セーラームーン姿の社長が登場して…? 中堅警備会社のユーチューブ登録者数100万人が突破したワケ
仕事の紹介、一切ナシ!
社長に冷えピタを投げつけたり、セーラームーンの扮装をさせたり……。こんなYouTubeが人気だ。チャンネル登録者数はなんとこの12月に100万人を突破! 配信しているのは社員数87名の大京警備保障だ。
警備会社がいったいなぜこんな動画を?
「リクルートのためです。僕は父からこの会社を引き継いだんですけど、僕が入社したときは、求人の広告を出しても応募者の60%が50代以上。
体調をくずしてやめていく人もいれば、定年を迎える人もいる。そんな事情でひと月に1~3人、1年で20人くらい退職するんです。これが続けば、いずれ会社は潰れてしまう。背水の陣の状態で、人材確保のために始めたんです」
こう言うのは、大京警備保障株式会社の社長、櫻井大輔氏。
YouTubeの配信を始めたのは2019年3月。その前年、2018年の東京都における警備職の有効求人倍率は99倍。一人の人を99社が取り合う状況だったと言う。警備業界は慢性の人手不足に悩んでいるのだとか。
それにしても、仕事とまったく関係ない動画をなぜ?
「SNSは多くの人に見てもらわないと意味がない。警備の仕事に興味があれば、人材不足に陥っていないわけですから、仕事を紹介するYouTubeを作ったところで注目はされない。若い人に焦点を当てて、注目されるコンテンツを作ったということです」

YouTube効果で60%が50代以上だった求人応募者が、20代が60%に!
YouTubeの効果は?
「求人応募者の60%が20代になりました」
すごい。社長の狙いはバッチリはまったわけだ。


交通誘導の仕事は、街とともに成長していく楽しさがある
それにしても、なぜ警備業界はこんなに人手不足なのだろう。
警備の仕事には4種類あると言う。一つは建物の中で警備する施設警備。2つ目は交通誘導。3つ目が現金輸送など運搬業務警備、4つ目が身辺警護だ。大京警備保障が行っているのは、交通誘導。道路の工事現場などで車両誘導する姿をよく見かけるが、大京警備保障のおもな仕事は、スーパーゼネコンが手がける再開発事業に関わる警備だ。
2021年には虎ノ門ヒルズ駅が開業したが、その工事の最初から最後まで交通誘導を担当した。大規模開発になると、10年、20年、30年とそこでの警備の仕事が続くことになる。
大手のクライアントをもつ優良企業なのだ。
「何もなかったところに、駅やビルが建つ。それをずっと見ているわけですから、街とともに成長していく楽しさがあります。
それに近所の方と直接接するのは私たち。毎日挨拶をしていると親しくなって、差し入れをいただくこともあります。小学生だった子が中学生になったり。そんな姿を目にすることができるのも、やりがいになっています」
工事現場では騒音などで苦情が寄せられることも多い。近所の人と挨拶を交わすなど親しくなり、苦情が少ないと表彰されたこともあるのだとか。

しかし、定着率は3割。人材確保の苦労は続く…
一度警備につけば、10年20年とその仕事が続く。20代も多く入社して、大京警備保障はもう安泰?
「それがそうでもないんです。若い人には何年も同じ会社で働き続けようという感覚がないらしく、家具つきの寮を用意したり、福利厚生にも力を入れているんですけど、定着率は3割程度。今も人手不足は変わりません。
これからもファンを増やしていくためにSNSでの発信は続けます。警備の仕事の魅力を伝えるようなコンテンツも増やしていきたいと思います」
社長の苦労はこれからも続きそうだ。

取材・文:中川いづみ撮影:田中祐介