23年の世界はどうなる? ウクライナだけじゃない!22年「国際紛争」を一気振り返り | FRIDAYデジタル

23年の世界はどうなる? ウクライナだけじゃない!22年「国際紛争」を一気振り返り

軍事ジャーナリスト黒井文太郎レポート

2022年も「戦」の年だった。ロシア・ウクライナだけでなく、世界中で今日も戦争が行われている。人は何のために戦うのか。2022年の国際紛争を、我々の誤ちを振り返る 写真:AP/アフロ
2022年も「戦」の年だった。ロシア・ウクライナだけでなく、世界中で今日も戦争が行われている。人は何のために戦うのか。2022年の国際紛争を、我々の誤ちを振り返る 写真:AP/アフロ

ウクライナだけじゃない「国際紛争」の重いくびき

2022年は「戦争の1年」だったといえる。いうまでもなく、2月にロシア軍がウクライナに侵攻したからだ。

そのまさに絵に描いたような邪悪な侵略戦争は、NATO諸国などから強力な武器・情報支援を受けたウクライナが、高い士気を維持して効果的に迎撃に成功し、ロシア軍の進撃を食い止めることに成功。開戦から10ヶ月の今、東部と南部での戦線で、長期的な消耗戦となっている。

そのロシア=ウクライナ戦争以外の「紛争」を含め、2022年の国際的な安全保障分野での大きな出来事を振り返ってみたい。

ロシアの蛮行と存在感を増す北朝鮮

1月

▽カザフスタンでデモ鎮圧

1月1日、燃料価格の高騰をきっかけに反政府デモが勃発。治安部隊と衝突した。ロシアを中心とする旧ソ連6か国が加盟するCSTO(集団安全保障条約機構)から治安部隊が派遣され、デモ鎮圧に投入された。1月11日、トカエフ大統領が騒乱終息を宣言。一連の騒動での死者は計二百数十名に及んだ。

▽ウクライナ国境に展開するロシア軍が増強を続ける

2021年春にウクライナ国境に展開していたロシア軍は、その後、一部を撤退させたが、同年10月頃より再び増強。12月にはロシアが「NATO不拡大を確約しなければ軍事的な対抗措置をとる」と宣言し、緊張が高まっていた。

1月26日、NATOがロシアの要求を正式に拒否すると、ロシア軍の展開はさらに進められた。最終的には、ベラルーシ領内も含めてウクライナ包囲に展開してロシア軍の兵力は約19万人にも達した。

▽北朝鮮が日本を射程に収める「イージス艦で落とせないミサイル」の実験に成功

1月5日と11日、北朝鮮は日米のイージス艦の対応高度より低い高度を滑空飛行する「極超音速ミサイル」の発射実験を行い、11日の実験では1000㎞を飛ばした。これにより、日本は初めて現有のイージス艦では落とせないミサイルの射程に入ることになった。

さらに同月14日には短距離弾道ミサイル「KN-23」鉄道発射式を発射した。

1月19日、金正恩は党政治局会議で、2018年の対米交渉時に自粛を宣言していた核実験とICBM発射実験の再開を事実上宣言。金正恩の言葉ということは、具体的にその計画が存在していることを示している。実際、同30日には中距離弾道ミサイル「火星12」を発射するなど、徐々に射程の長いミサイルの発射に進む徴候を示した。

2月

▽ロシア軍がウクライナ侵攻

2月15日、ロシア下院がドネツク州とルハンシク州の独立を承認することをプ―チンに要請する決議を採択。それを受けて同21日、プーチンが独立を承認し、その独立国からの要請という口実で、同地域での治安維持活動を軍に命じる。そしてその3日後の2月24日、プーチンが軍に「特別軍事作戦」を命じ、ウクライナ侵攻が開始された。

開戦と同時にロシア軍はミサイルで各地を攻撃。同時に北部・東部・南部の3方向から地上部隊が侵攻した。そのうち北部ではベラルーシから南下。並行して首都キーウへのミサイル攻撃も始めた。さらに空挺部隊を投入して首都近郊のホストメリ空港制圧を狙ったが、そこはウクライナ軍が撃退した。

▽北朝鮮が超大型のICBM「火星17」の予備的な発射実験

北朝鮮は2月から3月にかけて、ICBM「火星17」を数度発射したが、フルパワーでの発射ではない予備実験的な発射だった。

他方、ロシアがウクライナ侵攻を開始した翌週の同月末には、豊渓里核実験場で核実験準備の工事を加速化している。ロシアが欧米主要国と敵対したことで、北朝鮮にとっては国際社会の圧力を気にせず核実験ができるチャンスが到来したことになる。

