三笘、田中碧、権田、板倉の4人を輩出…「さぎぬまサッカークラブ」はなぜ選手を育てられるのか | FRIDAYデジタル

三笘、田中碧、権田、板倉の4人を輩出…「さぎぬまサッカークラブ」はなぜ選手を育てられるのか

フットサル日本代表監督もさぎぬまサッカークラブの出身

W杯で日本は残念ながらベスト8には進めなかったが、選手たちの活躍は胸を熱くさせてくれた。中でも注目されたのは、ドリブルで自陣深く切り込み、攻撃のきっかけを作った三笘薫選手だ。スペイン戦では三笘選手からのパスを田中碧選手がゴールに押し込み、2点目をもぎとった。

この三笘選手と田中選手が所属していたのが、地域のサッカークラブ「さぎぬまサッカークラブ」だ。三笘選手や田中選手だけではない。権田修一選手も板倉滉選手も「さぎぬまサッカークラブ」出身だ。

「W杯に出場したのは、この4人だけですが、J1、J2、J3にはうちのクラブから10人ほどいってます」

こう言うのは、「さぎぬまサッカークラブ」代表の澤田秀治(さわだひでじ)さん。なんとフットサル日本代表監督の木暮賢一郎さんも、「さぎぬまサッカークラブ」の出身なのだとか。

「このほかにも、うちのクラブ出身者の中にはヨーロッパでプレーしていて、J1のクラブで働いている人、カンボジアやタイでプレーしている人もいます。Jリーガーにはなれなかったけれど、高校選手権に出場した選手や、大学のサッカー部でキャプテンを務めたという選手は何人もいます」

「さぎぬまサッカークラブ」代表の澤田秀治さん。実は子どものころは野球少年。サッカーの経験はなかった(撮影:田中祐介)
「さぎぬまサッカークラブ」代表の澤田秀治さん。実は子どものころは野球少年。サッカーの経験はなかった(撮影:田中祐介)
三笘選手(写真左)と田中選手(同右)、板倉選手は「さぎぬまサッカークラブ」を経て、川崎フロンターレのU-12に所属。権田選手は1年生から6年生まで、このクラブで技術を磨いた(写真:アフロ)
三笘選手(写真左)と田中選手(同右)、板倉選手は「さぎぬまサッカークラブ」を経て、川崎フロンターレのU-12に所属。権田選手は1年生から6年生まで、このクラブで技術を磨いた(写真:アフロ)

小学校の校庭で練習

いったい、どんな練習をしているのか。見学に行った。

練習場所は川崎市立鷺沼小学校のグラウンド。ここは三笘選手や田中選手が通っていた小学校だ。ふつうの校庭で、芝が植えられているわけでもない。そこに女子チームと、1年生と2年生が練習している。どのグループも20人ほどで、予想していたよりこぢんまりしている。

「さぎぬまサッカークラブは小学生のクラブで、1年生から6年生が所属しています。以前はここで全員が集まって練習していたんですけど、広いところで練習させたいと、学年ごとに1時間半から2時間ずつ分けて練習することにしました。今日はほかの学年は試合に行っています。1年生は多いので半分は試合、半分は練習です」

現在、「さぎぬまサッカークラブ」に所属しているのは、女子1チーム、学年ごとの男子6チームの約150名。

練習が始まった。最初はラダーというハシゴのようなものを使ってステップの練習。かなり本格的だ。

幼稚園児だった田中選手が体験会に来て、「こんな練習、つまらない。もっとむずかしい練習をしたい」と泣いたという逸話がある。

「確かに田中選手も三笘選手も、当時から群を抜いていました。でも、基礎練習は大事。ゴールデンエイジと呼ばれる7歳から9歳までに基礎をしっかりやることが、これからの成長につながります。チームプレーなので、協調性も大事です。特別扱いはしません」 

学年ごとに達成目標を決め、それによって練習メニューを決める。各学年のコーチは月1回集まって、練習メニューについて話し合っているという。コーチも「さぎぬまサッカークラブのOBだ。

