<p><span class="strongInContent">〈ついに“育成エース”が海を渡るか。ソフトバンクの千賀滉大投手が念願の海外FA権を行使し、MLBに移籍する意思を表明した。</span></p>
<p><span class="strongInContent">育成選手から4年連続日本一のチームのエースに這い上がった男の年俸は1年目の支度金270万円から200倍以上となる6億円に到達したが、メジャーでは総額100億円を超える大型契約を結ぶことになると取り沙汰されている。</span></p>
<p><span class="strongInContent">本記事では、千賀投手に指導したこともある野球評論家でピッチングデザイナーのお股ニキ氏が、千賀投手のMLB挑戦について解説する〉</span></p>
<figure id="attachment_275976" aria-describedby="caption-attachment-275976" style="width: 1024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="abca05fa"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/11/2022111010212.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-275976" class="wp-caption-text">海外FAを行うと発表した千賀投手/共同通信</figcaption></figure>
<p>千賀の投球は最速164キロ、平均約154キロの剛速球と代名詞の大きく落ちるお化けフォークを中心としたパワーピッチである。これにカットボール、スラーブ、カーブ、スプリームなどの球種が加わる。</p>
<p>細かい制球力はないが、スピードボールと落ちる球を駆使したアメリカ向きのパワーピッチングだけではなく、多くの球種を扱うことができる器用な投手だ。</p>
<p>私自身、千賀の指導をしたことがあるが、シーズンの途中にもかかわらず、私の本を読んだあとすぐにカットボールを投げられるようになるなど、その器用さには大変感動した覚えがある。</p>
<p>宮古島自主トレに帯同したときは、千賀の球速にこだわる姿勢とすこしでもいいフォームを探る意識の高さに、強豪球団のエースを担う覚悟を感じた。</p>
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<p>そんな努力もあって、ここ7年は連続で2桁勝利。ソフトバンクという強豪球団に所属していることを加味しても、高い水準での安定感は素晴らしく、目を見張る活躍をみせている。</p>
<p>一方で、持っているスペックやポテンシャルに対して最高が13勝で沢村賞獲得経験もない。チームの伝説的エースである斉藤和巳や日本球界のエースと評される山本由伸と比べると、物足りない、勝負弱いとファンの目に映ってきたのではないだろうか。持っている力からしたらもっと勝てる。それが多くのOBの口癖であり、私の本音でもある。</p>
<p>まだまだ物足りないところもあるが、千賀は球速へのこだわりとフォームへの探究心、育成出身の反骨心をアイデンティティにして、ついにメジャーリーグに手が届くところまでのぼりつめた。</p>
<p>新しい理論やフォームがあればすぐに取り入れてみる貪欲さと向上心の高さも千賀が一流投手になった秘訣だと思う。</p>
<p>しかし、エグい球を投げる投手には時々ありがちな、自分のやりたいことを優先した投球が多く、相手を見て抑えるための勝利を追求する投球に徹しきれていないところ。さらにゴールデングラブ賞を受賞したことはあるものの実際の守備はエースクラスにしては雑なところはまだまだ課題である。</p>
<p>その姿の全てを追い続けている訳ではないアメリカの評価は「完成された右腕」だが、実際にはまだまだ未完成で荒削り。その分、伸びしろとポテンシャルは師匠のダルビッシュ有の若い頃と同様に抜群だ。</p>
<p>報道では千賀はリリーフになる可能性もあると触れられているが、球種が多彩で落ちる球を使える今季10勝のジョー・マスグローブ（パドレス）や12勝のタイワン・ウォーカー（メッツ）くらいの投球は今でも出来そう。先発としてローテーションの3番手程度は現時点でも担えるだろう。</p>
<p>モンタス（ヤンキース）やゴースマン（ブルージェイズ）と似た球質と投球スタイルで、投球の再現性では劣っているが、緩急や球種の多彩さは千賀の方が優れている。フォークを操り各球種の球質が似ているエクター・ネリス（アストロズ）よりも球が速く球種も多い先発投手であるから、やはりなかなかの実力者と言えるだろう。</p>
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<div data-friday-nextpage-lead="メジャーで活躍した日本人投手との共通点と課題"></div>
<h3>メジャーで活躍した日本人投手との共通点と課題</h3>
<p>ダルビッシュや大谷翔平のように、メジャーで活躍する日本人投手は、フォークとスライダーを持っており、三振が奪えるという特徴を持っていることが多い。</p>
<p>また、カーブや2シームなど球種が多彩な点や、球速はあるが渡米時点では4シームの質や各球種の細かいコントロールの精度が低いことなども特徴として挙げられる。</p>
<p>千賀の球速はあるがノビが然程ないストレートは大谷やダルビッシュと同様、渡米直後は苦労するかもしれない。</p>
<p>ソフトバンクの投手で最速164キロの剛腕としては、ストレートの投球割合が40％台と控えめではあるが、ダルビッシュや大谷と同様、質と制球力を上げる努力と並行して、更に割合を減らす必要があるだろう。</p>
