<figure id="attachment_283455" aria-describedby="caption-attachment-283455" style="width: 5616px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="a942d96c"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/12/aflo_9652665.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-283455" class="wp-caption-text">写真はイメージです/アフロ</figcaption></figure>
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<p>「兄弟は他人の始まり」という古くからのことわざがある。幼い頃は寝食を共にして仲良く過ごしてきた兄弟姉妹も、就職や結婚などするうちに他人のように疎遠になっていくという意味だ。</p>
<p>相続はこの故事を当人たちに実感させてしまうことがある。B家の場合もそうだった。長男は地元の国立大学を卒業し、県内で就職。家庭も築いたが、母亡き後、父を心配して家族で実家近くに転居した。都会で暮らす弟妹もそんな長男を頼りにしていた。</p>
<p>長男夫妻は、日頃から年老いた父の面倒をよくみていた。父の病院通いの送り迎え、その後の介護もいとわず引き受けた。父がいよいよ危篤の時は弟と妹をすぐに呼び寄せ、3人で最期を看取ることができた。それゆえ、弟妹は兄を信頼し、実家の始末や相続の手続きも任せていた。</p>
<p>兄は「田舎だし、大した金額にはならないだろうけど実家を売って、そのお金と父の貯蓄を3人で等分（に相続）しよう」と提案した。</p>
<p>弟も妹も、もちろん承知した。父を世話してくれたのは兄夫婦なのに、兄の相続分も均等ではむしろ申し訳ないとさえ思った。そんな訳で、B家の遺産分割協議は特に揉め事もなく決着。相続税申告の期限である相続発生から10ヵ月以内に実家も売却でき、遺産分割も無事終了した。</p>
<p>……ところが、である。父を失った悲しみもそろそろ癒えようかという2年後の秋、1本の電話が弟と妹を飛び上がらせた。その電話は、税務署からの「税務調査」の事前連絡だったのである。</p>
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<div data-friday-nextpage-lead="長男が多額の贈与を隠して過少申告していた！"></div>
<h4>長男が弟と妹に隠していた「親のお金」</h4>
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<p>税務調査の最盛期は「ナナジュウニ」と呼ばれる7～12月の間で、相続税申告書の提出から1～2年後の7～12月に多い。B家の税務調査はまさにその期間に行われた。</p>
<p>兄を信頼して相続手続きを任せた弟と妹にとっては、寝耳に水の出来事。しかし、相続税申告に不備があり、申告漏れなどを疑われると、税務調査は相続人全員に及ぶ。税理士が相続税申告の代行手続きをした場合は、その税理士にも通知が行き、税理士が立ち会うこともできる。</p>
<p>B家の相続人の場合は、税理士に依頼せず、兄である長男が自ら相続税申告書を作成し、税務署に提出した。弟や妹も申告書を確認し、判を押して同意した。だが、実のところ、長年実家と離れて暮らす弟妹は、父の預貯金額を知らなかった上に、保有財産を調べることもしなかった。</p>
<p>弟と妹は、当初、兄が相続税申告書を作成する際、素人ゆえ何か計算違いか、ミスでもしたのではないかと考えた。弟は「昔から成績優秀だった兄も、さすがに衰えたかな」と思い、妹は「ほら、だから、あの時、税理士さんに頼まなくていいの？　って言ったのに……」と思ったという。</p>
<p>しかし、事態はそんなに甘くはなかった。税務調査を通してわかったことは、弟と妹が信じていた兄が二人を裏切って不正を働いていたということだった！　実は、兄が実家に近居した際、家の購入資金として3,000万円を父が出しており、父を病院に送迎していた車も、父が300万円の購入資金を出していた。</p>
<p>このように親が子に住宅や車の購入資金を無償で渡せば、「贈与」とみなされる。したがって、年間贈与額が基礎控除額110万円を超える場合、贈与税の申告・納税をしなければならない。しかし、兄はそれを行っていなかった。しかも、弟妹どころか、税務署にもこの事実を隠していたのである。</p>
<p>生前贈与は「特別受益」に当たる。特別受益とは、わかりやすく言えば、一部の相続人が被相続人（財産を残して亡くなった人）から生前贈与や遺贈、死因贈与で受けた利益のこと。その額を相続財産額と合算した上で、各相続人の配分を決めなければならないと民法に定められている。</p>
<p>兄は生前の父から家や車の購入資金を現金で受け取っていたので、税務署にはバレないだろうと思ったらしい。だが、贈与時は隠せても、相続が発生すればいずれバレる。相続税法第58条には、市区町村長等は死亡届を受理した日の翌月末までに、税務署へその死亡を通知することが義務付けられている。</p>
<p>さらに、日本全国の国税局・税務署はKSK（国税総合管理）システムというネットワークで結ばれている。例えば、このシステムに死亡した人の名前を打ち込めば、税務署はその人の所得額や納税実績などもわかる仕組みになっている。</p>
<p>また、無申告や申告漏れが疑われる場合、税務署は被相続人の預貯金口座だけでなく、相続人の預貯金口座も10年前まで遡って調べる。今や国税局や税務署は金融機関にネットで照会できるので、スピードアップされている。不審な入出金があれば、入念な事前調査を行う。</p>
<p>つまり、「税務調査しますよ」と連絡が来た時には、税務署はすでに相続人の金銭に関する多くの情報をつかんでいるということだ。税務調査官は兄の預貯金口座も把握しており、不審な入出金もチェックしている。年収に比して多額の住宅ローンなどを組んでいれば怪しいと睨む。</p>
