<p>まさか36年前に放送されたドラマの最終回を見て、声を上げて笑うとは思っても見なかった。さすがトレンディドラマの原点だ――。</p>
<figure id="attachment_278812" aria-describedby="caption-attachment-278812" style="width: 2500px" class="wp-caption aligncenter"><a href="#" data-ident_hash="619b1240"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/12/10000000000000089020_20221205201010001454_P120306836595.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-278812" class="wp-caption-text">お互いに高めあう存在だった、ということか…</figcaption></figure>
<p>何を見て大笑いしたかについては、後ほど語るとして、まさにこれぞ「トレンディドラマの原点」と言えるのが、1986年の7月～9月にTBS系で放送された『男女7人夏物語』でした。「夏物語」の「夏」は36年前＝86年の夏だったのです。</p>
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<p>TBSチャンネルの公式サイトにある「みどころ」より抜粋。</p>
<p>＜――鎌田敏夫脚本、明石家さんま＆大竹しのぶ共演による恋愛ドラマの傑作「男女7人夏物語」。男30歳、女27〜28歳…なぜか人生定まらずに、未だに青春の名残を捨てきれずにいる男が3人、女が4人。大都会に生きる結婚適齢期の男女7人が、少々遅い青春を不器用にも懸命に生きていこうとする姿が感動を呼ぶ。＞</p>
<p>その続きに、このドラマの魅力の本質を伝える一文が添えられています。</p>
<p>＜――さんまは役柄も台詞も大変気に入り、自らこの作品を「自分のドキュメント」と称したほど。＞</p>
<p>後にも触れますが、主演・明石家さんまが演じるツアーコンダクター・今井良介は、さんま本人そのものに見えます。いや、さんま自身がドラマの世界に紛れ込んだようにも。結果、周囲が役者然とした演技をするのが不思議に見えてくるほどに。</p>
<p>さんまに触発されたのでしょう。今や大女優となった大竹しのぶも、地の部分がぐいぐいと引き出されている。さんまとしのぶというフィジカルエリートが、地の部分をガチンコでぶつけ合う異種格闘技戦――そんなスポーツのような魅力が、このドラマの魅力の本質だったのです。</p>
<p>ご存じのように2人はその後結婚するのですが、このドラマを見る限り、大竹しのぶにとって明石家さんまは、自分らしい何かを引き出してれる、唯一無二の存在だったのではないでしょうか。</p>
<p>さて、タイトルの「男女7人」のメンバーはさんま・しのぶの他、池上季実子、奥田瑛二、片岡鶴太郎、賀来千香子、小川みどり。</p>
<p>最後の小川みどりという人は、当時TBSの朝のワイドショーで芸能リポーターをやっていた人。正直、ストーリーの中での重要度は、他の6人より一段劣るものの（西武球場のウグイス嬢役！）、もし小川抜きでタイトルが『男女6人夏物語』だったとしたら、あれほどにはヒットしなかったはず。やはり、こういうのは奇数がいいのです。</p>
<p>さて、「トレンディドラマの原点」ということで、ここで私の考える「トレンディドラマ３箇条」を記しておきます。</p>
<p>1つは「恋愛性」。恋愛中心主義。恋愛を軸としてストーリーが動く。いやストーリーの構成要素がほぼ恋愛だけ。その結果、登場人物の平均年齢は必然的に若くなる。</p>
<p>2つ目の「群像性」。基本、1対1ではなく、複数対複数の恋模様が描かれ、たまに交じり合う。このドラマでは明石家さんま＝大竹しのぶ、池上季実子＝片岡鶴太郎、奥田瑛二＝賀来千香子の恋愛関係が描かれる。</p>
<p>3つ目は「東京性」。都会性というより「東京性」。大阪でも名古屋でもなく、当時、世界の中でもっとも豊かな都市の1つだった東京を舞台とすること。</p>
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<p>余談ですが、このドラマの主題歌は大ヒットした石井明美『CHA-CHA-CHA』なのですが（オリコン1位、58.1万枚）、それよりも、BGMで流れていた、イギリスのフュージョンバンド「シャカタク」の印象の方が強いのです。それは80年代中盤、イケイケドンドンの東京にぴったりのBGM。つまりトレンディドラマは、シャカタクに始まり、キムタクで終わった――。</p>
<p>『男女7人夏物語』の放送時間は金曜21時。元々は『欽ちゃんの週刊欽曜日』（82～85年）が流れていた枠でした。しかし番組は終了、その1年後に同じ枠で、明石家さんまが君臨することとなる。</p>
