「いだてん」は100%の大河ドラマである

指南役のエンタメのミカタ 第8回

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『いだてん』公式Webサイトより

僕は、『いだてん』ほど、大河ドラマに相応しい作品もないと思う。

同ドラマ、日本が初めてオリンピックに参加してから、悲願の自国開催を成し遂げるまでの半世紀に及ぶ物語である。脚本・宮藤官九郎、チーフ演出・井上剛、プロデューサー・訓覇圭の座組は、朝ドラ『あまちゃん』と同じ。大河の近現代劇は、橋田壽賀子脚本の『いのち』以来、実に33年ぶりとなる。

そう書くと、戦国モノでも幕末モノでもない『いだてん』は、大河ドラマとしてはちょっと異端に映るかもしれない。近現代劇というと、むしろ朝ドラの世界に近い――とも。だが、僕はその風潮に異を唱えたい。

そもそも近現代劇というが、例えば、大河第1作の『花の生涯』は井伊直弼が主人公で、放送当時(1963年)から見れば、舞台となる幕末はおよそ100年前だった。それから半世紀以上が経過して、『いだてん』の前半パートが描く舞台も、今からおよそ100年前である。つまり、1960年代から見た幕末と、現代から見た大正時代の時間のスパンはほぼ同じ。『いだてん』が際立って近現代劇というワケでもないのである。

物語は、「日本のマラソンの父」こと金栗四三(中村勘九郎)と、1964年の東京オリンピック招致に尽力した田畑政治(阿部サダヲ)の2人の主人公を軸に、リレー形式で描かれる。とはいえ、どちらも一般には馴染みが薄い。

いわゆる“顔見せ”となった1話を見る限りでは――物語の実質的な主人公は、役所広司サン演ずる嘉納治五郎と思われる。ご存知、柔道の創始者であり、日本人初のIOC委員として、日本とオリンピックを繋ぐキーパーソンとして活躍した偉人である。日本が初めて参加したストックホルム・オリンピックも、幻となった1940年の東京オリンピックの招致も、彼なしでは叶わなかった。

いや、亡くなった後に実現した1964年の東京オリンピックですら、彼の威光が決め手になった感がある。ほら、1話で星野源サン演じるNHKの解説委員の平沢和重が招致のための最終スピーチで登壇した際、東京都知事の東龍太郎(松重豊)が「かの嘉納治五郎先生の最期を看取った人物です」と紹介すると、各国のIOC委員たちが一様に拍手していたでしょ。IOCはいわば貴族のサロン。仲間意識が強いのだ。

ならば、ストレートに嘉納治五郎を主人公に描けばいいと思うが、何せ、嘉納先生がオリンピックに携わるのは、50に差し掛かった晩年から。当時としてはおじいちゃんである(ちなみに、漫画「YAWARA!」に登場する柔の祖父・猪熊 滋悟郎のモデルとも言われる)。そのため、彼の教え子で、日本人初のオリンピック選手となった金栗四三が前半パートの主人公に選ばれたのだろう。その7歳下で、後半パートの主人公・田畑政治もしかりである。

さて、同ドラマは、そんな2人の主人公の他に、第3の男も登場する。ビートたけしサン演じる古今亭志ん生である。4年後の東京オリンピックの話題で持ち切りの1960年、架空の落語『オリムピック噺』の語り部として、高座に上がるのだ。物語の前半パートと後半パートを俯瞰する役目である。その際、青年時代の志ん生を森山未來サンが演じ、なぜかストーリーの端々に偶然居合わせる。いわば、フォレスト・ガンプ的な世界観を狙っているのだろう。正直、志ん生のパートがなくても物語は成立するが、そこは落語好きの宮藤サンだけに、史実と史実の間を繋ぐ緩衝材として、遊びたいのだと思う。クドカン流の小ネタの類いも、志ん生周りで見られそうだ。

とはいえ、同ドラマの見どころは、やはりオリンピックの史実の部分である。

昔から「初物に強いクドカン」と言って、不思議と彼は初めて組む相手や、初めて取り組む仕事ほど、傑作を残す傾向がある。初めての連ドラで、大御所・堤幸彦監督と組んだ『池袋ウエストゲートパーク』、初めてフジテレビで書いた『ロケット・ボーイ』、初めて東野圭吾原作に取り組んだ『流星の絆』、初めてNHKと仕事をした『あまちゃん』――。そう、目の前に高い壁が立ちふさがるほど、天才・宮藤官九郎は本領を発揮する。

そこで、『いだてん』である。いくら制作陣が『あまちゃん』と重なるとはいえ、初めての大河ドラマで、それなりのプレッシャーがあるのは事実だろう。おまけに近現代史なので、かなり資料が残されており、創作できる部分は少ない。志ん生パートは、そのために設けられたとも。

しかし、である。膨大な史実をまるでジグソーパズルのように組み合わせることで、きっと宮藤サンなら神シナリオを生み出してくれる。壁が高ければ高いほど、彼は本領を発揮するタイプである。

恐らく――それが最も生きるのが、前半と後半の2つのパートを繋ぐ、いわゆる“ミッシングリンク”の部分だろう。中村勘九郎演ずる金栗四三と、阿部サダヲ演ずる田畑政治がいかにして重なるか。

つい、僕らは太平洋戦争を挟んで、戦前と戦後で全く異なる2つの時代が流れていると捉えがちだ。だが、実は2つの時代はある部分で連続しており、日本が戦後、比較的早く復興を遂げられたのも、2つの時代を結ぶミッシングリンクのお陰である。思うに『いだてん』は、平和の祭典である近代オリンピックを通して、初めて日本の戦前と戦後をつなぐ歴史的ドラマになるのではないだろうか。

歴史という大河は、時に蛇行し、時に干上がる危険に晒され、時に幾多に分流しながらも、やがて一つに交わり、再び大きな流れとなる。過去があるから、今がある。そして来年、再び東京にオリンピックがやってくる。

僕が『いだてん』を、極めて“大河ドラマ”的と太鼓判を押すのは、そういう理由である。

  • 草場滋(くさば・しげる)

    メディアプランナー。「指南役」代表。1998年「フジテレビ・バラエティプランナー大賞」グランプリ。現在、日経エンタテインメント!に「テレビ証券」、日経MJに「CM裏表」ほか連載多数。ホイチョイ・プロダクションズのブレーンも務める。代表作に、テレビ番組「逃走中」(フジテレビ)の企画原案、映画「バブルへGO!」(馬場康夫監督)の原作協力など。主な著書に、『テレビは余命7年』(大和書房)、『「朝ドラ」一人勝ちの法則』(光文社)、『情報は集めるな!」(マガジンハウス)、『「考え方」の考え方』(大和書房)、『キミがこの本を買ったワケ』(扶桑社)、『タイムウォーカー~時間旅行代理店』(ダイヤモンド社)、『幻の1940年計画』(アスペクト)、『買う5秒前』(宣伝会議)、『絶滅企業に学べ!』(大和書房)などがある

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