コスプレ社長が明かす クリエイティブ企業を躍進させた秘訣

レンタルサーバー「ロリポップ!」運営・佐藤健太郎社長(38歳)の仕事場を見たい!

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社長室にもコスプレ衣装が散見される。「貰い物なんです」と言いながらそのうちの一つを被る佐藤社長

新卒採用説明会に、ヘビメタバンドや宝塚、歌舞伎役者のコスプレをして登場する変わり者社長がいる。レンタルサーバー「ロリポップ!」の運営などで知られる『GMOペパボ』の社長、佐藤健太郎(38)だ。

コスプレをして得たものを聞くと、佐藤は少し考えてからこう言った。

「リクルーティングにはいい影響があったと思います。『楽しいことなら前例がなくてもやってみよう』というのが当社のカルチャー。コスプレをしたことで、この考え方にフィットする人材を集められたかなと。インターネット業界では、今までにない面白いアイデアを実現させることが重要ですからね」

では、逆に失ったものは?

「それが、ないんですよね―」

最初はクワガタの被り物

『GMOペパボ』の創業は’03年のこと(創業時は『有限会社paperboy&co.』)。”おこづかいで借りられる”という触れ込みで、レンタルサーバー「ロリポップ!」を運営。現在は、オリジナルグッズ作成・販売サービス「SUZURI」、オンラインショップを手軽に作れる「カラーミーショップ」なども展開する。業務の目標は、「ネットで表現したい人を助けること」で、現在の従業員数は250名強、売り上げは80億円を超える。

創業の地は福岡。’09年までの社長は佐藤ではなく、様々な企業の立ち上げを行い「連続起業家」と呼ばれる家入一真(40)だった。佐藤は創業直後、家入に誘われて入社している。

入社の理由は、”劣等感”だった。

「昔から、勉強もできず運動神経も悪くて。でも、目立つことは好きでした。何か変わったことをして目立ち、劣等感を克服したかったのかもしれません」

そんな思いから、佐藤は大学時代にホームページを作成した。しかし、サイトの訪問者数は思うように伸びなかった。

「やっぱり、僕にはクリエイティブな才能がなかった。だからせめて、『才能ある表現者を助ける仕事がしたい』と思い、入社を決めたんです」

だが、”天才を助ける仕事”は、そう簡単ではなかった。

「当時の社長の家入さんはクリエイター気質で、次々と面白い事業を発想する方。社員も同じ気質の人が多かった。そんななか、会社が『GMOグループ』に入って、上場企業の連結子会社になりました。親会社とは当然、売り上げや人件費などを報告し合うのですが、ペパボは皆クリエイター気質なので、まったく数字を気にかけない。結局、数字のことはほとんど僕一人で背負うことになってしまったんです」

気分次第で会社に来ないこともある自由奔放な上司と、言うことを聞かないワガママな部下。両者から翻弄され、佐藤は手を焼いた。苛立つことも多かった。部下と大喧嘩し、1年以上口をきかないことすらあったという。

「人を管理することと、創造性を大切にすることは、真逆(まぎゃく)のように思えました。会社だから当然、数字のことを気にしないといけないのに、それを言ったら、『何アイツ、細かいところにこだわって、うるさいやつだな』と思われ孤立してしまったんです。この頃の社内は常にピリピリしていて、雰囲気は最悪でしたね」

佐藤は、「上場したら辞めてやる」と自分に言い聞かせ、何とか仕事を続けた。

しかし、そんな佐藤に、今の「変わり者社長」へ変化する転機が訪れた。会社の飲み会で、「誕生日が近いから」とクワガタの被り物をプレゼントされたのだ。

「なんだこれ? と思いました。でも、これを被ってお酒を飲んでいると、なんだか楽しくなってきて、自分が今の会社に入った理由を思い出したんです」

佐藤が中学生の時、クラス対抗で教室を綺麗にするコンテストがあった。他クラスが掃除に徹するなか、彼は「綺麗に掃除するだけでは差別化できない」と考え、ペンキで教室を水色に塗り替えた。結果は優勝だった。

このときのように、仕事でも面白いものをつくりたい、文化祭のような雰囲気でワイワイやれる会社に入りたい――そう思って家入の会社に加わった。そんな自分がなぜ、口うるさい管理者になってしまったのか……。

初心に戻った佐藤は、社員の前で積極的におどけてみせるようになった。その後、’08年に会社は上場、’09年には管理者としての実績が認められて社長に就任。そして、’10年初頭のことだった。

「動画配信サービス『Ustream』で、会社の仕事場の風景を配信したのですが、その動画にクワガタのコスプレをして映り込んでみたんです」

これに敏感に反応したのは、社外よりも、むしろ社内のほうだった。それからというもの、会社説明会などのイベントで、社員は佐藤にコスプレを依頼するようになった。戸惑いながらも次第に開き直っていく佐藤に対し、社員の要求はますますエスカレート。彼は悪ノリした社員に乗せられ、『松竹』に依頼して本格的な歌舞伎メイクを施したり、宝塚歌劇団のOGに振り付けを頼んだりもした。

これらの出来事を通じて佐藤と社員の距離は一気に縮まった。”うるさいアイツ”と言われることも、もうなくなった。

会社の業績にも変化が現れた。社員のクリエイティブなアイデアと、佐藤の緻密な数字の計算がうまく調和し、結果に繋がるようになったのだ。ハンドメイド作品を売買できるサービス「minne」のアプリは、’12年のサービス開始からダウンロード数が右肩上がりで増え続け、現在の数字は1000万超。年間流通金額は120億円規模に達する。サービス内で食品の取り扱いを始めたり、作家を支援するアトリエを開設したりする大胆な取り組みが、ヒットの理由のひとつだ。

自分が率先して面白いことをやり、社員にも伸び伸びとアイデアを出してもらう――いまは、そんな佐藤の姿勢が生きる時代でもある。

「現代はクリエイティブの時代です。AIやIoTなどの新しい技術を積極的に使い、世の中が驚くようなサービスを創り上げた企業が伸びていくのでしょう」

最後に、コスプレの秘訣を聞いてみた。

「偉そうになっちゃダメなんです。社長がカッコつけたコスプレをしていたら、『ワンマンショーやってんじゃねえよ』と思われるだけ。あえて悪役を選んだり、自分だけでなく社員にも歌を任せたりするなど、謙虚になることが大切です」

その言葉はまるで、平成後の新しい経営者像を提示しているかのようだった。

(文中敬称略)

新卒向け会社説明会にて。上から、ヘビメタバンド、宝塚、歌舞伎のコスプレ。バンドでは佐藤がメインボーカルを務める
社員が働くフロアにも頻繁に顔を出すという佐藤。仕事中もTシャツにパーカーなどのカジュアルな服装だ
本誌未掲載カット
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  • 取材・文夏目幸明(経済ジャーナリスト)撮影會田園

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