【令和に読まれた漫画記事トップ３】壮絶な上流階級の世界…『やんごとなき一族』が描く「女性の闘い」
〈激動の2022年を終えて、令和も5年目に入った。この4年間に FRIDAYデジタルで配信された漫画関連の記事は150本以上。その中でも特に人気の高かった上位３つの記事を改めて振り返りたい〉
関西の高級住宅地・芦屋を舞台に、上流階級の一族を描いた漫画『やんごとなき一族』（作・こやまゆかり）。2022年4月にはドラマ化もされ、話題を呼んだ作品だ。
主人公の佐都（さと）は、生まれ育った下町で大衆食堂「まんぷく屋」を母と切り盛りしている明るい女性。恋人の健太は、芦屋の富豪・深山家の次男という“やんごとなき”家柄の出身だが、佐都は庶民的な健太に親近感を持っていた。
健太からプロポーズされ、深山家の大反対を押し切って入籍した佐都だが、「跡継ぎは長男でなく、次男の健太に」という健太の父・圭一の思惑に翻弄されていく――。
ドラマで佐都を演じたのは土屋太鳳。深山家の人々からの仕打ちに負けず、松下洸平演じる健太と共に理不尽に立ち向かっていく姿を好演した。また、兄嫁・美保子を演じた松本若菜の振り切った演技は「松本劇場」と話題となり、「東京ドラマアウォード2022」で助演女優賞に選出されるなど高い評価を得た。
FRIDAYデジタルでは以前、作者のこやまゆかりさんにスペシャルインタビューを行い、大きな反響を呼んだ。こやまさんは『スイート10』『バラ色の聖戦』などのヒット作を生み出してきた女性漫画家で、これまで一貫して女性目線の物語を描き続けてきた。
『やんごとなき一族』では芦屋へ何度も足を運んで取材を行い、そこで知った上流階級の人々の暮らしや「しきたり」のほか、こやまさん自身が取材のなかで感じた想いなどを作中に反映させているのだという。
「変えるべきものは変えていく」というメッセージ
400年以上続く名家である深山家には、「一般庶民」の佐都には想像もつかないような「しきたり」が数多く存在し、それを破るなど言語道断。健太の父・圭一が家長として君臨し、誰一人として逆らうことは許されない。
「結婚は家同士がするもの」「長男の嫁は跡継ぎを産むのが仕事」「子供は“夫の家のもの”」「夫が愛人を囲うなんて当たり前、そんなことは覚悟して嫁に来たはず」……そんな価値観が当たり前という世界で辛酸を舐め、犠牲になっているのは女性たちだ。
“長男の妻”として「男子を産まないと」と必死で不妊治療に励む美保子。政略結婚した夫・大介が浮気だらけなことに苦悩し、派手な買い物をしてSNSで反応を貰うことだけが心の支えになっているリツコ。一族の家長である圭一に嫁ぎ、まるで召使いのように扱われても何年も黙って耐え続けてきた久美。
彼女たちは佐都と同じく嫁、つまり深山の家に”入った”立場だが、深山に産まれた女性であっても過酷であるのは変わらない。長女の聖花も、次女の有沙も、結婚相手は自分で選べない。家と家との繋がりを深め、家業の基盤を盤石にするために、父親が決めたふさわしい相手と結婚するのだ。そうして入ったその家で、今度は佐都たちと同じように「嫁」としての役目を完璧に果たすことを求められる。
作中で、義母から執拗に「次こそ跡取りを」と男子を待望され、プレッシャーに苦しむ聖花を見た幼い娘が「ママごめんね」「男の子にうまれたらよかった、女の子なんてイヤだ」と泣き出すシーンがある。
良いものは守り、変えるべきものは変えていく。そうしなければ、自分たちの次の世代も苦しむことになってしまう。佐都と健太夫婦と深山家との闘いは、自分たちだけのためでなく、未来を生きる子供たちのための闘いでもあるのだ。
前回のインタビューで、「様々な困難にぶつかりながら生きる女性たちを、応援する物語を描きたいといつも思っています」と語ってくれたこやまさん。今を生きる女性すべてに読んでもらいたい作品だ。
