コラムニスト、小説家、ライター。秋田県出身。立教大学文学部日本文学科卒。2万人以上のワーキングウーマンの仕事、恋愛、婚活、結婚を取材。女性目線のコラム「”賞味期限”が女を不機や嫌にする」（現代ビジネス）などや映画コラムも。ルポ「同窓会恋愛」（婦人公論）、「高学歴女性の貧困」（サンデー毎日）など。「戦略的に離婚しない女たち」（週刊朝日）などで夫婦問題にも言及。「33歳女の壁その後」（朝日新聞社telling）では40万以上のPVを獲得。2020年4月日刊SPAの記事でYahoo!ランキング総合第一位に。連載小説「眠れない夜」（Wome）ランキング第一位。2007年10万人に一人の難病・ギランバレー症候群を後遺症なしに完治。

夏目 かをる

<figure id="attachment_279299" aria-describedby="caption-attachment-279299" style="width: 2448px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c5ba6eef"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/12/IMG_3715-rotated.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-279299" class="wp-caption-text">業績絶好調で豪遊していたころの花蜜氏（画像：本人提供）</figcaption></figure>
「当時は死ぬ勇気もなかった」
彼方を眺めながらそう語るのは、「世界初のフードデリバリー」の『出前館』創業者・花蜜幸伸氏（53）だ。時価総額840億円（22年10月14日時点）の立役者である。
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花蜜氏は、新規事業を世に出し注目を浴び続けた。出前館は順調に成長。ところが花蜜氏の人生は突然暗転する。金融商品取引違反（相場操縦）容疑で、有罪判決を受けたのだ（以下、発言は花蜜氏）。
「会社を助ける気で株を買い続けたのに、16年２月の朝、突然金融庁の証券取引等監視委員会が家宅捜索に入ったんです。金融商品取引法違反・相場操縦違反容疑で金融庁から呼び出されると、開口一番『罪状ありきで調べる』と逮捕・起訴・裁判が待っていることを予告されました。
取り調べも、まるで罪状ありきです。無実を訴え続けると、取り調べは１年以上に及んでしまって……。その間は仕事もできない。地獄の日々でした」
無実の訴えも虚しく、17年３月に有罪判決を受けた。花蜜氏は控訴するも、最高裁は異議申し立てを棄却決定。18年10月に懲役３年、罰金2000万円、追徴金約１億2900万円で４年間の執行猶予つき有罪判決が確定したーー。
<h2>55階のタワマンで朝からシャンパン</h2>
<figure id="attachment_279300" aria-describedby="caption-attachment-279300" style="width: 1108px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="583b5e8b"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/12/IMG_1726.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-279300" class="wp-caption-text">罰金2000万円を出資してくれた知人のおかげで期限直前に支払い終了（画像：本人提供）</figcaption></figure>
映画『ザ・インターネット』で、主演のサンドラ・ブロックがパソコンでピザを注文するシーンからヒントを得て、仲間４人で資金１億円を集め99年に出前館を創業。ベンチャー企業の旗手として脚光を浴び、タワーマンションの55階に住んで朝からシャンパンを楽しむ優雅な生活を送っていた。歯車がおかしくなったのは12年ごろからだ。
「事件の発端となったのは、12年の年明けでした。出前館の株の動きがおかしいと感じたんです」と花蜜氏。その10年ほど前からの、経営を巡るトップの人間模様が絡んでいた。
「02年当時副社長だったＮに社長職を譲り、私は会長職に就任しました。理由はＮと事業方針がまったくかみ合わず、不仲だったからです。Ｎは僕の解任動議を役員会で提案。周囲がＮを止めたためおさまったものの、それをキッカケに僕は出前館を出ることに決めました」
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出前館の経営から去った花蜜氏は、08年12月 に経営者団体『一般社団法人 日本元気丸』を設立。代表理事となった。
一方、出前館は花蜜氏が出てから10年後に社内クーデターが勃発。追放されたＮ氏が助けを求め、花蜜氏のもとを訪れたという。
「あれだけ揉めた僕のところにくるなんて……。びっくりしましたよ。でもＮから話を聞くと、経営陣のカネの使い方についてNの主張に一理あると感じました」
花蜜氏が退陣した後に、上場企業となった出前館。自分が創業した会社を案じる気持ちもあったのだろう。花蜜氏は株主を巻き込むことを提案してＮ氏側につき、社内クーデターからＮ氏を守った。
<div data-friday-nextpage-lead="騙された外資系ファンドの正体"></div>
<figure id="attachment_279302" aria-describedby="caption-attachment-279302" style="width: 1176px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="1ef37d98"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/12/IMG_0127.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-279302" class="wp-caption-text">最高裁まで争った裁判（画像：本人提供）</figcaption></figure>
「その後Ｎから、出前館に戻ってほしいと頼まれました。新規事業担当の特別顧問として外から支えることにしたんです。いざ戻ってみると、新しいことがない、面白みのない会社になっていて……。社内のポテンシャルが下がっていました。
会社を再興しようと新規事業を開拓するなど、再び経営に関わるようになると愛着が生まれましたね。手放してしまった株を買い戻せば外部の立場でも新事業を行い会社に貢献できるし、社内の揉めごとにも巻き込まれにくくなるのではと考えたんです」
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発想が形になってどんどん新しい事業が生まれると、成長は株価に顕著に表れる。「やりがいを感じていた」という花蜜氏が株を買い戻していると、売り攻勢を仕掛けてくる勢力があった。
「株価を下げてやろうという意図が感じられる、変な『売り』が出てきました。僕は株価が下がらぬよう、どんどん株を買い増したんです。しかし、取引が終わる直前にドーンと大きめな売り方をされ株価が下がる。こちらも、どんどんヒートアップして株を買いまくりました」
