1975年生まれ。大学卒業後、編集プロダクション、レシピ本の出版社勤務を経て、2005年にフリーランスの記者になる。㈱柴田書店発行の飲食店経営誌「月刊食堂」の記者として15年以上にわたり、大手、中堅の外食企業や話題の繁盛店などを取材してきた。地味だけど堅実なチェーンモデルとして注目しているのは埼玉県下を中心に店舗網を拡げている「ぎょうざの満洲」

栗田 利之

<figure id="attachment_276622" aria-describedby="caption-attachment-276622" style="width: 2037px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="27b7dacd"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/11/7aede3df361eda6cf5b4c2e80e8df2e8.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-276622" class="wp-caption-text">台湾版のホームページを見ると、「元氣早餐」（モーニング）が提供されていることがわかる/公式HPより</figcaption></figure>
「モスバーガー」は言わずと知れた日本のハンバーガーチェーンだが、日本以上にモスバーガーを愛する国・地域があることをご存知だろうか？それは、台湾だ。
㈱モスフードサービスが発表した2022年９月末時点におけるモスバーガーの国・地域別店数は日本の1259店に対し、台湾は300店に達している。台湾の人口は2356万人で、日本のおよそ５分の１。台湾の店数を日本の人口に換算すると1599店になり、日本国内の店数を大きく上回るのだ。
台湾でモスバーガーは「摩斯漢堡」と表記され、その１号店のオープンは1991年に遡るが、スタートから順風満帆だったというわけではない。進出後８年間の出店数はわずか20店。「マクドナルド」や「バーガーキング」などのグローバルチェーンと異なり、海外におけるブランド認知度はほとんどなかったため、我慢の時期が続いたのだ。
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だが、厳しい状況下にあっても、その後の台湾マーケットの攻略につながる施策を’93年に相次いで打ち出している。ひとつは朝食メニューの導入だ。「元氣早餐」と表記される台湾モスバーガーの朝食メニューは品揃えがかなり充実している。
公式HPをチェックすると、’22年11月時点における朝食メニューはハンバーグ、サンドイッチ、ライスバーガーなど18品をラインアップし、価格は単品40～85台湾ドル（約180～380円）、セット65～110台湾ドル（約290～495円）。その中で20年近くにわたるロングヒットメニューになっているのがハムオムレツバーガー（単品価格45台湾ドル）だ。
朝食メニューとしてオムレツを使用したハンバーガーとサンドイッチだけで計６品を用意しているが、これは台湾モスバーガーのオリジナルメニューである。オムレツは各店で調理しているが、品質を均一に保つにはスタッフに調理技術が求められる。
そのため、ファストフードチェーンで導入するメニューとしては難易度が高いのだが、台湾モスバーガーは人材育成の仕組みによってその難問をクリアしたのだ。もともと台湾は朝食の外食比率が高く、そうしたニーズを捉えることによって台湾のモスバーガーは売上げの３割を朝食だけで稼いでいる。台北市内のモスバーガーなどでは朝食メニューを店頭販売しているが、平日８時台には通勤途中のオフィスワーカーによって連日行列ができるほどの人気ぶりだ。
ちなみに日本のモスバーガーでもコロナ禍による生活環境の変化に合わせて’22年３月に「朝モス」をスタートしているが、’93年にも朝食メニューを採り入れていた。実は台湾の朝食メニューは日本のモスバーガーに足並みを揃えるようにして導入されたものだったのだが、日本では鳴かず飛ばずですぐにメニューから消え、台湾のみで定着したという点もユニークだ。
<div data-friday-nextpage-lead="ハンバーガーメニューの４割がライスバーガー"></div>
モスバーガーが台湾で大成功したもうひとつのきっかけになったのが、ライスバーガーの導入だ。ご存じの通り、ライスバーガーはプレート状に成形したごはんをバンズ代わりに用いたモスバーガーのオリジナルバーガーであり、日本ではグランドメニューとして「モスライスバーガー焼肉」（450円）と「モスライスバーガー海鮮かきあげ」（400円）の２品を揃えている。台湾でも’93年にメニューに加わったが、これが想定を上回る大ヒットとなった。とくに評判がよかったのが焼肉のライスバーガーで、この商品は常に売り上げ上位をキープしている。
モスバーガーが進出当初に苦戦したのは、主力商品であるハンバーガーがあまり受け入れられなかったことも要因のひとつだった。台湾ではもともとハンバーグなど挽肉を用いた商品があまり好まれない。また、モスバーガーは大ぶりなトマトとたっぷりのレタスをサンドしているのが売りだったが、進出当時は台湾に生野菜を食べる習慣がそれほどなかった。
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焼肉をサンドしたライスバーガーは、そうしたモスバーガーのウイークポイントをカバーするとともに、日本発のハンバーガーチェーンとしての独自性のアピールにもつながったわけだ。ライスバーガーはモスバーガーの看板メニューとして知られるようになり、いまではハンバーガー26品のうち、11品がライスバーガーで占められている。
朝食マーケットの掘り起こしとライスバーガーという看板メニューの獲得により、モスバーガーはハンバーガーチェーンとして台湾の外食マーケットで独自のポジションを確立。そして、2000年代に入ると出店を加速しはじめ、’04年に100店、’11年に200店突破を果たしたのだ。
外食チェーンが海外進出する際、その国・地域の食文化やマーケットに合わせてどうチェーンをローカライズするかが成否の大きな鍵を握っている。過去にはローカライズし過ぎたことでブランドの独自性を喪失した失敗例も少なくないが、台湾のモスバーガーはローカライズによってその独自性がより強化された成功例だ。ライスバーガーを看板商品としたメニュー戦略は、その後のシンガポール、香港、タイ、韓国などの同社のアジア展開においても踏襲されるのである。

栗田利之

台湾版のホームページを見ると、「元氣早餐」（モーニング）が提供されていることがわかる/公式HPより 「モスバーガー」は言わずと知れた日本のハンバーガーチェーンだが、日本以上にモスバーガーを愛する国・地

台湾で「モスバーガー」が大人気チェーンになった意外なワケ

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