マンションの一室にある民間研究所が鑑定…「餃子の王将」事件 京都府警の捜査にあがる「不安の声」
迷宮入りと思われた事件が急転、犯人逮捕に至ったが…… 逮捕の有力証拠となった「歩容認証」や容疑者のタバコの画像を検証したのはマンションの一室にある民間企業だった
「歩き方などで個人を識別する『歩容認証』と呼ばれる最新技術を捜査に用いたことが脚光を浴びましたが、むしろ、この技術に頼らざるを得なかったほど、府警の捜査が行き詰まっていたともいえます」(京都府警担当記者)
「餃子の王将」を展開する王将フードサービスの元社長・大東隆行さん(当時72)殺害事件で、特定危険指定暴力団「工藤会」系の組幹部・田中幸雄被告(56)が11月18日に起訴されたのは既報の通り。
「田中を逮捕した10月28日の夜、府警が開いた記者会見では、捜査員ら約140人で福岡県警との合同捜査本部を立ち上げたことをぶち上げました。会見の中で府警幹部が、福岡県警にも捜査拠点を提供してもらったと明かしたものの、場所は言えないともったいをつけていた。その拠点とは、田中が所属していた工藤会の二次団体・石田組の本部事務所がある福岡県春日市の警察署のこと。春日に府警の捜査員が詰め、石田組を始めとする関係先のガサを行いましたが、当然、約9年前の事件ですから、これといった物証は何も出ず、捜査は尻すぼみに終わりました」(同前)
こうして決定的な新証拠がないまま、状況証拠の積み上げだけで田中被告を起訴したという経緯を辿(たど)ったのである。
別の府警担当記者が明かす。
「この歩容認証は、DNA認証や人の眼球から判断する虹彩認証などの生体認証ほど高い精度はなく、『同一の可能性が高い』とか『似ている』というレベルのもので、まだまだ発展途上の技術。科学鑑定と胸を張れるほどのものではない。不思議なのは、その鑑定を科捜研ではなく、なぜかある民間の研究所に依頼しているのです。しかも、その研究所は、交通事故の画像鑑定をウリにしているような所で、『この捜査、本当に大丈夫か?』と噂になっていました」
事件当時、田中被告が吸ったとされるタバコに関する鑑定も同研究所が行ったそうだが、「いずれにしても、田中の犯行を決定づける直接的な証拠にはなり得ない」(同前)という。
こうしたことから、一部の記者からは、「起訴ありきの逮捕だった」「公判維持できるのか」と依然として不安の声は多いのである。府警の捜査関係者が明かす。
「確かに、鑑定を民間の研究所が行ったのは事実。だが、歩容認証によって事件前に撮られた不鮮明な防犯カメラの映像が、田中本人である可能性が高いと判断されたことは無意味ではない。もちろん、100%田中だと断定したわけでなく、田中の歩き方と矛盾がないという程度のもの。実は、田中の歩き方には大きな特徴がある。歩くとき、足を引きずるような動作をするのだが、こうした特徴からも、田中である可能性がより高まったと考えている。また、事件現場に残されたタバコの吸い殻は、すでに販売されていない銘柄『メビウス・スタイルプラス・ワン』。同研究所では、タバコの灰が現場に残されていたかどうか画像鑑定をしたと聞くが、それ自体が田中の犯行を直接裏付けるものではない」
府警が依頼した研究所とはいったいどんな所なのか。ホームページによれば、あるマンションで営業している旨が記されている。
研究所の代表者はFRIDAYの取材に対して、王将事件に関する鑑定をした事実は認めたが、取材を受ける条件(FRIDAYで交通事故鑑定人の連載企画をすることなど)を要求。「ネタはある」と話すが、メリットがないと取材は受けないと答えた。前出の捜査関係者が言う。
「今、春日の捜査員も徐々に京都に引き上げてきており、今後は動きがない限り福岡に捜査員が詰めることもないだろう」
事件は何も解明されないまま田中被告の起訴だけで幕引きとなるのか。今後の行方が注目される。


『FRIDAY』2022年12月16日号より
取材・文:甚野博則(ノンフィクションライター)PHOTO:加藤 慶(田中被告) 時事通信社