【試し読み付き】仕事ができなくても気にしない…!?笑えるお仕事漫画『無能の鷹』が社会人必見な訳

『働きマン』『重版出来！』『正直不動産』……様々な職業にスポットを当てたお仕事漫画。知らない業界の裏側を見る面白さがあったり、作中キャラクターが頑張る姿や成長する姿に胸が熱くなったり、仕事への姿勢や誇りに感銘を受けたりと、働く社会人にとって共感できる作品が多い。

そんななか、「仕事ができない人」を主人公にした漫画があるのをご存じだろうか？

雑誌「Kiss」で連載中の『無能の鷹』は、そのタイトル通り「無能」な人を描いたお仕事漫画。ITコンサル会社に新卒入社した主人公の鷹野ツメ子は、見た目はものすごく有能そうに見えるのに、壊滅的に仕事ができない人間だった。

「――実は私……難しいことを考えると、頭が――痛くなるんです」
「わからないところを解決すれば難しくなくなるとお思いでしょう」
「でもダメです。何がわからないのかが、わからない」

誰もが彼女の扱いに困るなか、当の本人はというと、仕事ができないのを全く気にしない激強メンタルの持ち主。「私がこの会社を必要としてるから、会社に必要とされてるかは考えないようにしてる」と自信満々に言い放ち、資料のホチキス留めに勤しむ社内ニートと化している。

そんな鷹野と対照的に、本当は有能なのにメンタルも胃も弱く、「無能そう」に見える同期の鶸田（ひわだ）。仕事ができなくても堂々としている鷹野の姿にある種の憧れを抱き、「オレと一緒に契約取ってみる？」と試しに組んでみたところ……なんと奇跡的に噛み合ってしまい、鶸田にも会社にもプラスの結果をもたらすのだ。

「『能ある鷹は爪を隠す』タイプのキャラってカッコいいよなぁ、と読み切りのネタを考えていたときに思って。でもすでにそういうキャラは多くの作品で存在するので、じゃあ逆にしたらどうだろう？と考えたんです」（漫画家・はんざき朝未さん）

「能ある鷹」を逆にすると、「無能の鷹」。その響きが気に入ったはんざきさんは、これをタイトルにした読み切り作品のネームを書き上げ、「Kiss」の担当編集者へ送る。こうして見事連載へと繋がったのだという。

無能な鷹野とは正反対に、「能ある鷹」なのが鶸田。気弱すぎる鶸田はコミュニケーション能力に不安を抱え、実力がなかなか発揮できずにいる。

「この仕事に向いているか自信がない」「自分をジャッジするような他人の目が気になる」……仕事でストレスやプレッシャーに日々さらされている社会人にとって、鶸田の悩みは共感できるものではないだろうか。彼の成長も、物語の見どころのひとつだ。

「私もどちらかというと、鷹野さんよりは鶸田くん寄りのメンタルです」と語るはんざきさん。ITコンサルタントの経験こそ無いが、元々、漫画家を志す前はIT企業に勤めていたという。

「『就活嫌だなぁ』とか、『取引先に行くの緊張するなぁ』など、キャラクターの気持ちの部分に関しては自身の経験が反映されていると思います。自分が会社員時代に苦手だったことを、『鶸田くんの苦手なことシリーズ』として作中で使ったりもしています」（はんざきさん）

昨今は働き方改革や、リモートワークの普及、AIの台頭など、労働を取り巻く環境も大きく変わりつつある。同作はコメディタッチではあるが、「多くの人が、AIに仕事が奪われてしまう時代がもし来たらどうなるんだろう？」という、はんざきさんの抱いた疑問が、キャラクターを想像するきっかけになったという。

「構想当時、AIの進化による『シンギュラリティ』という言葉がメディアでもよく取り上げられるようになってきていました。

『AIが仕事を奪い、遺伝子操作による天才ベビーが出てきて、大多数の人間は役に立たない無価値な人間になる』と論じるTV番組などを見て、『大多数の人間がそうなるなら逆に、仕事ができることや、役に立つか立たないかがアイデンティティにおいて重要じゃなくなる未来になるんじゃない？』と軽く思って。役に立たないことを気にしないキャラっていいかもな、というところから鷹野さんのキャラができました。

シリアスに直球に描くつもりは今のところないのですが、『たかが仕事、されど仕事』というか、ITやAIの進化もあり仕事の意義が揺れつつある今、そもそも仕事ってなんだろうなぁ、というところは描きながら考え続けていきたいと思っています」（はんざきさん）

もしかしたら今後、鷹野さんが社会人としてめちゃくちゃ優秀になったり、逆に鶸田くんが社内ニートになってもいいかもしれません、と柔軟な発想で語ってくれたはんざきさん。異色のお仕事漫画の展開に、今後も期待したい。