<h3>天龍源一郎を“ミスタープロレス”に押し上げた妻の存在</h3>
<figure id="attachment_287172" aria-describedby="caption-attachment-287172" style="width: 3024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="0ec0d256"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/12/A-2.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-287172" class="wp-caption-text">天龍源一郎氏と妻の嶋田まき代さん。現役引退後に撮影した一枚（写真提供：天龍プロジェクト）</figcaption></figure>
2022年９月に刊行された『天龍源一郎の女房』（ワニブックス）は、同年６月に他界した嶋田まき代さんが記した一代記だ。
書名にもある通り、まき代さんはプロレスラー・天龍源一郎の妻として長年連れ添い、天龍を“ミスタープロレス”に押し上げた陰の立役者でもある。この本にはまき代さんと天龍との出会いから、天龍がプロレスラーとしてトップに昇り詰め、そして引退するまでをそばで支え続けたまき代夫人の視点で描かれている。
がんに侵されて余命いくばくもないなか、天龍本人の口からは決して語ることができない、夫人だからこそ分かることが綴られた本書は、天龍ファンだけでなく、プロレス史においても重要な出来事の裏側を知ることができる一冊だ。
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まき代さんは残念ながら、最終章を語る前に力尽き、本の完成を見ることなく逝ってしまったが、一人娘の嶋田紋奈さんが最終章を引き取る形で完成させた、母娘の共著でもある。そんな、妻と娘、二人の家族の視点から描かれたこの本について、そして亡き妻への思いを天龍源一郎氏本人に語ってもらった。
<figure id="attachment_287173" aria-describedby="caption-attachment-287173" style="width: 2316px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="bcb44b4d"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/12/867fe508fa43e6819067536b0c62380b-rotated.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-287173" class="wp-caption-text">娘の紋奈さん（右）と家族そろって誕生日パーティー。近年は娘夫婦と同居していた（写真提供：天龍プロジェクト）</figcaption></figure>
<h3>「天龍を日本一のプロレスラーにする」妻の決意 </h3>
「女房が本のために生前インタビューを受けていたのも知っていましたが、いざ、本になったものを目の前にすると、伸ばした手がすくんで２ヵ月くらい読むことができませんでした。 
感傷的になっていたというよりも、まき代が命をさらけだして書いたことを、たらたらと読んでいいのかという気持ちと、彼女の本心に触れるのが怖い、畏れ多いような気持ちでした。まき代は俺に対して真正面から付き合ってくれたから、余計にその気持ちを図り知ることに戸惑いがありました」（天龍さん）
発刊からしばらく経ってようやく読んだこの本で、天龍さんが最初に思い出したのは、結婚したばかりの頃のことだった。
「結婚してすぐ、まき代が『天龍源一郎を日本一のレスラーにする』と言ってくれました。当時の俺は動きもパッとしない、イマイチなレスラーでした。そんなレスラーを日本一にすると公言して、そのために行動を起こしてくれたことは彼女には感謝してもしきれません。 
たとえば、家族で新幹線に乗るときは俺だけグリーン車で、まき代は娘の紋奈を抱いて普通車に乗って後からついて来る。そうやって、いつも俺を立ててくれていました」
プロレスラー天龍源一郎といえば、ファンや記者を巻き込んで飲みまくる酒豪伝説がよく知られているが、その伝説を生んだのもまき代夫人の尽力があったからこそだという。
「飲みに行っても、俺がいい恰好できるようにいつも金を用立ててくれていました。 
当時は自分のファイトマネーで十分やっていけていると思っていたのですが、後になってまき代が自分の貴金属を処分したり、実家の店でアルバイトしたりして工面してくれていたことを知りました。それを知ったときはさすがにショックでしたよ（苦笑）。 
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でもまき代は少しもそんなことを見せず、俺が飲みに行くのに金を持たせて気持ちよく送り出してくれました」
本書にはそうしたまき代さんの内助の功のほか、フリーとなった天龍さんの交渉担当として、新日本プロレス相手に一歩も引かない“タフ・ネゴシエーター”ぶりも記されている。その交渉相手はアントニオ猪木の懐刀として、プロレス界に波紋を広げる仕掛けを次々と繰り出した猛者、永島勝司氏だ。
「俺が新日本プロレスのリングに上がっていたとき、交渉担当は永島さんでした。ほかにも長州力をはじめ、海千山千がひしめく新日本を相手に天龍源一郎の女房として毅然とした態度で渡り合っている姿は頼もしかったですよ（笑）。 
後年、あの永島さんが『ギャラの交渉になると経理をやっていた奥さんが出てくるんだよ。タフ・ネゴシエーターだったな』と言っていたんだから、まき代は大したものですよ」 
<figure id="attachment_287174" aria-describedby="caption-attachment-287174" style="width: 320px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c6670b47"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/12/1e353f6e3341ae4de19443dbb9648bbb.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-287174" class="wp-caption-text">娘の紋奈さんの文字「紋」の碑の前で記念撮影。紋の字は「いつか嫁ぐから」とまき代さんがこの字を選んだ（写真提供：天龍プロジェクト）</figcaption></figure>