ラダートレーニングをする子どもたち。「むずかしそうなことでも、子どもは見よう見まねでこなしていきます」
ラダートレーニングをする子どもたち。「むずかしそうなことでも、子どもは見よう見まねでこなしていきます」

保護者ぐるみで練習。半数の父親が審判の資格を取得

それが終わると、コーチから「お父さん、お願いします」という声がかかった。

お父さん? 何が始まるのだろうと思ったら、付き添いのお父さんたちがグラウンドに入り、子どもたちとステップワークが始まった。お父さんがサッカー経験者でないと、このクラブには入れないのか? 

「そんなことはありません。お父さんの半数は未経験者。子どもと一緒に6年かけて成長していっていただければと思っています」

そうこうしているうちに、グラウンドの隅で50mのタイムトライアルが始まった。一人ずつ呼ばれて50mを全力疾走する。タイムを計っているのはお母さん。

HPに「このクラブの運営は保護者が行います」と書いてあったが、こういうことだったのか。これは保護者がたいへんそうだ。実際、「あのクラブに入るとたいへんらしいよ」というウワサが流れ、10年ぐらい前は1年生で入部してきた子が2人ということもあったそう。

「我々も方向転換したほうがいいのか悩みましたが、今までどおり親御さんが関われるクラブにしていこうと決めました。 

親御さんが子どもに関われるのは小学校の6年間しかない。子どもが中学高校とサッカーを続けても、応援するぐらいしかできない。一緒にサッカーをして、一緒にお風呂に入って、『今日のプレーはよかったな』と褒めながら、晩御飯を一緒に食べる。サッカーを通して家族としても成長してくださいと、説明会で話しています。 

親御さんが関わったことで、子どもはすごく感謝するんです。本当は遊園地や動物園に行きたかったかもしれないけれど、一緒についてきてくれた妹や弟に対しても、卒団式の場で『試合についてきてくれてありがとう』と感謝の気持ちを言うんですよ。涙が出ます」

権田選手のお父さんも頻繁に練習に来て、手伝っていたという。

最初は「たいへんだな」と思っていたお父さんたちも、子どもが卒業するころになると、「さびしくなるな」「これから何をしよう」と途方に暮れるとか。

なんとお父さんの半数は4級審判の資格をとり、公式戦や練習試合のときなど審判をしているのだそう。

「審判の資格を取ってもらうことでルールを学んでいただき、お子さんや家族にも共有いただけるので、たいへん助かります」

創部1979年と44年の歴史をもつ「さぎぬまサッカークラブ」。過去には関東大会ベスト8、県大会準優勝2回、川崎市U-12公式戦7連覇など輝かしい戦績を誇る「さぎぬまサッカークラブ」。強くなったのは、ご父兄とOBコーチのおかげと澤田さんは言う。

「入部当時は近年になく弱いチームと言われていたのに川崎市大会で準優勝したことで親御さんがその気になって、『県大会優勝も狙えるんじゃないか』と。みなさん、サッカーを勉強して、食事にも気を遣うようになった。今では先輩たちの活躍を見て、『自分たちもああなりたい』と高い意識で練習している。これが大きいと思います」

今、子どもたちの目標は三笘選手や田中選手であり、権田選手、板倉選手だ。

澤田さんの夢は?

「今も各学年に将来楽しみな子たちがいます。この子たちがどんな活躍をしてくれるか楽しみです」

また鷺沼から代表選手が生まれるかもしれない。

お父さんも練習に参加。練習は水曜、土曜、日曜の週3日。「ご両親が仕事で土日が休めないからといって子どもが参加できないわけではありません。サッカーがやりたい子なら、だれでもOK」
お父さんも練習に参加。練習は水曜、土曜、日曜の週3日。「ご両親が仕事で土日が休めないからといって子どもが参加できないわけではありません。サッカーがやりたい子なら、だれでもOK」

 

  • 取材・文中川いづみ
  • 撮影田中佑介

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