体調不良が多いのはギャラが原因…?急増する声優の休業が伝えてくれる「現代社会の悲しき構造」 | FRIDAYデジタル

体調不良が多いのはギャラが原因…?急増する声優の休業が伝えてくれる「現代社会の悲しき構造」

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近年、声優が体調不良を訴え休業するニュースが後を絶たない。『機動戦士ガンダム 水星の魔女』でニカ・ナナウラ役を務める宮本侑芽氏が体調不良により一時休業を余儀なくされ、白石晴香氏が代役を務めると発表された。

写真はイメージです/アフロ
写真はイメージです/アフロ

その他にも『ウマ娘 プリティーダービー』のサイレンススズカ役などを務める高野麻里佳氏が適応障害と診断され一部の活動を制限、『アクセル・ワールド』の黒雪姫役や『ウマ娘』のサクラバクシンオー役を務める三澤紗千香氏は一時休業の後に復帰するなど、声優の体調不良に関連するニュースを目にする頻度が高くなっている。

似たような仕事である芸能人や俳優に比べても、なぜ体調を崩す声優が多いのか。その理由はいくつかかんがえられるが、第一の理由としては役割の多様化が挙げられるだろう。かつての声優は裏方としてアニメのアテレコや海外の映画・ドラマの吹き替えなどを務めることが多かったが、現在はそれらの仕事に加えて歌、ライブ、ダンスなど肉体を酷使する仕事が増加している。また、トークやラジオ、イベント出演などタレントとしての役割も要求されている状況だ。

売れている人気声優は日常的にすさまじい仕事量をこなしており、いつ体調を崩してもおかしくないほどの過労状態に置かれているのだろう。

毎年多くの新人声優が誕生するにもかかわらず、なぜ特定の声優にこれほど多くの仕事が集中するのか。もちろん、人気の声優ということもあるが、新型コロナウイルスの蔓延によって収録を可能な限り短時間で済ませるために、仕事のやり方を心得た経験者が優先して起用されるようになったというのも理由のひとつだろう。コロナ禍に見舞われる前のアフレコでは、ベテランや中堅どころ、新人が入り混じって収録を行ない、新人に対する演技指導もその場で行われていた。

当然、時間は余分にかかるため1日で2~3の現場を回るのがせいぜいだったが、実力が高い声優だけで収録に臨むようになった結果、収録がスムーズに行えるようになり1日の間に回れる現場の数が増加したのだ。

また、仕事を依頼する側からすれば有力な声優を起用してSNSで作品情報の拡散をお願いできれば、それだけで数万人の熱心なファンへ直接情報を届けられるメリットは極めて大きい。そのため、SNSを通して、作品情報の発信やファンサービスが求められるようになったのだ。

これほど多くの仕事が求められているうえに、声優の仕事は不安定な面が強い。野沢雅子氏のような別格のベテランを除けば、声優が活躍できる時間は短い傾向にある。さらに、全国に80以上存在する声優の養成校からは、絶えず新人声優が次々と送り出されている状況だ。

厳しい競争を勝ち抜き、人気と実績を獲得した声優であっても仕事を確保し続けるのは容易ではない。仕事があるうちにスケジュールをギリギリまで詰め込みたくなるのは当然と言えるだろう。

アニメ業界の状況に詳しいある脚本家はこう語る。

「声優が体調を崩すのはギャラの問題もあると思う。声優のギャラは、音声連と日俳連の間で交わされたランク制という団体規約によって決められることが多い。

ランク制とは簡単に言うと、キャリアが上がるごとにギャラと転用費が増えていくシステムだ。ギャラは出演費で、転用費は出演した作品がDVDなどの記録媒体で発売されるたびに支払われる、いわゆる印税にあたる。このランク制だが、実は新人のうちは日俳連に加入しないため、30分の作品に対して15000円、転用費なしという条件でスタートする。この条件だと制作側は転用費を払わなくて良いため、出来るだけ新人を使おうとする。そのため声優側は採用されるためにあえてランクを上げず、新人の条件で仕事をしようとする。

また、ゲームやCM、ナレーション、イベント出演などは個別にギャラ交渉ができ、アニメや吹き替えよりもはるかにギャラが高い。そのため、若い声優はアニメや吹き替えの仕事を増やすだけでなく、ライブやイベントの仕事をこなそうとするのだ。しかし、ライブやイベントの仕事は身体への負担が大きいので、体調を崩す人が頻出する原因になっている」

声優が多忙を極める理由としては、声優本来の仕事であるアテレコだけで食べていこうとしてもギャラを上げにくいため、他の仕事をこなしていく必要がある点が大きいようだ。

このような状況になっていることを声優業界は問題視しており、声優事務所の青二プロダクションで専務取締役営業制作本部長を務める池田克明氏は

「声優事務所や日本声優事業社協議会では、声優の労働環境改善のためにスケジュールの調整やメンタルを安定させるセミナーなどの活動を行なっている。業界の明るい未来のために常に努力をしている」

と語っており、業界としても状況を改善しようという努力は行われているようだ。

ファンから体調を崩す声優を心配する声が挙がるのは当然だ。しかしながら声優という職業は芸事であり、何の保証もない厳しい世界だ。いま売れている声優の方々は、当然それを理解した上で飛び込み、熾烈な競争を潜り抜けて名誉と報酬を勝ち取っている。

心配する権利は誰にでもあるが、声優と言う仕事に自分の人生を賭けている方々を止める権利は誰にも無い。体調管理まで含めたすべてが自己責任であり、成功も失敗もすべて自分の身で受け止めるものなのだろう。

全力で走るときは徹底的に突っ走り、休むべき時はしっかりと休む。これは声優だけでなく、社会人が可能な限り守るべき鉄則だ。心と体を燃やし続ければ燃え尽きてしまうのは当然と言える。声優以外にも鬱や燃え尽き症候群に陥る方々は近年あまりにも多い。声優の休業は、現代社会を映し出す一枚の鏡に過ぎないのかもしれない。

  • 早川清一朗

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