもの
そもそも、このような都道府県ランキングを発表しているのは、「遺伝子解析に関心をもってほしかったから」。自分がどのような遺伝子を持っているのかわかれば、日常生活に役立てることができると、岩田さんは言う。
「たとえば私の場合、ビタミンDが不足しやすいという結果が出ました。なので、今はビタミンDを多く含むシイタケやサケを積極的に摂るようにしています」
ダイエットを効果的にする方法も遺伝子タイプでわかるのだとか。
「ダイエットのためには糖質制限や、脂質制限がありますが、脂質代謝が悪い人は脂質制限したほうが効果が上がるし、糖質代謝が悪ければ、糖質制限したほうが効果が上がる。そんな利用の仕方もできます」
しかし、なんといっても遺伝子タイプで気になるのは“病気のなりやすさ”だ。「糖尿病になりやすい」という遺伝子タイプだったら、確実に糖尿病になってしまうのだろうか。
「すべて遺伝子で決まるわけではありません。遺伝で決まるのは、だいたい3割くらい。あとの7割は環境で決まります。
たとえ糖尿病になりやすい遺伝子を持っていたとしても、食生活に気をつけ、適度な運動を続けていれば、予防できます。逆に、糖尿病になりやすい遺伝子を持っていなくても、暴飲暴食や不摂生な生活を送っていれば、病気になってしまう可能性があります」
朝型か夜型かも遺伝子タイプでわかるそうだが、岩田さんは検査の結果「夜型」。
「でも、私自身は朝のほうが仕事がはかどるんです。家族がみんな早起きで、小さいころから早起きが習慣になっている。環境が朝型にしたんだと思います」
よく眠れる遺伝子タイプだとしても、ストレスが多ければ、熟睡しづらくなることもあるのだ。
「遺伝子解析は、天気予報のようなもの。雨が降るという予報が出たら、傘を持ってでかけますよね。それと同じように、こんな病気になりやすいということがわかれば、予防もできる。将来的には、認知症予防の専門家と連携して、認知症のリスクと、その予防策を提供したいと考えています」
知っているようで、実はあまりわかっていない自分のこと。遺伝子タイプを知ることは、自分を理解する一助になるのかもしれない。
- 取材・文:中川いづみ
ライター
東京都生まれ。フリーライターとして講談社、小学館、PHP研究所などの雑誌や書籍を手がける。携わった書籍は『近藤典子の片づく』寸法図鑑』(講談社)、『片付けが生んだ奇跡』(小学館)、『車いすのダンサー』(PHP研究所)など。