<p>こちらも余談ながら、11月20日に日本テレビ系で放送された『誰も知らない明石家さんま 第8弾』では、フジテレビの『欽ドン！スペシャル』（87年）を舞台に、「テレビのお笑い王」の座を、さんまが萩本欽一から奪っていくさまを描くドキュメンタリーが放送されたのですが（脚本：又吉直樹）、TBS金曜21時台でも、まさに同様のことが起きていたのです。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="すごい設定…"></div>
<h2>さんまとしのぶの反射神経格闘技</h2>
<p>さて、では世帯視聴率31.7％と盛り上がった『男女7人夏物語』の最終回について（現在、動画配信サービス「Paravi」で視聴可能）。</p>
<p>＜（この段落ネタバレあり）マイケル・ジャクソンの全米ツアーに同行して記事を書くという仕事が、ノンフィクションライター志望の桃子（大竹しのぶ）に舞い込む。半年間、日本を離れることに、恋仲になりつつあった良介（明石家さんま）の本音は行かせたくない。本人も周囲も悩みに悩むが、最終的に良介は背中を押す。千明（池上季実子）と貞九郎（片岡鶴太郎）、香里（賀来千香子）と君章（奥田瑛二）もいい感じ。そして、成田空港で良介が桃子を送り出すあの名シーンへ。＞</p>
<p>と、上の段落を書きながら思ったのは、ノンフィクションライター志望の若者に、「マイケル・ジャクソンの全米ツアーに同行」という抜群に大きな仕事を断る理由などないだろうということ。ただ、そのあたりはスマホも携帯も、いや遠距離恋愛という言葉すらなかった頃。半年間、海外に行くことが、とびきり重い意味を持った時代だったということなのでしょう。</p>
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<p>まぁ、それ以前に「何でそんな大きな仕事が桃子に転がってくるんだ？」という疑問も湧くのですが（笑）、そんなことより、最終回の中で何度となく繰り返される、明石家さんまと大竹しのぶの会話シーンが、もうとにかく絶品。先に書いたように、PCモニタの前で、声を出して笑いました。まさかの体験です。</p>
<p>もちろん脚本もあったのでしょうが、明石家さんまと大竹しのぶが、抜群の反射神経だけでぶつかりあっています。大竹の表情を見る限り、アドリブもかなりありそうです（2人でカレーライスを食べるシーンをご確認ください）。まさに、さんまの言う「自分のドキュメント」。</p>
<p>ご存じのように明石家さんまは、その後、タモリやビートたけし、島田紳助らと「言葉の異種格闘技」を繰り返すのですが、大竹しのぶとのガチンコ対決は、それら以上の張り合いがあったはず。</p>
<p>そして、この瞬間、トレンディドラマが生まれたのです。老齢の脚本家と強面の演出家が徹底的に役者を縛り付ける、のではなく、明石家さんまと大竹しのぶのような1950年代生まれの役者が、地の感覚をふんだんに発散する新しいドラマの誕生。</p>
<p>もしかしたら、その「トレンディドラマ」とやらは、昔のドラマに比べて軽薄短小かもしれないけれど、その分、都会的で、恋愛たっぷりで、時代感覚が充満している。何より舞台となっている東京は、世界一に向かって突き進んでいる！</p>
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<p>あれから36年経ったこの秋、明石家さんまが出演する「創味ハコネーゼ」のCMで、『男女7人夏物語』の映像が使われました。驚いたのは、CMの中のさんまが、現在とあまり変わらないように見えたことです。</p>
<p>しかしよく考えたら当然のことかもしれません。さんまは今でも現役中の現役。「テレビのお笑い王」の座を、あれから36年間、一度たりとも手放していないのですから。</p>


音楽評論家。1966年大阪府東大阪市生まれ。bayfm『9の音粋』月曜日に出演中。主な著書に『80年代音楽解体新書』（彩流社）、『チェッカーズの音楽とその時代』（ブックマン社）、『イントロの法則80's』（文藝春秋）、『サザンオールスターズ1978-1985』（新潮新書）、『恋するラジオ』（ブックマン社）など。東洋経済オンライン、東京スポーツ、週刊ベースボールなどで連載中。新著に『EPICソニーとその時代』（集英社新書）、6月17日『桑田佳祐論』（新潮新書）が発売される。

スージー鈴木

まさか36年前に放送されたドラマの最終回を見て、声を上げて笑うとは思っても見なかった。さすがトレンディドラマの原点だ――。 お互いに高めあう存在だった、ということか… 何を見て大笑いしたかについては、

明石家さんまと大竹しのぶ共演ドラマの「驚きの最終回」の中身

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