スマホ購入&賃貸入居もNG 口座の残高は現金書留で郵送され…2023年「暴力団はどう生きるのか」 | FRIDAYデジタル

スマホ購入&賃貸入居もNG 口座の残高は現金書留で郵送され…2023年「暴力団はどう生きるのか」

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昨年12月に「事始め」に出席した司忍組長
昨年12月に「事始め」に出席した司忍組長

ある日突然銀行から…

近年、国内の暴力団構成員数は減少し続けている。2007年に政府の犯罪対策閣僚会議の申し合わせで、「反社会的勢力」と位置づけられ企業などが本格的に排除を進めてきたほか、2011年までに全国で整備された暴力団排除条例でさらに活動に対する規制が厳しくなり経済的な苦境が続いている。

バブル景気で日本中が潤っていたころは、裏社会の暴力団業界にも恩恵がもたらされ6万人以上の構成員が確認されていた。しかし、警察庁の最新データとなる2021年末時点で、全国で約1万2300人にまで減少した。2023年もこうした傾向は続くとみられる。

バブル景気がピークとなった1989年の年末の大納会で東京証券取引所の平均株価が3万8915円87銭を記録、過去最高値となった。この年の全国の暴力団構成員は約6万6700人だった。バブル期にはカネの動きに嗅覚が働く暴力団幹部らが金融や不動産取引など表経済に進出。暴力団社会で「シノギ」と呼ばれる資金源としてきた。一部の幹部は「経済ヤクザ」と称された。

しかし、バブルは崩壊し暴力団業界にも影響が及んだ。警察当局の取り締まり強化などで、金融や不動産取引などに介入していた暴力団の多くは排除された。さらに、暴力団対策法が1992年に施行、暴排条例も2011年までに整備された。

首都圏に拠点を構える指定暴力団の古参幹部は、「暴対法が施行された後は、繁華街の飲食店などからの用心棒代の徴収がばれても、中止命令で済んだ。だが、暴排条例では店側が利益供与することを禁じられたため、公然と『付き合いを絶ちたい』と言ってきた」と振り返る。

暴排条例に違反して暴力団側に利益を供与していたことが判明した場合、公安委員会は指導や勧告を行う。それでも改善されない場合は事業者名が公表される。経営者にとってみれば名称が公表された場合は銀行取引が停止されることが予測され死活問題だ。

それでも暴力団との関係を絶てない事業者への対策として、さらに規制が強化された。東京都は2019年10月、用心棒代などを支払った飲食店の経営者らを摘発できる改正東京都暴排条例を施行。2020年2月には警視庁が用心棒代を支払っていた飲食店経営者と暴力団幹部を同条例違反容疑で逮捕した。初の事件化だった。包囲網は確実に狭まっていった。

暴排条例が施行された当時、組織犯罪対策を担当していた警察当局の捜査幹部OBも、「ヤクザにとっては暴排条例の施行は影響が大きく、辞めていく者が多かった。大きな転機だった。さらに、反社会的勢力の排除のため企業の協力も追い打ちとなった」と指摘する。

捜査幹部OBが強調した反社排除の実態について、別の暴力団幹部が打ち明ける。

「ある日、銀行から電話で、『口座を閉鎖する』と通告があった。口座にあった残高は現金書留で郵送されてきた。それ以降、自分の名義の口座はない。そのほかにスマホの契約を出来ない、車も買えない。賃貸住宅には入居できない。何もかも『反社はダメ』となった」

日常生活でも契約を結ぶ際に約款を交わすことが求められ、書面に「反社会的勢力に属していますか?」との項目に、「属していない」とチェックして銀行口座を開設することや、スマホの契約、ホテルでの宿泊などでも詐欺容疑で逮捕されるケースが相次いだ。

一方で複数のスマホ&口座を使いこなす暴力団幹部も

こうした苦境は警察庁が毎年の年末に取りまとめている全国の暴力団構成員数にも表れている。バブル期には6万人以上だった全国の暴力団構成員は、1990年代初頭のバブル崩壊の影響で5万人台に。その後も減少し4万人台となった。

減少傾向に拍車がかかるのは暴排条例が施行された2011年以降だ。2012年の年末時点には3万人を割り込み約2万8800人。2016年には2万人以下となり約1万8100人で、最新データとなる2021年は約1万2300人となった。

国内最大の暴力団「6代目山口組」といえども同様の傾向をたどっている。暴排条例が全国で整備された2011年には構成員は約1万5200人だったが、最新データの2021年には約4000人となった。2015年8月に6代目山口組は分裂し一部グループが神戸山口組を結成して離脱したために大きく構成員を減らしたこともあるが、2021年には暴排条例整備以降、初めて前年から増員となった。

これは神戸山口組を離脱した山健組が約500人という巨大勢力を引き連れて移籍してきたためだった。それでも分裂後は毎年のように300人前後減少していた。

国内2番目の「住吉会」は2011年には約5600人だったが、2021年は半数以下の約2500人。住吉会に次ぐ規模の「稲川会」は2011年に約4000人で、2021年にはこちらも同様に半数以下の約1900人だった。いずれも年々、100~200人が減少している。こうした傾向は2023年も続くとみられる。

ただ、これまでも苦境の中にあっても暴力団は組織の存続を図ってきた。反社排除の社会風潮のなかでも数台のスマホを使い分け、複数の銀行口座を利用している暴力団幹部は多い。一部の組織はいまだに表経済の事業活動を資金源としている。だが、警察当局の摘発を受けるケースはまれであるのも実態だ。

こうした状況に対処するため、利益を供与した側に罰則が規定された改正東京都暴排条例と同じ規定を設けた改正暴排条例が、神奈川県でも2022年11月に施行された。現在、各地で同様の改正案が検討されている。今後、さらなる警察当局による規制の強化や厳しい取り締まりが待ち構えているとみられる。一方で生き残りを図る暴力団も活路を見出すはずだ。2023年は水面下で警察との新たな暗闘となりそうだ。

  • 取材・文尾島正洋

    ノンフィクションライター。産経新聞社で警察庁記者クラブ、警視庁キャップ、神奈川県警キャップ、司法記者クラブ、国税庁記者クラブなどを担当し、フリーに。近著に『山口組分裂の真相』(文藝春秋)

  • 撮影濱﨑慎治

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