「イノウエはまさにBeastだ」元世界ヘビー級王者が井上尚弥に贈る「パッキャオ超え」の金言 | FRIDAYデジタル

「イノウエはまさにBeastだ」元世界ヘビー級王者が井上尚弥に贈る「パッキャオ超え」の金言

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まともに打ち合おうとしないバトラーを11回で仕留めた井上尚弥(撮影:山口裕朗)
まともに打ち合おうとしないバトラーを11回で仕留めた井上尚弥(撮影:山口裕朗)

「イノウエが終始、WBO王者を圧倒したな。まるで相手にしなかった。イノウエは、まさにBeastだ。非常にいいね! 完成された選手だよ。もはや118パウンドで敵はいない。階級を上げるのも当然だ」

1984年にWBC、1986年にWBAヘビー級王座に就いたティム・ウィザスプーンは、12月27日に65歳のバースディを迎える。12歳の五女とペンシルバニア州ベンサレムで暮らす彼も、先日の井上尚弥vs.ポール・バトラー戦を目にした。

「バトラーは何も出来なかった。前に出ればイノウエの拳の餌食となることが分かったんだろう。怖かったのさ。カードを高くして、ああやって耐えて凌げば、12ラウンドのどこかで活路を見出せると感じたんじゃないか――。そう上手くは、運ばなかったけれどね。チャンピオンvs.チャンピオンと言っても、モノが違う。テクニックもスピードも、メンタルの充実度も比較にならない。とは言え、『倒れたくない』というWBO王者の意志が、11ラウンドまで試合を進ませたのは事実だ。イノウエは、もっと早いラウンドで仕留めたかった筈だ」

ウィザスプーンは、今後、井上がさらに大きく、強い男たちと戦うことを前提として言葉を続けた。

「ああいうディフェンシブな選手を相手にした時は、ボディブローが有効だ。今回のイノウエも、フィニッシュに結び付いたのは右ボディだっただろう。イノウエは速いコンビネーションを打てるし、空振りもほとんどない。クオリティーの高い選手だ。序盤から左ボディアッパーをヒットさせていたが、あと半歩踏み込めばノックアウトも早かったよ。もっとヘッドスリップを使って相手の懐に入って、肝臓を狙うんだ。これを身に付ければ、より彼の良さが生きる。序盤に右ストレート、左フック。ワンツー、左フックといった攻撃を何度か見せたが、アングルを変えることや、コンビネーションのバリエーションを増やすことを覚えるといい。もう十分に強いけれど、階級を上げると相手の体も大きくなるし、パンチ力も増すからな。ボクシングは一発のパンチで何もかもを失ってしまう危険性がある……俺は、そういう選手を何人も見てきた。スーパーバンタムに上がっても、とにかくパンチをもらわずに戦い続けてほしいね」

息子が経営するジムで(撮影:筆者)
息子が経営するジムで(撮影:筆者)

米国のスポーツ総合チャンネル、ESPNが今年12月21日に発表したパウンド・フォー・パウンド・ランキングで、井上尚弥はWBOウエルター級チャンピオン、テレンス・クロフォードに次いで2位となっている。CBSでは堂々の1位に輝いた。ウィザスプーンが現役だった頃、日本人選手の名がここに挙げられることなど考えられなかった。

「実際に戦うことのない世界チャンプ同士に優劣を付ける論議だから、価値がないって言う人もいる。モハメド・アリとマイク・タイソンはどちらが強いか? みたいな話だよな。そりゃあ、永遠に答えは出ないさ。でも、パウンド・フォー・パウンドが選手のモチベーションの一つとなっているなら、それも良しっていうのが俺のスタンスだ。現時点で2位なら、今後CBSのようにイノウエが1位になる可能性もあるだろう。彼をパウンド・フォー・パウンド最強と主張する人がいたって、何の不思議もないさ。少なくとも世界で3本の指に入る逸材だよ。ジャパニーズが世界のベストファイターとなる日がきたって、特に驚きはない。時代は刻々と流れているんだから」

