<figure id="attachment_277635" aria-describedby="caption-attachment-277635" style="width: 2000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="5aba5bca"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/12/40c6d4c933eaa0a420fda6f1f3841c23.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-277635" class="wp-caption-text">事件に関わっている山本被告、Aさん、吾妻署、Bさん、病院の関係を示す相関図</figcaption></figure>
事実は小説よりも奇なり……そんな言葉では到底足りないほど、この事件は複雑怪奇だ。すべてを説明するとなれば、おそらく1冊の本ができあがることだろう。
2020年2月、群馬県吾妻郡にある病院に殺人予告の手紙を送ったとして威力業務妨害罪に問われていた山本結子被告（32）について、前橋地裁（橋本健裁判長）は11月17日、有罪の部分判決を言い渡した。
山本被告は2020年8月に群馬県中之条町で起きた強盗殺人罪などでも起訴されている。そちらの裁判に先立ち、この威力業務妨害についての区分審理が行われていた。そのため今回の判決は「有罪」か「無罪」いずれかになる。追って開かれる強盗殺人罪などの裁判員裁判によって、正式に量刑が決められる。
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<h3>Aさんの逮捕自体、山本被告に仕組まれた“でっちあげ”</h3>
区分審理である威力業務妨害の公判は今年9月から前橋地裁で続いていた。起訴状や冒頭陳述によれば、山本被告は自ら病院に殺人予告の手紙を送ったわけではない。マッチングアプリで知り合った男・B（すでに同罪により有罪判決が確定）に指示して送らせていたという。なぜそのようなことを指示したのか。山本被告はある警察官が“自分の個人情報を広めた”と思っており、その“警察官を困らせる”ためだったと検察官は主張していた。
ここから話は複雑になる。公判には山本被告のほか交際相手の女性Aさん、同被告がマッチングアプリで知り合った男性B、群馬県警吾妻署の警察官などが登場したが、山本被告の作り話やでっちあげによって事実がねじまげられ、証言の行き違いがいくつも発生したためだ。
まず山本被告は2019年7月にSNSで知り合った女性Aさんと交際を始めるが、翌月、群馬県警吾妻署にAさんが逮捕されてしまった。
その後Aさんは山本被告との連絡を絶ったのだが、山本被告はこれを「吾妻署の警察官がAさんに自分の個人情報を流したからだ」と思い、恨みを募らせたのだという。こうして警察官への“仕返し”のために、病院への殺人予告へと至ったとされる。
山本被告の恨みの感情に同情したBが、被告に指示されるがまま2020年2月ごろ、住んでいた佐賀県から「吾妻署には個人情報を勝手に話す警察官がいる」などと記した脅迫文書を普通郵便で送った。
ところが当の山本被告は初公判で「私はBと一緒に脅迫文を送った事実は一切ありません」と完全否認の姿勢を見せ、弁護人も「Bが主導した」と、Bによって起こされた事件だと主張していた。
否認事件であるため、公判には毎回、関係者が証人として出廷した。吾妻署の警察官、B、そして元交際相手のAさんなど……彼らの発言や他の証拠などで分かったのは、そもそもAさんが逮捕されたこと自体、山本被告によって仕組まれた“でっちあげ”であるという衝撃の事実だった。
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まず吾妻署の警察官はAさん逮捕の経緯をこう証言した。
「被告人が吾妻署宛に『友人が覚醒剤を所持しているから捕まえてほしい』と電話をかけてきました。ですが以前も被告人による“自作自演”があったので、他の者に覚醒剤を仕込ませたりする可能性がある。慎重に対応するよう、上司から指導を受けていた。
その後、Aさんを車に乗せて警察署にあらわれた、被告人が『Aが覚醒剤を持っている』と言うので所持品検査をすると、覚醒剤が発見された。被告人がAさんの所持品に覚醒剤を隠匿した可能性もあるため慎重に見ていたが、尿検査も陽性だったため逮捕し、被告人は帰らせた。
しかしAさんは一貫して容疑を否認し、使用も所持も身に覚えがないと主張していた」
山本被告の元交際相手、Aさんはなぜ一貫して容疑を否認したのか。証人尋問では小さな声で「山本被告から渡された飲み物が苦かった」と述べ、こう続けた。
「警察署に行く前にカラオケに行った。被告人は『部屋で待ってて』と言うので、先に部屋で待っていると、コーラを持ってきた。苦かったです。そのあとコンビニに寄り、トイレに行きました。荷物は車に置いていき、被告人は車に残っていました」
つまりAさんが覚醒剤取締法違反容疑で逮捕されたのは、山本被告がどこかから入手した覚醒剤をAさんの飲み物に入れ、加えてAさんが目を離したすきに彼女の荷物の中に覚醒剤を忍ばせたことによるものだった。実際、山本被告自身も、のちに吾妻署から、麻薬特例法違反により逮捕されている。
<div data-friday-nextpage-lead="吾妻署が見抜いていた山本被告の「本性」"></div>