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<p>フォークはアメリカで成功するにはほぼ必須の球種。世界最高峰である大谷のスプリットには及ばないものの、お化けフォークは確実に通用するだろう。前田健太（ツインズ）も得意のスライダーに加えてフォークのように落ちるスプリットチェンジを身につけて覚醒したし、岩隈久志や黒田博樹、上原浩治にもいいフォークと制球力があった。</p>
<p>千賀のお化けフォークは落差が大きいかわりに球速が若干遅いという弱点がある。 その弱点を埋めるためにカットボール投げ始めたが、若干球速が速く、ピンチほど力が入りすぎて小さな変化となってしまっているのが気になる点だ。</p>
<p>現状では程よい球速で鋭く変化する「スラッター」になっていないものの、千賀とトレーニングをした時に感じた対応力の高さから察するに、握りや投げ方の修正を意識することで改善できるだろう。「スプリーム」は変化量や球質的にあまり効果的ではないため 、スプリットに寄せてフォークと投げ分けるのも1つのやり方だと思う。</p>
<p>また、千賀がプロ入り後、お化けフォークを身につけるまで最も評価されていた球種はスラーブ。135キロ位出て、パワーカーブのような役割を果たしており、カウント球として効果的だった。</p>
<p>スラーブの握り方を変えてパワーカーブとして使ったり、スィーパー（横スライダー）として使い分けたりすることも可能だろう。カーブ自体はあまり得意ではないのでこのスラーブを活かしていけるといいだろう。</p>
<p>更に、最近は封印していたが千賀は2シームも投げることができる。大谷のように4シームと補完しあいながら、フォークやスラーブ、カッターの効果を倍増させていく効果的な球種にできる可能性が高い 。</p>
<p>千賀ならデータを活用しながらこうした微調整をしていくことができるだろうし、先進球団のフロントも興味を示すだろう。</p>
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<div data-friday-nextpage-lead="メジャーのボール＆文化に千賀は対応できる…？"></div>
<h3>メジャーのボールや文化に千賀は対応できるか</h3>
<p>日本人投手がアメリカに移籍する際に、環境の変化やプレースタイル、ボール、マウンド、ストライクゾーンの違いへの適応が大きな課題となるが、千賀の場合は投球スタイルがメジャー向きで全く問題がない。</p>
<p>2017年のWBCでボールへの適応は経験済かつ順応済で、優秀選手賞も獲得。マウンドも最近のNPBはメジャー仕様の固くて高いマウンドが増えており、中でも高くて硬いメジャー仕様に近い札幌ドームではフォームがマッチしていることもあり、毎回好投することが多かった。飛行機の移動もソフトバンクで経験済みだからそれほど問題ないだろう。</p>
<figure id="attachment_275970" aria-describedby="caption-attachment-275970" style="width: 3059px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="be8c8f5d"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/11/aflo_38741776.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-275970" class="wp-caption-text">2017年のWBCではベストナインにも選出された</figcaption></figure>
<p>問題になるのは、屋外球場と球数制限だ。日本ではドーム球場が多いが、メジャーでは屋外球場が殆ど。風や寒さ、湿度の違いなどにはこれから対応する必要がある。</p>
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<p>また、登板間隔が短く、球数が増えてもこれまでのようには引っ張ってもらえず、100球程度で無条件に交代させられるので、もっと無駄球を減らして、投球を突き詰めていかなければならない。打たせてとる投球をするということではなく、投球をもっと効率化・最適化する必要があるということだ。</p>
<p>コロナ明けに球数制限の中で投球して勉強になったと言っていたが、黒田はそれをメジャーに行く前からずっとシミュレーションしていたからこそアメリカへの適応が早かった 。</p>
<p>千賀にも、もっとそうした工夫をしてほしいと思っている。他にもピッチコムやピッチクロック、そして打者そのものなど、適応しなければならないことは多いが、それは誰もが手探りであり初体験のこと。慣れていくしかない。</p>
<p>投球スタイルや球の威力、マウンドやボールへの適応がメジャー向きの千賀は、どんなに悪くても経験のあるリリーフはできるだろうし、先発なら日本とあまり成績は変わらず防御率3点台、12勝前後はあげられるだろう。</p>
<p>もっと細かな配球や球質にこだわって怪我なく投球できれば現時点での評価である先発ローテーションの3番手止まりではなく、1〜2番手レベルとなっていけるはずだ。</p>
<p>まだまだ底なしのポテンシャルを持っているため、メジャーリーグという最高峰の環境でその投球が完成していく姿を見守っていきたいと思う。</p>
<p>育成から世界最高の投手に与えられるサイヤング賞獲得というシンデレラストーリーを私は楽しみにしている。</p>
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お股ニキ

〈ついに“育成エース”が海を渡るか。ソフトバンクの千賀滉大投手が念願の海外FA権を行使し、MLBに移籍する意思を表明した。 育成選手から4年連続日本一のチームのエースに這い上がった男の年俸は1年目の支

本人の指導経験もある識者が千賀の「MLB挑戦」に太鼓判を押す訳

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