ウィザスプーンが最も関心を寄せていたのは、井上尚弥のプロモートについてであった。

「今のところ、アメリカでは3試合だっけ。本格的にこちらに進出する気はないのか?  プロモーターはボブ・アラムだよな。アメリカで軽量級の選手が人気を獲得するのは確かに難しい。だが、イノウエならいくらでもファンを獲得出来るさ。それだけの実力がある。全てはマッチメイクにかかっている。話題になる選手、強い選手とのファイトをこなすことだ。プロモーターも、これだけの勝ち方をするイノウエを粗末には扱えないだろう」

ウィザスプーンほど、プロモーターに泣かされた世界チャンピオンもいない。世界ヘビー級タイトルを2度手にしながらも、白紙の契約書にサインしなければ試合を組んでもらえなかった。そして、公表されたファイトマネーの多くをピンハネされた。多い時では9割もの金額を悪徳プロモーターに吸い取られた。ウィザスプーンが長期政権を築けなかったのは、ボクシングに集中する環境が得られず、自暴自棄となってしまったからだ。惰性でリングに上がり、格下にベルトを奪われた。

それでも、他にカネを稼ぐ方法が見当たらないからと、45歳までリングに上がった。選手としての晩年、ウィザスプーンは私に「世界チャンピオンと言ったって、俺は奴隷に過ぎなかった」と語っている。20年以上前の会話だが、当時の彼の発言は、今も私の耳にこびり付いている。

「ファイターは強いだけでは成功しない。いいマネージャー、敏腕プロモーターの存在があって初めて、富や名誉を与えられるんだ。イノウエは既に日本でスーパースターの地位を得た。でも、あれだけのチャンピオンなのだから、マニー・パッキャオなみの世界的ビッグネームになれる。いや、なってほしいよ。

パッキャオもボブ・アラムの下でスターダムに駆け上がったよな。パッキャオはリングを大きく動きながら、KOの山を築いた。イノウエは、パッキャオよりリングを広く使わずに相手を追い込める。また、パッキャオの攻撃は、1にも2にも左ストレートだった。まず、左ストレートをクリーンヒットすることで、次の攻撃に繋げた。イノウエは左右どのパンチでも倒せるよな。攻撃パターンはパッキャオより多く持っているように思う」

ウィザスプーンが生まれ育ったペンシルバニア州フィラデルフィアには、現WBC/WBOスーパーバンタム級王者、ステファン・フルトン(28)も住んでいる。21戦全勝8KOのフルトンは、フェザー級への転向も噂されるが、井上戦が実現するかもしれない。

「あいつのことは昔から知っているので、イノウエとどちらが有利かという問いには答え辛い。大人しくて真面目な男だよ。ただ、もしイノウエ戦が決まれば、フルトンは人生最大の一番と考え、今までにない準備をするだろう。最高のコンディションに仕上げるさ。それは、言うまでもなくイノウエを警戒するからだ」

ウィザスプーンは結んだ。

「これからのイノウエが、どんなBeastぶりを発揮するか楽しみだ。イノウエはスパーリングパートナーを探すのも、日本じゃ一苦労だろう。アメリカに来た方が絶対に伸びる。主戦場を本場にすべきだ。フィラデルフィアでキャンプを張っても面白いんじゃないか。歴史あるボクシングタウンだから、いい練習相手が沢山いるぜ」

2023年、井上尚弥はどんな新章を彩るか。快進撃が加速しそうだ。

娘と二人で暮らす自宅でインタビューに応じる元世界ヘビー級チャンプのウィザスプーン(撮影:筆者)
娘と二人で暮らす自宅でインタビューに応じる元世界ヘビー級チャンプのウィザスプーン(撮影:筆者)

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  • 取材・文林壮一

    1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

  • 撮影山口裕朗(井上尚弥)

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