神戸製鋼の強さ 「一体感」を作り上げた意外な行動 | FRIDAYデジタル

神戸製鋼の強さ 「一体感」を作り上げた意外な行動

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中央でトロフィーを抱えるダン・カーター(左)。彼の加入も優勝の大きな要因
中央でトロフィーを抱えるダン・カーター(左)。彼の加入も優勝の大きな要因

ラグビーに触れると、強い組織の作り方を再確認できる。2018年度の国内トップリーグを制した神戸製鋼の取り組みも、マネジメントに関わる全ての人に気づきを与えそうだ。その知見は、言葉にすれば「たいしたことなさそう」に見える点も含めて興味深い。

チームは今季からウェイン・スミス総監督を招き、効果的にスペースを攻略する攻撃スタイルを徹底した。接点からパスを出すスクラムハーフ、司令塔のスタンドオフのみならず、その周辺に立つフォワードの選手も器用にボールをつなぐ。

両手でパスを受け取る。相手を引き付けながらボールを投げる。タックルされながら立ったままスペースに球を放る。

フォワードは突進やぶつかり合いに集中すると見られがちだが、すべてのポジションの選手がハンドリングスキル、それを正しく遂行する判断力を会得していたのだ。

もともとパワフルさには定評があったこともあり、神戸製鋼は見事優勝した。2018年12月15日、東京・秩父宮ラグビー場で2連覇中のサントリーを55-5で撃破。驚いたのが、OBで元日本代表の伊藤鐘史・現京産大コーチだ。

「システム上は去年とそこまで大差はないですが、(接点から見て)内側、外側へと放るパスを(防御とぶつかる)ギリギリのところで上手に使っていた。あれを決勝の舞台で自信を持ってできたということは、ずっと練習していたはず。日々の積み重ね、コーチングによる刺激があったのだと勝手に予想しています」

伊藤の見立て通り、チームは春先からパス練習を徹底。苦しい時にキックと力勝負へ頼る傾向を改めるべく、基本の見直しに時間をかけたのだ。

スペースを攻略する意識は、1月13日にあったトップリーグカップの順位決定トーナメントでも変わらなかった。

トップリーグカップは、若手育成やリーグ全体の試合数の確保のために作られた公式戦。プール戦は代表選手が各クラブを離れる11月にあり、順位決定トーナメントの開かれる1月はレギュラーシーズンの表彰式が終わった後。選手のモチベーション維持が難しそうな時期だ。神戸製鋼も、ニュージーランド代表112キャップ(代表戦出場数)のダン・カーターら主力を離脱させていた。一部の選手は練習にも出ていない。

それでも1月13日に秩父宮で行われた「5~8位決定戦」の初戦で、神戸製鋼はベストメンバーを揃えるNTTコムに37―35と勝利。やや規律を乱しながらも、目指すスタイルはまっとうした。共同キャプテンの1人、フランカーの前川鐘平は言う。

「オフを経て練習を再開した際、選手とコーチ陣でミーティングをしました。自分たちが何を目標にするのかをしっかり話し合えたので、今年についてはブレがなく、いい準備をして臨めました」

この「今年についてはブレがなく」の裏には、今季の神戸製鋼のスキル面以外での成長も見え隠れする。

元ニュージーランド代表アシスタントコーチでもあるスミス総監督は、チームの一体感を作るべく、実際のプレーと関係がなさそうな親会社の歴史や親会社とチームとの関わりに注目。何度も工場見学を企画した。また、選手数名で作るグループの名称は「神戸」「加古川」「真岡」「大安」と同社の製鉄所や製造所の所在地にした。こうして、親会社との関係を深くすることでこれまでにない一体感を演出した。そしていま、「いい選手がいるのになぜ勝てない」と言われた過去に別れを告げつつある。

オーストラリア代表116キャップのアウトサイドセンター、アダム・アシュリークーパーはこう話す。

「鉄鋼マンの方々を代表してラグビーをしていると認識しました。製品には直接の関係がないとしても、自分たちのプレーは製鉄所を代表しているという意識でいます。こうしたテーマ、イメージは、チーム作りにパワーを与えます。自分たちの存在以上のものに紐づけられることで、自分たちはより大きく成長するんです」

サントリーとの決勝戦での選手入場時、登録メンバーたちはファーストジャージィとベンチコートの間に作業着をまとっていた。2017年度限りで現役を辞めた伊藤は、ここに細部を突き詰めるスミスの凄みを見た。

「徹底したんだろうなと。勉強させるだけじゃなく、行動させることが選手の胸に響いたんじゃないですか。前体制でも、工場見学はしていました。ただそれは1度行っただけになっていたかもしれない。ウェインは継続し、濃くやっていたんだろうなと思います。スキル以外の面でも、(大事なことは)継続して言い続けることが大事」

元京産大主将の伊藤は、リコーの社員選手を経て2009年度から神戸製鋼でプロ選手としてプレー。12年にはエディー・ジョーンズ現イングランド代表ヘッドコーチの率いる日本代表へ呼ばれ、15年のワールドカップイングランド大会にも出場している。2017年度限りで引退するまで、多くのボスに師事してきた。その経験をもとに、スミスのような名将の特徴をこう分析する。

「外国人コーチの凄さって、日本人コーチなら『そんなの、誰でもわかっていることだから言わんでもええやろ』と思いそうな『たいしたことないこと』の重要性を説くのがうまいんです」

例えば2015年に日本代表を3勝させたジョーンズは、「ハードワーク!」と強調した。その前提として「世界一のフィットネスとアタッキングを身に付け、世界トップ10(後にトップ8と上方修正)になる」という題目を提示。1日複数回の練習を実施した。かくして「必死に頑張れ!」という誰でも言えそうな訓示を、ナショナルチーム強化のためのマントラに変えた。

ちなみにスミスは、神戸製鋼での取り組みについて聞かれ「私は選手全員のすることを愛していますし、会社を愛しています。そうして結果がついて来ています」と述べている。談話そのものは簡潔だが、それを聞き手に納得させるだけの具体的な行動もあった。

パスラグビーを唱えたことではなく、パスラグビーを徹底させたこと。クラブのルーツと強化方針を繋げたことではなく、クラブのルーツと強化方針との繋がりを何度でも強調してきたこと。この「たいしたことなさそう」で大事な要素が、神戸製鋼ラグビー部を日本一にしたと言えよう。チームは19日、愛知のパロマ瑞穂ラグビー場で東芝との今季最終戦に臨む。きっと「愛」が貫かれているだろう。

取材・文:向風見也(スポーツライター) 写真:アフロ

  • 取材・文向風見也

    スポーツライター 1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとして活躍。主にラグビーについての取材を行なっている。著書に『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』(双葉社)がある

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