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<figure id="attachment_277642" aria-describedby="caption-attachment-277642" style="width: 1024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="00cda51d"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/12/2020102804905.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-277642" class="wp-caption-text">山本被告に有罪判決を言い渡した前橋地方裁判所（写真：共同通信）</figcaption></figure>
吾妻署の警察官はこの件以外でも、山本被告と向き合ったことがあった。
「被告人はキャンプ場で働いていて、自作自演での脅迫被害の届出をしたことがありました。具体的には自分の携帯電話2台のうち1台で、もう1台のほうに脅迫文を送り、警察署に『脅迫された』と届け出ていました」（吾妻署の警察官の証言）。こんな過去から「人を貶めるような人間として把握しておりました」（同）と驚くような赤裸々証言も飛び出した。
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無実であるにもかかわらず、山本被告が陥れたことによって逮捕された元交際相手のAさんに対し、警察官は「付き合っていて良いことはない」と助言をしたという。この発言が、山本が怒りを感じた「警察官はAさんに自分の個人情報を流したのだ」という部分に重なる。
対する山本被告は公判で、どんな発言をしたのか。被告人質問では「マッチングアプリで出会ったBが勝手にやった」と事件そのものへの関与を否定したうえ、吾妻署への恨みを炸裂させた。山本被告の言い分によると、事件のきっかけは、マッチングアプリで知り合った男・Bに対し、こう愚痴ったことによるという。
「当時、私も逮捕されたこととか、元交際相手のAのことなどをBに話しつつ、その中で『警察に勝手に個人情報をバラされた。ありえない警察がいる』と愚痴をこぼしました。すると（それを聞いた）Bは、なんか……『オレが力になってやる』と。『警察ありえない、許せない。俺が考える警察と違う』と同情してくれました」
この“愚痴”をきっかけに、山本被告に同調したBが「佐賀にいるから文章だったら力になれるよ」と脅迫文を作成したのだ……と山本被告は語る。
だがBがこのとき山本被告から聞いたという話は、山本被告の言い分とは全く異なっていた。事件当時、佐賀から普通郵便で脅迫状を送ってしまったBは法廷で『当時山本被告に抱いていた恋心』から『指示されるままに脅迫文を作成した』といった趣旨のことを語っている。
「彼女が欲しいなとマッチングアプリに登録したところ被告人と知り合いました。育った環境が似ていたり共通の話題があり、好意を持ち、出会ってすぐ交際を始めました。実際会ったことは一度もなく、電話もしたことがなかったです」（Bの証言）
山本被告と交際していると思い込んでいたBは、山本被告に100万円ほどを援助したこともあると述べた。脅迫文作成のきっかけは、山本被告からこう言われたことだったという。
「当時付き合っていた警察官が貸した金を返さない。騙されたり、貸した物も返さない。暴力を振るわれたりするから仕返しをしたい」
この話自体、事実ではなく、山本被告の作り話だ。にもかかわらず、これを信じ、同情したBは「LINEで山本被告から送られてくる脅迫文の文章」を手書きで便箋に清書し、ポストに投函した。
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作り話やでっちあげで周囲を巻き込んでいった山本被告は、被告人質問で、吾妻署への恨みを語り続けた。
「吾妻署の警察官に対して……私に許可なく、他人に勝手に情報を流したりしたこと、強い怒りを覚えました。不愉快でした」（同）
関係者の証言によれば実際のところ、当時の山本被告が把握していたのは「警察官がAさんに『被告と別れるように』助言したこと」のみだ。だが山本被告は“自分のプライバシーを勝手に話された”と、公判で怒りを隠さなかった。
検察官は論告で「病院の関係者に強い不安と恐怖を与えた」と述べ、判決でも「20通程度の脅迫文を作成し投函した。無関係の病院が3週間もの間、警戒を余儀なくされ、79名もの警察官が警戒にあたることとなった」と、事件は山本被告がBに指示して起こしたものだと認めた。ここまでの大騒ぎを起こした張本人である山本被告は、結局何がしたかったのか。そもそもAさんを覚醒剤取締法違反により逮捕させた“偽装工作”の目的すら判然としなかった。周囲の者が皆、山本被告の作り話や自作自演に巻き込まれただけだ。
山本被告に対しては、今後、強盗殺人罪での裁判員裁判が開かれる見込みだ。共犯として同罪に問われた男はすでに懲役27年の判決が確定している。

傍聴人。フリーライター。『つけびの村　噂が5人を殺したのか？』（晶文社）、『暴走老人・犯罪劇場』（洋泉社新書）、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』（徳間書店）、『木嶋佳苗劇場』（宝島社）、古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』（新潮社）など殺人事件の取材や公判傍聴などを元にした著作多数。6月1日に「逃げるが勝ち　脱走犯たちの告白」（小学館）が新たに出版された

高橋ユキ

事件に関わっている山本被告、Aさん、吾妻署、Bさん、病院の関係を示す相関図 事実は小説よりも奇なり……そんな言葉では到底足りないほど、この事件は複雑怪奇だ。すべてを説明するとなれば、おそらく1冊の本が

病院に20通の脅迫状で有罪…被告が重ねたあきれた“偽装工作”

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