'77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。

石井 光太

１回１万円で売春し自殺未遂…どん底の名門・女子校生「ヨーロッパの大学へ進学」奇跡の実話

コミュニティー崩壊し路上で寝泊まり、命を落とす人も…「外国人ホームレス」急増の悲しい背景

ノンフィクション作家・石井光太が社会・事件に迫る！衝撃ルポ

<figure id="attachment_280192" aria-describedby="caption-attachment-280192" style="width: 1256px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="0156253c"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/12/jpp05482521.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-280192" class="wp-caption-text">労働者の多い街にも外国人の姿が目立つようになった（写真はイメージで、一部加工しています。画像：時事通信社）</figcaption></figure>
<p>日本でホームレス化する外国人が増加している社会的背景を、【<a href="https://friday.kodansha.co.jp/article/280189">前編：命を落とす人も…「外国人ホームレス」急増の背景</a>】につづいて見ていきたい。</p>
<p>首都圏を中心に生活困窮者を支援している一般社団法人つくろい東京ファンド。職員の大澤優真はここで主に移民や難民といった外国人のサポート事業を手掛けている。</p>
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<p>大澤は新型コロナの感染拡大以降、外国人同士が困窮した仲間を助け合う相互扶助の力が弱まりつつあることを指摘する。</p>
<p><span class="strongInContent">「これまでも外国人が生活に行き詰まることはありました。それでも仲間の助けがあったから、ホームレスになるようなことはあまりありませんでした。</span></p>
<p><span class="strongInContent">しかし、新型コロナが広まってから不況が深刻なものになり、外国人全体の経済力が落ちていきました。その結果、仲間が困っていても手を差し伸べることができないということが起きました。それで弱い立場の人から深刻な状況に陥りはじめたのです」</span></p>
<p>ここで考えなければならないのは、外国人労働者の中でも「もっとも弱い立場の人たち」が誰かということだ。</p>
<p>外国人であっても就労が可能なビザを所有していれば、不況で仕事を失っても転職することができる。仕事を選ばなければ何かしらの職にはつけるものだ。</p>
<h2>〝日本にいることだけは許可する〟</h2>
<figure id="attachment_280191" aria-describedby="caption-attachment-280191" style="width: 6000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="02941bb9"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/12/jpp040469123.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-280191" class="wp-caption-text">外国人ホームレスが炊き出しを受けることも（写真はイメージで一部加工しています。画像：時事通信社）</figcaption></figure>
<p>だが、外国人の中にはそうしたビザを持っていない者がいる。その代表的な例が、大澤が支援している難民だ。彼らは国から命からがら逃げてきたものの、日本によって難民として認定されず、「仮放免」という立場で在留している。</p>
<p>仮放免とは、わかりやすく言えば〝就労や社会保障は認めないけど、ひとまず日本にいることだけは許可する〟という認定だ。だが、私財を母国に置いて逃げてきた難民が、先進国の日本で生活していくのは困難だ。</p>
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<p>そんな者たちができるのは２つ。入管の目をかいくぐって不法就労するか、外国人コミュニティーなどを頼って経済的支援してもらうかだ。</p>
<p>だが、新型コロナによる不況によって、不法就労していた先の事業が厳しくなって職を失ったり、支援者たちが経済困窮したりするようになった。それによって、難民の一部が住居を失う事態が起きたのだ。</p>
<p>もしかしたら、読者の中には彼らが難民として認められないのは、本人の自己責任だろうと考える人もいるかもしれない。だが、日本は世界でも有数の難民申請認定率が低い国として知られている。</p>
<p>一例として先進国の難民認定率（2019年）を示そう。カナダは51％、イギリスは39％、アメリカは22％だ。これに対して、日本はわずか0.29％。同じ先進国でも、日本はこれだけ難民に対する扱いを軽んじているのだ。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="難民の扱いを軽んじる生々しい実例"></div>
