ノンフィクション作家。産経新聞社で警察庁記者クラブ、警視庁キャップ、神奈川県警キャップ、司法記者クラブ、国税庁記者クラブなどを担当しフリーに。近著に『俺たちはどう生きるか　現代ヤクザのカネ、女、辞め時』（講談社＋α新書）。

尾島 正洋

<figure id="attachment_286912" aria-describedby="caption-attachment-286912" style="width: 5184px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="4baa34fa"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/12/SH535977.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-286912" class="wp-caption-text">昨年12月、「事始め」に参加した司忍組長</figcaption></figure>
<p>国内最大の暴力団「６代目山口組」が2015年８月に分裂し、離脱したグループが結成した</p>
<p>「神戸山口組」との間の対立抗争状態は2023年になり９年目を迎える。これまで約90件の抗争事件が発生し８人が死亡した。対立が原因ではない移籍などをめぐる内部のトラブルも含めると事件は100件以上で、死者は十数人にのぼる。</p>
<p>警察庁の統計による双方の勢力の最新データは2021年末時点で、攻勢を強める6代目山口組の構成員は約4000人に対して、神戸山口組は約510人と大きく差が開いている。2023年は６代目山口組の優勢がさらに鮮明になるとみられる。</p>
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<p>神戸山口組を結成したのは、山健組や宅見組のほか池田組、侠友会、正木組の中核５組織を中心とした13組織だった。山健組や宅見組は山口組内だけでなく暴力団業界全体に知られるブランドとされただけに衝撃は大きかった。6代目山口組組長の司忍の出身母体、弘道会を中心とした組織運営に反発しての決起だった。</p>
<p>分裂時の双方の勢力は6代目山口組が約6000人、神戸山口組は約2800人だった。だが、分裂後は神戸山口組に加入する組織が相次ぎ、神戸山口組の方が勢いはあった。しかし、2019年10月に恐喝事件で服役していた弘道会出身の6代目山口組ナンバー２、若頭の高山清司が刑務所を出所すると対立抗争の潮目が大きく変わった。</p>
<h3>なぜ「返し」がなかったのか</h3>
<p>神戸市内で同年１０月、当時は神戸山口組傘下だった山健組組員２人が同時に射殺される事件が発生。翌11月には尼崎市内で神戸山口組幹部が自動小銃で数十発の銃弾を浴びて殺害されると、同組から脱退する組織が相次いだ。逮捕されたのはいずれも６代目山口組系組員らだった。</p>
<p>当時、組織犯罪対策を担当していた警察当局の幹部は、<span class="strongInContent">「高山が出所するというだけで、６代目（山口組）の傘下組織が勢いづき、神戸（山口組）側に何人も死者が出た。それだけカリスマ性がある。武力だけでなく組織維持のためのシノギ（資金獲得活動）にも秀でていて知力も兼ね備えている」</span>と評していた。</p>
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<p>対立抗争の激化を抑え込むため、6代目山口組と神戸山口組の双方を「特定抗争指定暴力団」に指定し活動を厳しく規制することとなった。</p>
<p>対立抗争の経過では、6代目山口組側が引き起こす事件が相次いだ。前述の事件のほか、神戸山口組組長、井上邦雄の出身母体でもある山健組の若頭が2019年４月、刃物で刺され重傷を負う事件が発生。豊富な資金力に定評があった池田組では2016年５月、若頭が射殺され、2020年５月にも後任の若頭が銃撃され重傷を負うこととなった。</p>
<p>暴力団業界では、「やられたら即座にやり返す」が常識とされる。だが、<span class="strongInContent">「神戸（山口組）側からの返し（報復）はなかった。意図は不明だが、井上が許さなかったようだ」（前出の警察幹部）</span>という。</p>
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<div data-friday-nextpage-lead="これまでとはまったく違う"></div>
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<figure id="attachment_287115" aria-describedby="caption-attachment-287115" style="width: 4001px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="529c1617"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/01/RE_SH537360.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-287115" class="wp-caption-text">動向が注目される六代目山口組の高山若頭</figcaption></figure>