<p>それなのに、なぜ弟や妹にまで税務調査が及ぶのか？　それは、相続税務調査は、納税者（相続人や受遺者等）によって提出された申告内容が正確かどうか確認するのが、本来の目的だからだ。ほかにも申告漏れやミスがあれば正される。そのため、原則として相続人全員が立ち会う。</p>
<p>それどころか、B家のケースでは、弟妹には予想外のペナルティのおまけまで付いてきたのだ。</p>
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<div data-friday-nextpage-lead="弟妹に科せられた恐ろしいペナルティとは"></div>
<h4>相続税額が増えた上、ペナルティまで！</h4>
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<p>相続税の申告・納税をしなかったり、申告漏れがあったりすると、本来の相続税に加えて追徴課税という、以下のようなペナルティが発生する。</p>
<ul>
<li><span class="strongInContent">相続税の申告・納税期限を過ぎてしまった場合：延滞税</span></li>
</ul>
<p>相続税の申告・納税期限は相続発生から10ヵ月である。それまでに申告・納税をしないと、最大年率14.6％の「延滞税」が課せられる。</p>
<ul>
<li><span class="strongInContent">相続財産の申告漏れがあった場合：過少申告加算税</span></li>
</ul>
<p>税務調査の通知後に申告した場合は、税率10～15％の「過少申告加算税」が課される。税務調査の通知前までに自ら気づいて申告すれば、課税されない。</p>
<ul>
<li><span class="strongInContent">相続税申告すべきなのに申告しなかった場合：無申告加算税</span></li>
</ul>
<p>税務調査の通知前までに自ら申告すれば本来の相続税額の5％、税務調査の通知後であれば本来の相続税額の10～20％を加算。意図的な無申告など悪質な場合は以下の重加算税が課される。</p>
<ul>
<li><span class="strongInContent">相続財産の隠ぺい仮装があった場合：重加算税</span></li>
</ul>
<p>「隠ぺい」とは隠すことであり、「仮装」とは捏（ねつ）造や偽造することである。すでに相続税の申告・納税を行っている場合は本来の相続税額の35％、無申告の場合は40％が加算される。</p>
<p>B家の長男が相続税逃れのために相続税額を改ざんしたのであれば、最も重い「重加算税」が課される。B家の場合はそこまでの悪質性は認められなかったので「過少申告加算税」で済んだが、弟妹にとって衝撃的だったのは、税務調査後に兄が行方をくらましてしまったことだった。その結果、なんと、兄の自宅は「差し押さえ」されてしまったのだ。</p>
<p>それでも相続税の増額分や追徴課税を支払いきれない場合、その未納分はほかの相続人全員で負担しなければいけない。弟妹は泣く泣く兄の尻拭いをすることになってしまうのだ。なぜ、こんな事態が生じたのか？　もちろん、雲隠れしてしまった兄に同情の余地はない。</p>
<p>亡くなった方を責めるつもりはないが、被相続人である父親も長男に贈与する際、もう少しちゃんと贈与税のことを調べるべきだった。1月1日～12月31日の1年間における贈与額が110万円の基礎控除内だったら、贈与税は非課税で相続財産額に含める必要もなかった。</p>
<p>ただし、父親の死亡前3年以内に行われた贈与は、その額を相続財産額に合算して相続税を計算しなければならない。『令和5年度税制改正大綱』でこの3年以内が7年以内に引き延ばされ、2024年から適用されると明言されていて、そうなると、生前贈与するならより早く実行しなければいけないことになる。</p>
<p>また、長男に住宅購入資金を提供するなら、「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」の利用も可能だった。</p>
<p>さらに言えば、弟妹にしても、相続に関することをすべて兄任せにしていたというのは、いかがなものだろうか。確かに、仲の良い兄弟や親子ほど揉め事になるのを恐れ、相続財産についてあれこれ確かめにくいものだが、B家のようにかえって兄弟姉妹が決裂する事態になりかねない。</p>
<p>あるいは、妹が図らずも言っていたように、相続税に詳しい税理士などの専門家に相談していたら、また違った結末を迎えていたのかもしれない。</p>
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<p>&nbsp;</p>
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<p>岡野雄志　1971年、千葉県生まれ。早稲田大学商学部卒業。相続税専門の税理士。岡野相続税理士法人（<a href="https://www.souzoku-zei.jp/" target="_blank" rel="noopener noreferrer">https://www.souzoku-zei.jp/</a>）代表社員。2005年、新横浜駅近に事務所開設。’22年に法人化し、東京駅近くにも支店事務所を開設。特に土地の評価を得意とし、手がけてきた相続案件は全国各地で累計3,000件以上。著書に『自分で相続税の申告ができる本』（幻冬舎メディアコンサルティング）、『土地評価を見直せば相続税はビックリするほど安くなる』（あさ出版）など。</p>
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写真はイメージです/アフロ 「兄弟は他人の始まり」という古くからのことわざがある。幼い頃は寝食を共にして仲良く過ごしてきた兄弟姉妹も、就職や結婚などするうちに他人のように疎遠になっていくという意味だ。

亡父からもらった「3000万円を隠ぺい」した長男…弟と妹を飛び上がらせた税務署からの1本の電話

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