<div data-friday-nextpage-lead="アントニオ猪木が天龍に仕掛けた失神＆脱臼事件"></div>
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<h3>アントニオ猪木が天龍に仕掛けた失神＆脱臼事件</h3>
そんなまき代さんのエピソードが満載の『天龍源一郎の女房』が発刊された２ヵ月後、今度は天龍源一郎著『俺が戦った真に強かった男』（青春新書）が刊行された。これは天龍氏がこれまで戦った数々のレスラーたちのことを語った一冊だ。
その著書の中にまき代さんに捧げる一章「天龍源一郎を“日本一のプロレスラー”にしてくれた人」が寄せられている。
「その章は俺が希望して入れてもらいました。天龍源一郎を作ったのも、嶋田家を作ったのも彼女。ちゃらんぽらんな俺だけの力ではプロレスも家庭もああまでうまくいかなかったでしょう」
本書に綴られているのはそんなまき代さんのエピソードだけでなく、もちろんメインは天龍さんをプロレスに導いたジャイアント馬場、同世代で一時代を築いたジャンボ鶴田、日本でも絶大な人気を誇ったミル・マスカラス、激闘を繰り広げたブルーザー・ブロディとスタン・ハンセンなど、プロレス史に燦然と輝くレスラーたちとの戦いやエピソードだ。
その中には、2022年に他界した燃える闘魂、アントニオ猪木の名前もある。
「対戦したのは２回ですが、猪木さんのすごさは端的に言うと、喧嘩でもなんでもそうですけど、間がいいんです。 
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間の詰め方、剣先の持っていき方がうまい。攻めるときはすすっとやってきて、引くときはすーっと後退する。その感覚が俺が戦ってきたレスラーの中でも群を抜いていました」
その２回目の対戦、1994年１月４日の東京ドームのリングで、天龍さんは“キラー”アントニオ猪木の本領を知ることになる。猪木の得意技、スリーパーホールドで失神させられたうえ、ロープ際の攻防では指を脱臼させられた。
「猪木さんは常に『どちらかが仕掛けて、それに応えられなかったら終わり』だと言っていましたが、まさに俺が仕掛けられた形になりました。アントニオ猪木の怖さを改めて体感した試合でした」
そんな試合も、最後は天龍さんが見事逆転のピンフォール勝ちを収め、ジャイアント馬場、アントニオ猪木からピンフォールを奪った唯一の日本人レスラーとなった。
「猪木さんは晩年、闘病中の痩せ細った姿もさらしていました。俺もその姿を見て寂しさを感じましたが、猪木さんが戦っているのはわかりました。 
普通はああいう姿はさらけ出したくないけど、すべてさらけ出して、後はみんなが判断してくれっていう、猪木さんのおおらかな一面も出ていたと思います」 
<figure id="attachment_287175" aria-describedby="caption-attachment-287175" style="width: 1024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="61c26b10"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/12/D_2021052611233.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-287175" class="wp-caption-text">にらみ合うアントニオ猪木（左）と天龍源一郎＝1994年１月４日、東京都・文京区の東京ドーム（写真：山内猛／共同通信イメージズ）</figcaption></figure>
<h3>ジャイアント馬場とアントニオ猪木 </h3>
天龍氏をプロレス界に導いたジャイアント馬場と、プロレス界のみならず世間にも“仕掛け”続けたアントニオ猪木の二人は、好対象として比較されることも多いが、天龍さんも二人の違いをこう分析する。
「猪木さんは自分がなにで成り上がったかを理解していたからプロレスを大事にしていました。一方、馬場さんは言い方は悪いけど、プロレスで儲けた割にプロレスをないがしろにしていた部分はありましたよ。馬場さんはあくまでもプロレスはショービジネスと割り切った、アメリカ的な考えの人でした。 
だからもし、猪木さんがいなかったら、馬場さんが亡くなった時点で日本のプロレスは無くなっていたか、かなり規模の小さいものになっていたんじゃないかと思います」
「天龍源一郎の女房」と「俺が戦った真に強かった男」。この２冊は“ミスタープロレス”天龍源一郎を通して、日本のプロレス史をひも解く貴重な資料にもなりそうだ。そんな２冊を天龍氏本人はどう思っているのか、最後に聞いた。
「俺は特段、この本を天龍のファンやプロレスファンなど、特定の誰かに読んでほしいとは思っていません。誰でもいいから手に取って、読んで感じたことを胸に、前向きに生きてくれればと思っています。 
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特に『天龍源一郎の女房』はまき代が命を削って書いた本です。読んだ人は彼女の言葉をそのまま受け止めてくれれば本望です」
天龍氏は現在「環軸椎亜脱臼に伴う脊髄症・脊柱管狭窄症」による手術とそのリハビリで入院中だ。天龍氏の激闘に勇気をもらったファンとしては、応援の意味も込めてこの２冊を読みつつ、ミスタープロレスのカムバックを待ちたい。

高橋ダイスケ

2022年６月に他界した妻・嶋田まき代さんが記した一代記『天龍源一郎の女房』。亡き妻への思い、同年10月他界した燃える闘魂・アントニオ猪木への追悼を入院中の天龍源一郎氏に語ってもらった。

亡き妻への思い＆アントニオ猪木への追悼も…”ミスタープロレス”天龍源一郎が「病床で語ったこと」

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