バス置き去り死、園内暴行…保育園で子どもを死なせないためにできること | FRIDAYデジタル

バス置き去り死、園内暴行…保育園で子どもを死なせないためにできること

  • Facebook シェアボタン
  • X(旧Twitter) シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン

「子どもは小さくて弱い。うまく言葉で話せない。保育者は、命がけで守っていくしかないんです」

ある保育士は、噛み締めるようにこう言った。「あってはならないこと」と、みなが口を揃えて言う。しかし、実際に事件は起きた。炎天下の9月、園バスの中で暑さと喉の渇きに苦しみ死んでいった3歳の女の子はもう戻ってこない。保育園の先生に叱責され、暗い部屋に閉じ込められたり、逆さにつるされた恐怖と悲しみ、毎日をともに過ごす大人から「ブス」とののしられた気持ち、身近な大人を頼ることができなかった経験は、1歳のこの子たちのこれからに、どんな影響を与えてしまうのだろう。

子どもにとって「生活の場」である保育園で起きた暴行事件。加害者の保育士は逮捕された。が、それでは終わらない大きな問題に、今こそ目を向けなければならない
子どもにとって「生活の場」である保育園で起きた暴行事件。加害者の保育士は逮捕された。が、それでは終わらない大きな問題に、今こそ目を向けなければならない

静岡県裾野市の認可保育園で、保育士による子どもへの暴行があり、5日、直接「犯行」を行った保育士3人が逮捕された。管理責任者である園長らによる隠ぺいの疑いもあり、激怒した裾野市長が静岡県警に刑事告発状を提出するなど、事件はまだまだ深まる見込みだ。子どもを預かる保育園で、なぜこんなことが起きたのか。

「1歳の子どもって、みんなだいたい同じなんです。みんなかわいいし、みんな扱いづらい。なんていうか、どの子がかわいいとか憎いとかいう感情も起きようがない。なので、今回、特定の子に対して繰り返し暴行があったということに、まず驚きました」

こう話すのは、都内の保育園に勤務するベテランの保育士だ。

「だから、もしかするとなにか別の原因とか、きっかけがあったのかな、とも思いました。保育士同士の集団心理や、力関係で『いじめ』の流れができた、とか、保護者との関係性とか。保護者の方も温度差はあります。もう少し上の年齢になると、たとえば苦情を多く伝えてらっしゃるおうちのお子さんには、踏み込んだ指導がしづらいということもあります」

とはいえ、それはあくまでも「指導」の範囲のなかでの濃淡であり、「暴行、暴言は考えられない」とも言う。

送迎バス置き去り死で見えたこと

「今年9月5日に、静岡県内の認定こども園の送迎バスに『置き去り』にされた3歳女児が熱中症で亡くなる事件があり、大きなニュースになりました。でも、これが初めてではないんです。2007年に、北九州市で同様の事件がありましたし、昨年も北九州市の隣の中間市の認可保育所で同じ事件が起きています。結局、他人事に捉えていて、それらの事件から『学べなかった』んです。

保育事故が起こるたびに、現場の人手不足、保育者の疲弊などその遠因が語られてきました。それらも確かに『原因』の1つなのかもしれません。でも、こういった事故を起こさないためにできることはひとつ。保育の現場は子どもの命を預かっているという自覚を持ち、とにかく愚直にやっていくしかないんです。いくら便利なアプリやICTを使ったとしても、結局は子どもの顔を見て出席ボタンを押すというアナログな方法で確認していくしかありません。置き去りを防ぐために送迎バスに設置することが義務化された安全装置も、アナログの確認がきちんとできない園では、ただ装置のボタンを押しに行くだけになってしまうかもしれません」

こう話すのは、保育事故に詳しいジャーナリストで都内の保育園・幼稚園の副園長も務める猪熊弘子さんだ。

「私も送迎バスの添乗をよくしているのですが、子どもは体が小さく、バスの座席で眠ってしまうと座席を見渡しただけでは姿が見えないんです。ときには、座席の下のほうに入り込んでしまうことさえあります。だから、送迎を終えたあとは一つ一つの座席を指さし確認して回ります。そういうことが本当に重要なんです。

置き去り事故を防ぐために、バスのクラクションを鳴らす練習をさせるというようなことも報道されましたが、今はエンジンを止めたらクラクションが鳴らない車も多いですし、現実的ではありません。もし、子どもがクラクションを鳴らさなかったら『子どもに教えたのに鳴らさなかった』と今度は子どものせいになります。それは事故予防の本質ではありません」

システムではなく、人の目で「指差し確認」することが重要。そのための「人手」が圧倒的に足りていない。けれども、命を預かる現場は、それをやらなければならないのだ。

2012年に、消費税を増税する「代わりに」自民・公民・民主の3党で合意した「社会保障と税の一体改革」。このなかで、「保育園の配置基準を見直し、現場の保育士を手厚くする」という約束がなされた。しかしそれから10年経っても、なんら改善の見通しはない。

「コロナのせいで忙しくなったといいますが、もともと、保育の現場はつねにぎりぎりだったんです。入職して30年近く、いつだって人手が足りないなか、なんとか続けてきました。保育士がコロナ陽性で休んだりすると、さらに人手は足りなくなって、事故がないのが不思議なくらいという日も」(都内認可保育園のベテラン保育士)

保育園、保育士に対する政府の動きは驚くほど鈍い。この保育士は低賃金に耐えつつ「好きな仕事だから」と続けてきたという。

親にできることは

子どもを保育園に預けている保護者、これから預けようという保護者は、どうすればいいのか。

「まず、子ども自身の声に耳を傾けてほしい。子どもが保育園を嫌がったら『わがまま』と決めつけず、ようすをみてほしい。話せない月齢の子どもなら、毎日の機嫌や体調、アザやけがの有無に目を配ってください。暴行ということではなくても、保育者の目が行き届かないと、けがをしやすくなりますから。

それと、園にはなるべく、直接送迎してようすを見てほしい。送迎バスでは、園のふだんの雰囲気がわかりません。バスを利用する場合も、機会を見つけてなるべく園に行ってみてほしい。たとえば、室内の掲示物やおたよりに力を入れ過ぎている園は、子どものほうに目が向いていない可能性もあります。親はまず自分の目で、子どもの保育のようすをしっかり見ておきたいです」(同前)

今回の事件を受け6日、「保育所における実態や自治体における対応を把握するための調査」を全国的に行う方針が明らかになった。2019年度に全国の自治体が把握した「不適切な保育」は345件だった。これは氷山の一角かもしれない。が、一方で、適切で充実した保育を行っている保育園、保育士もたくさんいることを忘れてはならないだろう。ある保護者は言う。

「子ども2人は0歳から保育園に通っていました。保育士さんに励まされ、ともに育児をしてきたと感じています。通い始めのころは、疑問があるたび質問をしてました。信頼関係ができるまでは、やはり不安ばかりだったので。ある程度の時間と手間をかけて保育園と信頼関係を築くしかないのかな、と思います。卒園した今は感謝しかないです」

子どもを守れるのは親しかいない。残念ながら、保育園のすべてが安全な場所ではない。しかし保育士も、保護者との適切な関係のなかで「育っていく」のだ。互いに「忙しい」は理由にならない。この子たちの「今」は、今しかない。いまいちど、子どもを育てることの重さと喜びを見つめ直したい。失われた命は、もう戻らないのだから。

FRIDAYの最新情報をGET!

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事