詭弁と欺瞞のトンチ論法ばかり…「悪の帝王」プーチン発言の「正しい読み方」 | FRIDAYデジタル

詭弁と欺瞞のトンチ論法ばかり…「悪の帝王」プーチン発言の「正しい読み方」

~黒井文太郎レポート~

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12月初旬、シャンパングラスを片手によろよろしながら話すプーチン大統領の動画が拡散された。視線が泳ぎ「泥酔」しているように見える。この動画に、世界中のメディアが反応した
12月初旬、シャンパングラスを片手によろよろしながら話すプーチン大統領の動画が拡散された。視線が泳ぎ「泥酔」しているように見える。この動画に、世界中のメディアが反応した

プーチンがかました「トンデモ」演説

「今、ロシアだけでなく、世界中で大きな変化が起きている。この変化が良い方向に向かうと信じている」

12月18日、プーチン大統領はモスクワで開催された子どもたちの集会に寄せたビデオ演説でそう語った。世界の変化というのはもちろんウクライナ侵略のことだが、それを明言はせず、

「世界がもっと公正に、あらゆる民族が平等になり、自国の伝統や言語を守っていけるように願っている」

と続けた。つまりはウクライナ侵略を正義の戦いだと正当化したわけだ。

もちろんそんな主張はフィクションだが、プーチンは詭弁(きべん)と欺瞞(ぎまん)を駆使して、常に自己正当化を堂々と語る。彼はかなり頻繁に自分の言葉で声明を出すが、その内容は常に自分の考えの正しさを主張することに主眼が置かれている。22年前の大統領就任以来、常に自身の決断の正当化を最優先しており、自分が発した言葉を引っ込めたことはなかった。彼は精神的にも肉体的にも「マッチョな指導者」像を自己演出して独裁者として生き続けてきている。

そのプーチンが2021年7月に、ウクライナはロシアの一部であるかのような論文を自分名義で発表し、2022年2月24日のウクライナ侵攻にあたっては、ウクライナ政権の非ナチ化(つまり政権転覆)と非軍事化(つまりウクライナ軍の全面降伏)を明言した。この非ナチ化と非軍事化の要求は、その後現在に至るまで撤回していない。

あくまで「専守防衛」を主張するプーチン

また、プーチンは今日に至るまで、自分たちはあくまでNATOから自分たちを守っているだけだとの論理を言い続けている。たとえば12月7日の大統領府人権評議会のオンライン会議でも「戦争はわれわれが火ぶたを切ったのではなく、2014年にウクライナで権力を握った親欧米派政権が開始した」と自らの隣国侵略を正当化した。

翌12月8日のロシア連邦英雄授与式では、大統領に就任してから初めて泥酔したままカメラの前で演説し、

「流れている情報はすべてフェイクだ。われわれが隣国の発電所などを攻撃しているのは、先にクリミア橋や民間施設を攻撃されたからだ」

などと自己正当化を語り続けた。おそらく本気でそう考えているのだろう。

もっとも、ロシアは米国やウクライナとの交渉は呼びかけている。しかし、それはロシアが現実的な妥協をして取引に応じることを意味しない。

たとえば12月2日にペスコフ報道官が「バイデン大統領はロシア軍の撤退を交渉の前提にしている」と米国を非難したため、内外のいくつかのメディアが「ロシアは現状維持での停戦を希望」と報じた。しかし、彼は交渉の条件として「ロシアの利益に沿うように」としか条件を示していないことに留意する必要がある。現状維持が希望とは言っていないのだ。

プーチン自身の言葉も、常にロシア軍の全面勝利が前提だ。たしかにロシアは軍事的に劣勢にあり、現状維持はロシア側の利益になるが、プーチン自身はいまだにウクライナの事実上の降伏を前提に語っており、その言葉を引っ込めて現状維持の交渉に応じる姿勢は微塵も示していない。前述した12月7日のオンライン会議でも、ウクライナ侵攻について「長いプロセスになるだろう」と語り、長期戦を示唆した。

ロシアは完全にプーチンの独裁体制であり、意思決定権者は彼一人だ。ロシアはプーチンが詭弁の大義を堂々と語ったうえで、プーチン1人の決定で戦争をはじめ、すでに数万人ものロシア兵が戦死した。ロシアはプーチンの沽券を守る選択、言い換えれば彼の「無謬性を毀損しない選択肢」しかない。その言葉が実現されないうちに戦争をやめることはきわめて考えにくいのだ。