<p>内部では金銭をめぐる不満も鬱積していた。こうした状況が続くなか、池田組が2020年７月に、山健組が同年８月に相次いで脱退を表明。業界では驚きを持って受け止められた。さらに衝撃的な事実が明らかになる。山健組が6代目山口組に復帰したのだった。神戸山口組としては回復しがたい痛手だった。</p>
<p>対立抗争の行方を注視してきた首都圏で主に活動している指定暴力団の幹部は、<span class="strongInContent">「山健組や池田組の脱退は、やられても返しができない状況について納得できなかったのではないか。何もせずにいたらヤクザの社会だけでなく、カタギからも疑問の目を向けられる。それで抜けたのだろう」</span>との感想を述べていた。</p>
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<p>対立抗争事件は一時期、鎮静化していた。だが、2022年になり再燃する。５月、大阪府豊中市の宅見組組長の入江禎の自宅に車が突入、６月には神戸市の井上の自宅に向けた発砲事件が発生。10月には岡山市の理容店で散髪中の池田組組長の池田孝志がサバイバルナイフを持った男に襲われ、6代目山口組系幹部が逮捕された。</p>
<p>こうした相次ぐ事件について前出の警察当局の幹部は、<span class="strongInContent">「井上の自宅への発砲や入江の自宅への車の突入など、トップの自宅が襲われた。そして、何より池田への襲撃はトップの身体をターゲットにしている。長期化している対立抗争で指定暴力団のトップが直接、狙われたのは初ではないか。これまでの事件とはまったく形態が違う」</span>と指摘する。</p>
<p>岡山県公安委員会などは6代目山口組と池田組が対立抗争状態にあるとして、双方を特定抗争指定暴力団とした。6代目山口組は神戸山口組との間でも指定されているため、「ダブル指定」（警察当局の幹部）となっている。</p>
<h3>「初荷」を狙う捜査幹部たち</h3>
<p>2022年夏になりさらに神戸山口組の勢力縮小となる動きがあった。侠友会と宅見組が脱退したのだった。侠友会は神戸山口組の円満な解散などを模索していたとされた。宅見組は6代目山口組に対抗するため離脱した池田組や絆会（2017年に神戸山口組を離脱）との連帯を考えていた。だが、いずれも井上との路線対立となり脱退した。侠友会会長の寺岡修は2022年末になり、6代目山口組に対して謝罪のうえ引退、組織の解散を表明した。</p>
<p>正木組は2020年８月にすでに解散しているため、結成時の中核５組織はすべて神戸山口組を去っている。2023年はさらなる試練の年となりそうだ。</p>
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<p>2022年の対立抗争事件では、前述のように神戸山口組組長の井上の自宅への発砲、宅見組組長の入江の自宅に車両の突入、そして理容店で散髪中の池田組組長の池田の襲撃事件が発生。６代目山口組系組織によってトップが狙われる事件が多発した。6代目山口組は2023年も手を緩めることはなく攻勢を強める傾向は続くものとみられる。</p>
<p>ただ、警察当局もこうした動きを傍観しているだけではなかった。これまで対立抗争事件では6代目山口組傘下の各組織の組員らが実行犯として逮捕されても、組長クラスにまで警察の捜査の手が及ぶまでには至らなかったが、2022年には「直参」と呼ばれる6代目山口組の直系組長の逮捕も相次いだ。</p>
<p>宮崎、大分両県警は９月に石井一家総長を殺人未遂容疑で逮捕し、10月には旭導会会長が詐欺容疑で警視庁に逮捕された。さらに11月には福岡県警が一道会会長を現住建造物等放火未遂容疑で逮捕した。多くの事件は不起訴処分とるケースが多いが、警察の強い姿勢を示すこととなった。</p>
<p>警察社会の一部には、年が明けてから摘発する事件を「初荷」と呼ぶ習慣がある。2023年には、全国の警察の組織犯罪対策を担当する捜査幹部たちは新年早々、直参逮捕に乗り出し初荷の成果を上げようと策を練っているものとみられる。2023年は6代目山口組にとっても難局が待ち構えている。（文中敬称略）</p>


ノンフィクションライター。産経新聞社で警察庁記者クラブ、警視庁キャップ、神奈川県警キャップ、司法記者クラブ、国税庁記者クラブなどを担当し、フリーに。近著に『山口組分裂の真相』（文藝春秋）

尾島正洋

濱﨑慎治

昨年12月、「事始め」に参加した司忍組長 国内最大の暴力団「６代目山口組」が2015年８月に分裂し、離脱したグループが結成した 「神戸山口組」との間の対立抗争状態は2023年になり９年目を迎える。これ

人数比は「4000対510」と圧倒的だが…23年分裂抗争を戦う「六代目山口組」の「狙いと難局」

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