<figure id="attachment_280194" aria-describedby="caption-attachment-280194" style="width: 3744px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="7681882f"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/12/jpp08109994.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-280194" class="wp-caption-text">公園の外国人ホームレス（写真はイメージで、一部加工しています。画像：時事通信社）</figcaption></figure>
<p>実際に今回取材した外国人の中にも、こうしたケースでホームレスになったアジア系の女性がいた。難民という特殊な事情から「Aさん」と仮名にしたい。</p>
<p>来日後、Aさんは入管を仮放免という形で出た後、同じ国出身の知人の家で暮らしていた。だが、その知人が私的な事情で引っ越しをすることになった。</p>
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<p>Aさんは住居を失っていくつかの公園を転々としながら暮らしていたが、何度か日本人に襲われる経験をした。彼女は路上生活の恐怖に耐えかね、別の知人に助けを求めた。その知人はAさんを受け入れる余裕がなかったので、日本人の男性を紹介した。</p>
<p>日本人男性はAさんを家に泊めることを了解したが、しばらくして性的な行為を求めるようになった。Aさんは嫌だったが、ホームレスにもどることを恐れ、受け入れざるをえなかった。</p>
<p>Aさんがこの家から離れられたのは半年後のことだった。別の同郷の人が事情を知り、別の支援者を見つけてきてくれたのである――。</p>
<p>一般的に日本人がホームレスになっても、日雇い労働をするとか、廃品回収をするとか、段ボールハウスをつくるなど、何とか生きる術を思いつくだろう。安全な場所や身を隠す術もなんとなくわかる。</p>
<p>しかし、外国人はそうではない。まったく情報がないゆえに、文字通り無一文で路上で寝泊まりすることになる。それゆえ、ホームレスになった時のリスクが日本人より圧倒的に大きいのだ。</p>
<h2>「病院で治療を受けることもできない」</h2>
<figure id="attachment_280198" aria-describedby="caption-attachment-280198" style="width: 3044px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="96f13035"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/12/jpp023897702-1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-280198" class="wp-caption-text">労働者の多い街にも外国人の姿が目立つようになった（写真はイメージで一部加工しています。画像：時事通信社）</figcaption></figure>
<p>大澤は次のように語る。</p>
<p><span class="strongInContent">「特に新型コロナの感染拡大後に言えることなんですが、入管が積極的に外国人に仮放免をつけて出すことが増えました。２倍近く増えました。</span></p>
<p><span class="strongInContent">問題は入管から出される外国人の中には身心の不調を訴えている人が少なくないことです。入管に収容されている間に健康を崩してしまう。しかし、彼らは外に出されたところで保険に入っていませんから病院へ行って治療を受けることもできない。最悪亡くなるケースもあるのです」</span></p>
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<p>大澤が遭遇したケースでは、カメルーン人の女性がいる。彼女は難民申請が認められず、入管に２度にわたって収容されることになった。その当時から体調に異変を感じていたが、しっかりとした検査を受けることができず、仮放免で出された後に病院へ行ってステージ３のがんであることが発覚した。体中に転移しており、治る見込みは乏しかった。</p>
<p>肩を落として退院していた彼女を待ち受けていたのは、住居の問題だった。家賃滞納でアパートを締め出されてしまっていたのだ。</p>
<p>彼女は行く当てもなく末期がんの体でネットカフェで寝泊まりするなどホームレスの生活をはじめた。途中で教会の関係者が彼女を発見して善意のある病院へ入院させたものの、間もなく死亡した。一年の在留資格を認める「在留カード」が届いたのは、その３時間後だったという――。</p>
<p>仮放免の外国人は、働くこともできなければ、日本の福祉制度を利用することもほとんどできない。さらに健康を害していることが多いのであれば、生活どころか、生存すら危うくなるのは明らかだ。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="サポートが半永久的に続いてしまう理由"></div>
<figure id="attachment_280193" aria-describedby="caption-attachment-280193" style="width: 1728px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="ce89031e"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/12/aflo_5678655.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-280193" class="wp-caption-text">公園で寝泊まりする外国人も多い（画像はイメージで一部加工しています。画像：アフロ）</figcaption></figure>
