日本大会4連覇、世界大会でも優勝…「スラックライン」”天才”中学2年生がいま考えていること
「文房具好きだから世界一の賞金でシャープペンを買いました」 3歳から始め、日が暮れるまでトレーニング。自身の名がついた「リクトフリップ」も
「スラックラインは日本ではまだまだ知名度が低い競技なので、もっと世間に浸透してライバルが増えたら嬉しいです」
丁寧な言葉遣いでそう話すのは、今年ドイツで行われたスラックラインの世界大会「トリックラインワールドカップ2022」で優勝した中村陸人(14)だ。
中村は日本大会で4連覇するなど日本随一のスラックライン選手。「スラックライン」は幅5㎝・長さ20mほどの”ライン”の上で、アクロバティックな技を繰り出すストリートスポーツである。’00年代にドイツを中心にヨーロッパで大流行し’09年に日本に上陸した。競技を始めたきっかけはなんだったのか。
「父が趣味でやっていて、3歳の時に練習場に連れていってもらい、5歳くらいからは一人で跳ねていました。スラックラインは難易度が高く、ラインの上に乗るのも一苦労。技をできた時の達成感が自分にとっては何よりも魅力でした」
中村の強みはひねり技。ひねりを応用し、中村が編み出したオリジナルの技があるという。
「”リクトフリップ”という、自分の名前がついた技があります。あとは、世界でまだボクにしかできていない”コンチネンタルフリップ”という技が自分の最大の武器です。この技は”リクトフリップ”よりも1回転ひねりが多く、後方宙返りを2回転半する難しい技です。この技を生み出すのは大変でした」
オリジナルの技を習得する際に大事なのは、何度も何度も繰り返すこと。さらに、もうひとつ大事なことがあるという。
「成功をイメージすることです。自分の体が俯瞰(ふかん)でどうなっているのか、その時にどういった景色が見えるのか。自分の中でイメージし尽くしてから、実際にラインの上で練習しています」
小学校1年生の時に、祖父母の家の庭に専用の練習場を作り、一日中跳び続けたという。中村の活躍をそばで見続けた父・学さんは、こう話す。
「最初は、陸人にはサッカーをやらせたかったんです。どんな競技でも体幹は大事なので、重点的に鍛えるためにスラックラインを始めたのですが……。気づいたらそっちにのめりこんでいました。小学生の時は、技ができるまで朝8時から外が真っ暗になるまで一人でずっと練習。できた瞬間に緊張の糸が切れて、大泣きしていました。親バカかもしれませんが、本当にマジメでストイックな子だと思います(笑)」
スラックラインで数々の称号を得ている中村だが、実生活ではまだ中学2年生。学級委員長をしているという彼に、最近ハマっているものを聞いた。
「文房具が大好きなんです。特に低重心のシャープペンが使いやすいうえに、かっこよくて気に入っています。最近は世界大会の賞金で8000円のシャープペンを買いました」
最後に、今後の目標を語ってもらった。
「世界で自分にしかできない技を増やしていきたいです。何よりも、スラックラインという競技が世間に浸透して、興味を持ってもらえたら嬉しいです」
さらなる高みを目指すため、中村は宙を舞い続ける。
◆なかむら・りくと/’08年、栃木県生まれ。3歳からスラックラインをはじめ、小2で日本オープン優勝。以来4連覇。今年6月、ドイツで行われたワールドカップで優勝。来年1月15日、ブレックスアリーナ宇都宮で開催されるイベント「チャレンジ・スラックライン」に出演予定





写真:足立百合