「腰は振ってないよね」と言った加害者から示談申し出も…五ノ井里奈さんが「許せなかった言葉」 | FRIDAYデジタル

「腰は振ってないよね」と言った加害者から示談申し出も…五ノ井里奈さんが「許せなかった言葉」

【独占】それでも、自衛隊は変われると信じたい。

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自衛隊に在職中、壮絶なセクハラを受け「心が折れた」五ノ井里奈さん。絶望から立ち上がり「告発」をした理由は…。緊張の記者会見を終えた彼女が「本当の気持ち」を聞かせてくれた
自衛隊に在職中、壮絶なセクハラを受け「心が折れた」五ノ井里奈さん。絶望から立ち上がり「告発」をした理由は…。緊張の記者会見を終えた彼女が「本当の気持ち」を聞かせてくれた

 

「緊張しました。会見中、頭が真っ白になってしまって…」

元自衛官で、在職中に受けたセクハラの被害を実名・顔出しで告発した五ノ井里奈さん(23)は、こう言って、すこしほっとした笑顔を見せた。12月19日、外国特派員協会で行われた記者会見を終えた直後の表情だ。会見には、外国通信社の記者だけでなく日本のテレビ、新聞各社、大勢のジャーナリストが詰めかけ、彼女のひとことひとことに耳を傾けた。

「つらい、苦しい体験を、勇気をもって話してくれたことに、敬意を表します」

質問に立った記者のなかには、まずこう語りかける者もあった。

五ノ井さんは、20歳だった2020年4月に陸上自衛隊に入隊した。5歳から始めた柔道を極めたかったこと、自身が被災者となった東日本大震災のとき支援してくれた女性自衛官への憧れから、自衛官を志したのだ。半年の研修を経て、2020年9月に郡山駐屯地に配属、その直後から、先輩である複数の男性隊員から、繰り返しセクハラの被害に遭った。

「私のいた部隊では、セクハラが『コミュニケーション』のように行われていました。廊下を歩いていると突然胸を掴まれたり、衣服越しに男性隊員の股間を触らせられるなど、日常的にセクハラがありました」

そして2021年8月、訓練先の山のテントで、決定的な被害があった。彼女は訓練先から帰宅。上司らに被害を訴えるが組織内の調査はなされず、今年6月、自衛隊を退職した。

大勢の目前で受けた壮絶な性暴力

「訓練中は、男女平等でいいんです。でも、訓練後の宴会では飲食の準備などを女性隊員が担うことになる。さらに酒が進むと…」

ここで五ノ井さんが受けた被害は、壮絶なものだった。

「10数人の男性隊員に女性が1人か2人ということはよくあります。あのときは、そういう飲み会の状態で、みんなの前で押し倒され(性交の)正常位のような姿勢で、腰を押し付けられました。それが、ひとりではなく続き、上司にあたる立場の人は止めるのではなくむしろ煽るような声かけをしていました」

誰も、助けてくれなかった。

加害隊員は「腰は振ってないよね」と言い放った

彼女は退職後、実名で被害を告発したが、在職中にももちろん、自衛隊の組織のなかで被害を訴え出ている。組織は、被害を「知らなかった」はずはない。

「けれども、改善はされませんでした」

彼女が勇気をもって告発したとき、加害の男性隊員は五ノ井さんに対して

「そういう(押し倒すような)行為はあったかもしれないけど、腰は振ってないよね」

と、繰り返し言い募った。反省は感じられなかった。

「示談金30万円」の提案と許せなかった「一言」

憧れて入った自衛隊で受けた屈辱、絶望によって「死のう」と思ったこともあった彼女が立ち上がり、告発できたのには理由がある。

「私は今でも、自衛隊が嫌いではないんです。自衛官のなかには、ほんとうに尊敬できる人もたくさんいます。だから、自衛隊に間違いをただしてほしい。ハラスメントは女性だけの問題ではありません。男性もパワハラやセクハラの被害にあうことはあります。女性が働きやすい職場、ではなく、男性女性にかかわらず、だれもが働きやすい環境になってほしい」

彼女がネットで署名を集め、防衛省に「再調査」の要望を提出したのは今年の8月。そして15日、加害の隊員5人に「懲戒免職」という処分が下った。

「セクハラをした人に、罪を認めて謝ってほしい、そして自衛隊によくなってほしいというのが私の願いです。私が実名で告発をしなければ、問題視されることもなく、加害者たちは平然としていただろうと思います」

支援団体もなく、ひとりで戦ってきた。本名を明かし、顔を見せて告発をした「五ノ井里奈」。対して、性暴力を行った隊員らの氏名は公表されない。加害者は弁護士を立てて、示談を申し入れてきた。

「示談金として言われたのが、ひとりあたり30万円でした。これが高いとか安いとか、そういうことはわかりません。けれどもそのなかで、『個人としての責任があるか疑問』と言われました。この言葉に驚き、怒りが込み上げたんです」

今、五ノ井さんは、今後、民事裁判に訴えることも検討していると言う。国家賠償請求を勧める人もいる。しかし裁判にするかどうかは、決めかねている。

「こんなひどい被害にあったのに裁判をためらうのはなぜ、と問われることもあります。なぜ、って…。私は、私の人生を生きたい。裁判をして、そのことで時間や労力、気力を使うことがいいのかどうか…」

「五ノ井里奈」の夢

告発をすること自体には、まったく「迷いはなかった」という彼女。

「ここまで無我夢中で、どうすれば謝罪されるのか、それを考えて行動してきました。加害者に謝ってほしかった。私の人生を取り戻したかったんです。

でも、声を上げることが勇気、とかじゃなく、そんな声なんて上げなくてもいい社会になるといいと思います。自衛隊は変われると信じています。そう信じないと告発した意味がない。変わってもらわないと困ります。

そしてこれからは、自衛隊のセクハラを告発した五ノ井里奈じゃなく、ただの五ノ井里奈として生きたいです。『柔道の五ノ井』なら、なおうれしいですね」

「柔道と、人を笑わせることが好き」という彼女は、そう言って、はにかむように微笑んだ。

12月19日、会見に臨む五ノ井里奈さん。彼女の勇気と行動力に、多くの記者が敬意を示した
12月19日、会見に臨む五ノ井里奈さん。彼女の勇気と行動力に、多くの記者が敬意を示した

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