89年以来の大幅値上げで「若い人が全然乗らない」…タクシー運転手が「来年1〜2月が怖い」と語る訳 | FRIDAYデジタル

89年以来の大幅値上げで「若い人が全然乗らない」…タクシー運転手が「来年1〜2月が怖い」と語る訳

  • Facebook シェアボタン
  • X(旧Twitter) シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン
新宿で客待ちをするタクシー。取材をすると、運転手は「客層は明らかに変わった」と口を揃えた
新宿で客待ちをするタクシー。取材をすると、運転手は「客層は明らかに変わった」と口を揃えた

「さすがにこの値上げ幅はやり過ぎじゃないかな、と私ですら思いますよ」

11月14日から東京23区と武蔵野市、三鷹市でタクシー料金の値上げが実施された。初乗りは1052m420円から、1096m500円に。上昇率約14%というこの数字は、’89年以降で最大の上げ幅にあたる。

12月中旬、東京・赤坂見附で記者が乗車したタクシー運転手の野崎さん(仮名・60代)は、すっかり夜も深くなった車中で冒頭のようにボヤいた。この道20年超のベテランドライバーですら、今回の値上げには困惑を隠せないようだ。

「私が普段流している赤坂や銀座というエリアは、土地柄からか客単価が高い。そのためか、値上げ後も水揚げ(売り上げ)にさほど変化はありません。ただし、利用者の層は変わりましたよ。最近利用してくれるのは、ほとんどが会社関係の方にみえます。値上げ以降、若い層は明らかに減っている印象ですね。今はよくても、長い目で見た時に、タクシー離れが起きるんじゃないかと心配です」

中野区にある記者の自宅につくと、料金メーターは4300円を指していた。値上げ前に比べると1000円程度が上乗せされている。

野崎さんによれば、意外なことに値上げ以降も利用者の数には大きな変化は見られないという。新宿や銀座などでもタクシーの運転手に取材したが、同じような意見が目立った。

「コンドルタクシーグループ」代表取締役社長の岩田将克さんは、値上げ後のタクシー業界についてこう話す。

「これまでの歴史を振り返ると、タクシー料金が値上げした後の2~3ヵ月は売り上げが落ち込んでいた。値上げによって利用者のタクシー離れが起きていたからです。今回の値上げ幅から見て、売上減を覚悟していましたが、現状では利用者数は横ばい。これは良い意味での予想外でした。むしろ単価が上がっている分だけ、一台あたりの売り上げは伸びています。ウチの営業所だと、値上げ前は一日10万円を売り上げるドライバーはせいぜい1人くらいでした。それが値上げ後は平均7万円となり、10万円を越えてくるドライバーも10人ほど出てきています」

値上げの背景にあるのは、深刻な人材不足とプロパンガス価格の高騰だ。タクシー業界はコロナ禍以降、離職者増の流れに歯止めが効かない状況に陥っている。追い打ちをかけるように、1リットルあたりのプロパンガスの料金も10年前と比べて倍近い数字となった。その結果、一台あたり3~6%と言われる利益率をさらに圧迫し、従業員の給与への還元が難しいことから離職に繋がるという悪循環となっていた。岩田さんが続ける。

「’20年代初頭から、都内のタクシー事業者の中で値上げ要請の声は起きていました。企業側がタクシーの稼働台数を減らすことで、一台あたりの売り上げを伸ばし、運転手さんに還元する努力をしても構造的な限界があった。実際に今年1年間だけで、都内では約9000人のドライバーが離職していましたから。人の確保という視点からも、もはや値上げは避けられない状況だったんです。この値上げによりやる気があるドライバーたちは売り上げが立ち、やっと稼げる土壌ができた。稼げる人とそうでない人、今後、ドライバーの給料は明確な2極化が進むとみています」

とはいえ、長期的に見れば不安要素はある。11~12月という年間の中でも売り上げが立ちやすい時期と重なったことや、まだ世間に値上げという事実が浸透していないことも、初速が鈍っていない原因の1つにあげられる。

新宿で拾ったタクシードライバーは、

「本当の意味で人の流れがわかるのは’23年の1~2月でしょう。支払いの際に、露骨に嫌な顔をされることが何度もありましたから……。物価高で国民の生活が苦しいなか、従来と同じような利用が続くとはどうしても思えない。来年を迎えるのが今から怖いです」

と、浮かない表情で心境を吐露した。

タクシー料金値上げの成否が出るのは、もう少し先になりそうだ。

  • 取材・文栗田シメイ

FRIDAYの最新情報をGET!

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事