核使用「匂わせ」発言の真意

では、プーチンの言葉から、彼は本当に核使用を考えているのか否かはどうか。たとえばロシア軍がハルキウ州の占領地を失った直後の9月21日、彼はビデオ声明で

「ロシアの領土的一体性が脅かされれば、あらゆる手段を使ってロシアと国民を守る。これはハッタリではない

と語った。この言葉も内外のいくつかのメディアで「プーチンは核使用を示唆した」と報じられたが、そうではない。

この言葉はたしかに核使用をチラつかせての脅しの言葉ではあるが、あくまでチラつかせであり、はっきりと自身の言葉で核使用を明言していないことが重要だ。これは侵攻前後の時期の言動も同様で、彼はさかんに核の脅威を語り、同時に自分たちが強力な軍事力を使うと語っているが、核を使うという言い方は常に注意深く避けてきた。

10月27日の演説で「世界は第2次世界大戦後でおそらくもっとも危険な10年間に直面している」としながらも「ロシアが核使用すると積極的に発言したことはない」と語った。ロシアが「核使用する」と脅しているとの西側の言説は誤りだというのだ。核の脅しとしては明らかにトーンダウンである。

これは、当初に核使用を明言せずにチラつかせることで西側を牽制し、ウクライナ支援を手控えさせようとしたが、目論見が外れたことから軌道修正したものだ。前述した12月7日のオンライン会議でも「核の脅威は高まっている」と語ったため、一部メディアが「ロシアが核使用を示唆」と報じたが、その時もプーチンは核の脅威をあくまで“欧州に大量配備されている米国の核兵器”だとし、ロシアは報復しか考えていないことに言及している。

ただ、その発言が「プーチンの弱気」かのように一部で報じられたためか、12月9日には、

「米国には予防攻撃の理論がある。(ロシアの軍事ドクトリンは)抑制的で米露間の核使用基準は不均衡なので、米国にならい変更すべき」

と発言し、ロシアも先制攻撃の考えを検討することを示唆した。しかし、それもやはり他のプ―チン発言と同じく、先制的な核使用を明言していないことが重要だ。

このようにあたかも「やるかも」とチラつかせながら「やるとは言っていない」と逃げ道を用意する手法は、プーチン論法の特徴である。核使用するという言質をぎりぎりで回避し、曖昧な言い方をする。これは故意であり、自分の言葉を“公約”化しないために計算された言い方といえる。

北方領土問題でも発揮されたプーチン論法の剛腕

このプ―チン論法は、たとえば北方領土返還問題でも同様だった。彼は2001年のイルクーツク声明で「日ソ共同宣言を平和条約交渉の出発点」としながらも、日ソ共同宣言自体を復活はさせず、互いに受け入れ可能な解決を目指すとした。2島を引き渡すとの言質を故意に回避したのだ。

その後も「日本が4島一括に拘泥するので交渉が進まない」とは言うが、「ロシアは2島引き渡しなら応じる」とは言わない。日本を懐柔するため、否定はしないが、約束はしないのだ。

日露交渉に「引き分けも必要」と語った時には、日本側は「4島でなく2島」という意味と考えたが、プーチンはそうは言っていない。「仮に引き渡したら米軍が来る」と言ったこともあるが、「そうでなければ引き渡す」とは言わない。これも同じ手法だ。

それどころか、

「日ソ共同宣言には引き渡しは書いてあるが、主権がどうなるかは書いていない」

などと意味不明の屁理屈まで真顔で言ったことがある。まるで一休さんの「このはし(橋≠端)渡るべからず」のトンチだが、そういう論法を普通に使うのだ。

細かな言い回しに注意せよ

いずれにせよ、プーチンの言動の細かな言い回しは重要だ。

たとえば侵攻前の2021年12月には、「NATO不拡大の確約」を要求し、それが受け入れられなければ「軍事的な対抗措置をとる」と明言した。そのような要求をNATOもウクライナも受け入れるはずはなく、それはロシア軍のウクライナ侵攻の“口実”が作られたことを意味した。明言したことは、やらなければプ―チン自身の沽券にかかわる。その時点で「侵攻するつもり」だった可能性はきわめて高い。それに比べると、核使用に関しての言動は明言を回避している。つまり核使用の可能性はこれまではなかったし、現時点でもまずない。プーチン論法は、何を言ったかと同時に「何を言わなかったか」が重要だ。

ただし、今後も同じかどうかはわからない。それでも核使用がリアルな選択肢になれば、彼は必ず事前に自己正当化の言葉を発言する。今後もプーチン自身の言葉の「言い回し」を注意深くみていく必要がある。

  • 取材・文黒井文太郎

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