「いずれ株価は上がるから」と信じていた花蜜氏は、友人や知人に借金をする。12年６月には、その額が10億円まで膨れ上がった。
「防衛買いのつもりでどんどん買い続けていたら、罠にはまったんです。その結果、全株売却することになり、株価は大暴落しました」
<h2>「株価はめちゃくちゃ」</h2>
<figure id="attachment_279303" aria-describedby="caption-attachment-279303" style="width: 2448px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="6760888f"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/12/IMG_0512-rotated.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-279303" class="wp-caption-text">朝からシャンパンを飲んでいた「タワマン生活」（画像：本人提供）</figcaption></figure>
罠を仕掛けてきたのは、花蜜氏の知人で８歳年下の外資系金融機関社員Ｔと外資系ファンドだった。
「Ｔは『日本元気丸』のメンバーの紹介で、一緒に飲みに行くほどの仲でした。Ｔが勤務する金融機関と口座取引をしていませんでしたが、10億円の借り入れのうち、彼のお客から2.2億円借りていて、そのうち数百万円のフィーを取ってＴが小遣い稼ぎをしていたんです」
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ある時、Ｔから電話がかかってきた。「まとまって（株を）買うと言う人がいる」と。それが外資系ファンドだった、ただし７％ディスカウントして売ってほしいという。現金が欲しかった花蜜氏は承諾した。
「大口取引などで株価を乱高下させないために、市場が閉まった後、その日の終値で取り引きができるという制度を活用しました。Ｔが紹介してくれた外資系ファンドと、取引が終わる15時に７％ディスカウントで株を売却するという内容の契約を交わしたんです」
株価を下げれば下げるほど外資系ファンドの利益になる。まだ高いままの値段で株をどんどん売り、15時の底値のさらに７％のディスカウントで花蜜氏から株を安く買う。15時までに売れば売るほど、ファンドが儲かるようなからくりだった。当然、出前館の株価は下がる。花蜜氏はまんまと罠にはまったが、花蜜氏は気づいていなかった。
「Ｔから電話がかかってきて、外資系ファンドがさらに追加で買いたいと言っている、と言ってきたんです。騙されていたことに気づかなかった僕は週明けにもう一度同じことをされて、株価はめちゃくちゃに下げられて買い叩かれました」
花蜜氏はタワマンのリビングにある大型モニターの前で、暴落した様を見ながら茫然自失となる。財産がふっ飛んでしまっただけでなく、社会的な信用が総崩れになってしまった瞬間だった。
<div data-friday-nextpage-lead="「どこまで落ちればいいんだろう」"></div>
<figure id="attachment_279350" aria-describedby="caption-attachment-279350" style="width: 1024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c0920691"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/12/IMG_4428.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-279350" class="wp-caption-text">追徴金約１億2900万円は毎月１万円ずつローンで返済。すべて返済するには残り1073年かかる（写真は一部加工しています）</figcaption></figure>
その直後だ。相場操縦取引の情報提供で家宅捜索が入ったのは。財産を失った花蜜氏は、55階のタワマンから友人の社長の倉庫で仮住まい。別の社長が資金を出してくれてアパートへ引っ越し。そこに債権者が押しかけた。中には知らない人間やヤミ金もこぞってやってくる。「どこまで落ちればいいんだろう」。暗闇の中でうずくまる生活が続いているうちに、金融庁の罪状ありきの取り調べが始まったのだ。
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「死んだほうがマシだけど、死ぬ勇気もなかった」という花蜜氏。だが金融庁の取り調べ中にふっと、あることを思い出す。暗闇に光がさした。
「そうだ。俺には『ペットの里』があるじゃないか。まだ頑張れるぞ！」
犬や猫の殺処分ゼロをめざす『一般財団法人ペットの里』の設立に、ビジネスパートナーと共に14年から参画していた。パートナーが立案した事業だが、命を守る仕事に次第にのめり込んでいったという。
「取り調べ中の期間に、資金がない中で知名度を上げて資金を増やす手段を考え続けていました。イベントの企画を立てるとわくわくします。へこたれてなるものか。生きるエネルギーが湧いてきました」
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新しいことに果敢にチャレンジしたいという強い気持ちが、花蜜氏を救った。
株価の大暴落で８ヵ月間引きこもり、金融庁の取り調べで１年２ヵ月、東京地検特捜部の取り調べ２ヵ月、無罪主張で闘った裁判２年４ヵ月……。すべてにケリがついたのは18年９月26日だ。延べ４年４ヵ月に及ぶ、花蜜氏の長い戦いが終わった。
辛い戦いだったが、嬉しい声もかかった。罰金2000万円を、ぽんと出資してくれる人がいたのだ。罰金を払うことができたおかけで、花蜜氏は刑務所での労役から逃れられ、再び事業に着手できた。
取り調べ中に決意したように、現在、花蜜氏はペットビジネスに携わっている。岩手県滝沢市にある『ペットの里』に動物病院、貸し農場、カフェ、公園、キャンプ場を設立。
「やっとスタートラインです。まだまだこれから。ワクワクを形にします」
23年２月には20万人が集まるイベントを開催する予定だ。
<figure id="attachment_279305" aria-describedby="caption-attachment-279305" style="width: 1024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="1592be87"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/12/IMG_4425.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-279305" class="wp-caption-text">『フライデーデジタル』の取材に応える花蜜氏</figcaption></figure>

夏目かをる

花蜜氏提供

フードデリバリーの先駆けといえる『出前館』。創業者のインタビューだ。外資系ファンドの介入を招き同社の株価は大暴落。地獄を経験した創業者が明かす「どん底と意外な現在」。勇気がわく名経営者の言葉だ。

株価大暴落を招いた『出前館』創業者が語る「地獄の４年４ヵ月と意外な現在」

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