<p>そこで思いつくのが民間による支援だ。だが、そのコストは尋常ではない。大澤は言う。</p>
<p><span class="strongInContent">「私たちのシェルターでは８人の外国人をサポートしています。通常、日本人の生活困窮者をサポートする場合は、こちらで一定期間暮らせる住居を用意し、生活保護など様々な制度を利用しながら、生活が安定できるようにサポートします。</span></p>
<p><span class="strongInContent">しかし、仮放免の外国人の場合は、そういかないのです。彼らは就労が認められていないし、社会福祉制度を利用することもできない。なので、こちらで一度受け入れると、難民認定されるまでずっとサポートしつづけるしかなくなるのです。もっと言えば、基本的に彼らが難民認定されることはありませんので、サポートが半永久的に継続してしまうのです」</span></p>
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<p>難民を支援しようとすれば、家賃だけでなく、食費、光熱費、それに医療費まですべてを〝丸抱え〟しなければならなくなる。仮に１人当たり年間150万円かかるとしても、８人いれば1000万円を優に超える計算になる。</p>
<p>さらに難しいのは、外国人支援は日本人支援に比べると、寄付が集まりにくい点だ。企業の中には生活困窮者を支援する組織に寄付をしているところも多いが、「難民」「仮放免」というキーワードに対する拒絶感があるそうだ。国が滞在を正式に認めていない人間を、企業が支援するわけにいかないと考えるのだ。</p>
<h2>〝働けない〟〝病気〟〝帰国できない〟</h2>
<p>だが、難民に関して言えば、彼らは母国で差別や紛争などにさらされ、命からがら逃げ来てきた人たちだ。先進国の多くは彼らを難民として認定しているが、日本はそうではない。ゆえに、この日本で貧困と病気に苦しんでいる。そうしたことを踏まえれば、国も何かしらの支援を考えるべきではないか。</p>
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<p>大澤は言う。</p>
<p><span class="strongInContent">「せめて国には難民の就労を認めてほしいと思います。〝働けない〟〝病気〟〝帰国できない〟というハンディを背負った難民が、どうやって日本で生きていけるというのでしょうか。就労だけでも認めなければ、難民の切り捨てだと言われても仕方ありません。</span></p>
<p><span class="strongInContent">難民の人たちは日本に何から何まで面倒を見てほしいなんて思っていません。彼らは安全な土地で暮らして、きちんと働いて自立したいと私に話しています。特に日本に来ている難民は、母国ではそれなりの社会的地位にあった人たちが多いので、その意思が高い。だから、就労だけでも認めれば、自分で働いてどうにかなる人たちが多くいるはずなのです」</span></p>
<p>大澤の印象に残っていることがある。</p>
<p>2022年６月、練馬で「難民・移民フェス」が開催された。この時、働くことができない難民たちがフェスの手伝いという形で参加したそうだ。すると、それまで日本で何もできずに絶望のどん底にあった難民が、多くの人たちと触れ合っているうちに役に立っているという実感を得て、見違えるように生き生きとしはじめたそうだ。</p>
<p>大澤は言う。</p>
<p><span class="strongInContent">「難民の人たちはサポートしてもらうことを非常に申し訳ないと思っていて、何もできない自分を否定的に考えています。でも、フェスの手伝いをしただけで、あれだけ輝けるんです。人にとって働くことは、それだけ大きな力になる。そう考えた時、生きていくためには働くことが必要だとつくづく思いました」</span></p>
<p>外国人ホームレスの増加の背景には、日本の様々な社会問題があるだろう。だが、国としても外国人ホームレスを増やすことを是とはしないはずだ。ならば、今何ができるのか。そのことをもう一歩深く考える時期にきていると思う。</p>
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<p>【募集】</p>
<p>シリーズ「ヤング・ホームレス」では、定住先のない10～40 代の人を探しています。車上生活者、ネットカフェ難民、出稼ぎ風俗嬢、寮暮らしの日雇い労働者、ホテル生活者、店舗生活者、支援施設での生活者など、現在でも過去でも、住居を失った経験のある人の実体験、あるいはその支援をされている方々の声を募集しています。匿名などの条件にも応じますので、著者までご連絡下さい。</p>
<p>石井光太（作家）</p>
<p>ツイッター　@kotaism</p>
<p>メール　postmaster@kotaism.com</p>
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77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。

石井光太

時事通信社　アフロ

近年、外国人ホームレスが急増している。カネも家もなく公園や漫画喫茶で寝泊まりする人も。中には命を落とす外国人もいるという。日本人が知らない驚愕の実態にノンフィクション作家・石井光太氏が迫る。

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