99%は戻らず…「育った川に戻ってこないサケ」はどこに行った? | FRIDAYデジタル

99%は戻らず…「育った川に戻ってこないサケ」はどこに行った?

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今のサケにはワイルドさが足りない!?

サケが育った川に戻ってくる回帰率が激減しているという。これも、地球の温暖化の影響なのか?

「最近言われているのは、ふ化放流事業が長く続いているため、今のサケにはワイルドさが足りないのではということです。ふ化放流事業では、メスのサケから採卵して、そこにオスの精液をかけて受精させます。 

自分で産卵した経験がないことが何代も続くと、どうなるのか。稚魚も自分でエサを探して食べるというより、時間になったらエサが与えられる環境で育てられます。1gぐらいになったら放流するわけですが、自然に出たとき自分でエサを捕っていく強さはどれほどなのか。サケの自然に対する適合性が低下していないか、興味があるところです」

こう言うのは、道立総合研究機構さけます・内水面水産試験場の畑山誠さん。

ではいったいどのくらいのサケが生まれた川に戻ってきているのかという回帰率をみると、2020年も2021年も全国平均で1.2%! 北海道はそれより少しよくて2020年1.8%、2021年2.0%だったが、福島県などは2020年0.04%、2021年0.01%なのだ。国立研究開発法人水産研究・教育機構の統計によると、昨年度国内の川に戻ったサケは1926万匹で、ピークだった1996年度の22%だったという。

「そうなんです。本当にほんの少ししか帰ってこないんです。北海道のサケの漁獲量は2004(平成16)年がピークでしたが、このときの回帰率は5.9%。北海道では毎年10億尾ほどを放流していますが、6000万尾戻ってきたということです。今はその3分の1くらい」

生まれた川に戻ってくるサケは1.2%!(写真:アフロ)
生まれた川に戻ってくるサケは1.2%!(写真:アフロ)

放流した稚魚の99%は戻ってこないという現実。サンマやブリは生息しやすい海水温のところに移動するという。サケだって、生まれた川に帰らず、カナダやアラスカのもっと住みやすい川に行っているのかもしれない。

「それはありません。最近、サケが戻ってくる秋の海水温が高めのときがあるんです。そういうときは海の深いところから川に入ってくる。沿岸の水温が高いと、なかなか寄って来れないときもあると思いますが、最後は来るしかないので、来ます。 

自分が生まれた川を探す過程で、ほかの川に入ることもありますが、日本生まれのサケが外国に行くことは考えられません。彼らには、独特のこだわりがあるみたいです」

福島県楢葉町の木戸川では、かつて3万尾のサケが獲れ、この地での「卵かけごはん」とは、たっぷりといくらを乗せたごはんのことだったという。けれど、近年は木戸川で捕れるサケは数千~数百になっているとか
福島県楢葉町の木戸川では、かつて3万尾のサケが獲れ、この地での「卵かけごはん」とは、たっぷりといくらを乗せたごはんのことだったという。けれど、近年は木戸川で捕れるサケは数千~数百になっているとか

北海道では豊漁!?でも、身体が小さい今年のサケ

ところが、今年豊漁に沸いているのが、北海道。留萌地方では秋サケ漁の水揚げが32年ぶりに3000トンを超えたというのだ。

「毎年、漁獲量の予測値を出しているんですが、ここまで多いとは予想していませんでした。この3分の2ぐらいではないかと思っていました」

今年は、放流したサケの稚魚がベーリング海などで順調に育ち、海流にのって留萌沖に戻ってきたのではないかと考えているとか。

しかし、喜んでばかりもいられない。今年のサケは小さいというのだ。

「サケの稚魚は春4~5月ごろに放流します。そこからオホーツク海に移って秋ぐらいまで過ごす。そのあと太平洋北部に移り、そこで3~5年過ごしてから戻ってきます。 

なので、戻ってきたサケには3年魚、4年魚、5年魚がいるわけですが、今年は4年魚が多くて、5年魚が少ない。これまでサケ1尾は平均3㎏以上あったのですが、今年は3㎏以下のものが多いんです。最近は5年魚が少なくなっている傾向が続いているんです。 

理由はいろいろ考えられます。ゆっくり成熟する5年魚が生きづらくなっているのか、早く成熟するようになったのか、あるいは早く帰ったほうが彼らに得があるのか。成長履歴を調査すると、少しはわかってくると思います」 

カナダでは伝統的なサケ漁が脅かされるとして、養殖に対して反対運動が起きている
カナダでは伝統的なサケ漁が脅かされるとして、養殖に対して反対運動が起きている

サケに何が起こっているのか

今年は豊漁。来年も?

「わかりません。サケ漁は12月くらいに終わるので、来年早々に検討を始めて、夏ぐらいに予測値を出す予定ですが」

そもそも、なぜ不漁が続いていたのか? これも温暖化の影響なのだろうか?

「大きな流れとしての気候変動の影響は否定できないところです。ほかの魚の分布が変わってサケの稚魚が捕食されやすくなったのかもしれません。エサの分布も変わっているのかもしれませんし、エサを競合する生物も変化しているのかもしれません。 

いずれにせよ、我々が関われるのは放流するまで。エサを栄養強化したり、放流時期を考えたり、研究しています」

放流するときの海水温も影響するとか。

「稚魚がいちばん死んでしまうのが、川から海に入ったときと考えられています。海水温が5度以上になったところで放流するのですが、予想より海水温が上がらなかったり、逆にすぐ上がってしまっても死んでしまうんです。 

ある時期までにオホーツク海に入っていなければならず、全体のスケジュールをみて放流するのですが、最近は稚魚の生息に適した水温5~13度の期間が短くなったり、早くなったりしているので、放流するタイミングがむずかしくなっています」

たとえ海水温が上がっても、ひたすら生まれた川を目指すサケ。

「もしかしたら、環境の変化に適応したサケも生まれてくるかもしれない。今年の豊漁についても解析しなければならない。やることは山積みです。 

不漁が続いて、悩むことも多かったけれど、サケが大きく変化する時期に、この仕事ができるのは幸運かもしれない。そう思うようにしてがんばります」

畑山誠 北海道立総合研究機構 さけます・内水面水産試験場 さけます資源部所属。専門は魚病学。集団遺伝学。サケ資源安定化に向けた研究を行っている。

  • 取材・文中川いづみ

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