3月

▽ウクライナ軍、キーウ防衛に成功

ロシア軍は南部でクリミア半島から続々と部隊を侵入させて、制圧地を拡大。3月2日にはヘルソン市も占領された。

他方、北部から侵攻した部隊は、キーウの北西部から近郊まで迫ったが、そこで食い止められた。北東部のロシア国境から侵攻し、キーウを東から狙った部隊も近郊まで進軍したところで撃退された。

東部からドンバス地方に攻め入った部隊は、少しずつウクライナ軍を押し出し、とくにルハンスク州ではかなりのエリアを制圧したが、ドネツク州では強い抵抗で進撃を阻まれた。

このように、2月24日から3月中旬にかけての初戦では、全体的にみるとロシア軍の進撃をかろうじてウクライナ軍が各地で食い止めたというかたちになった。

▽北朝鮮が超大型ICBM「火星17」発射に失敗

3月16日、火星17の発射を試みたが失敗。同24日にすでに発射成功実績のある火星15の弾頭を軽量化し、火星17相当の加速度で発射して成功させ、それを火星17の成功だったと偽って発表した。

4月

▽ロシア軍、部隊を北部から東部へ移動

北部戦線でウクライナ軍の反撃を抑えきれなくなったロシア軍がキーウ攻略をいったん諦め、部隊を北部戦線から4月6日までに完全に撤退させた。撤退した部隊は主に東部戦線に回された。

▽北朝鮮、新型小型短距離弾道ミサイル発射

4月16日、「新型戦術誘導兵器」と称する小型のミサイルを初めて発射。北朝鮮はこれを核搭載用だと説明。少なくとも同ミサイルに搭載可能なレベルまでの核爆弾小型化を前提に開発していることを示した。

5月

▽ロシア軍が要衝・マリウポリを制圧

北部戦線から部隊を東部に再配置したロシア軍が、優位に立つ火力を使って、とくに東部で攻勢を強化し、5月17日には南部との回廊にある要衝・マリウポリを制圧した。

▽北朝鮮、核実験の準備整う

2月末から急いでいた核実験場の工事は5月中に完了。いつでも核実験が可能になったとみられる。なお、ミサイル発射も続けており、5月から6月にかけて既存のいくつかの弾道ミサイルを発射した。

6月

▽東部でロシア軍が進撃

東部戦線で火力に勝るロシア軍が進撃。6月24日にはルハンシク州の中心都市セベロドネツクを制圧する。

7月

▽ロシア軍、ルハンシク州を制圧

7月3日、ロシア軍は要衝のリシチャンスクを攻略し、ルハンシク州のほぼ全域を制圧した。

ただ、同月下旬頃よりウクライナ軍はNATOから供与されたHIMARS(高機動ロケット砲システム)を前線に投入し、ロシア軍の後方の弾薬庫などを効果的に破壊しはじめた。ロシア軍は兵力不足などから補給ラインの防衛が手薄になっており、そこをウクライナ軍が効果的に攻撃したこともあって、ロシア軍の進撃が止まる事態が各地で生じた。

ウクライナの反撃が始まった

8月

▽南部でウクライナ軍が反撃

8月末頃より、ヘルソン州でウクライナ軍が攻勢に出る。ロシア軍は東部戦線から精鋭部隊を南部戦線に配置した。

9月

▽ウクライナ軍、ハルキウ州を奪還

▽ロシア、予備役を動員へ

9月初旬、ウクライナ軍が北東部のハルキウ州の戦線で、ロシア軍が手薄になったエリアに攻撃をかけ、同地のロシア軍を包囲して補給路を断つ作戦を成功させる。そして短期間でハルキウ州のほぼ全域の奪還に成功した。これにより、ウクライナ軍はいっきに優勢に立ち、ロシア軍は防戦に回ることになった。

ロシア軍は開戦以来の多数の死傷者で兵力が不足しており、9月21日に30万人の予備役動員を決定する。また、同30日にはロシアが東部・南部の4州の一方的な併合を宣言した。

激化するイラン反政府デモに世界は…

▽イランで反政府デモ激化

9月13日、イランの首都テヘランで、ヒジャブ(頭巾)で髪を隠しきれていなかった22歳の女性が内務省「道徳警察」に拘束され、拘置中に死亡した。このニュースがきっかけで抗議デモが各地に拡大し、自由を求める反政府運動となった。こうしたデモに対し、警察治安部隊、さらにはイスラム革命防衛隊の民兵組織「バシージ」らが暴力的に対応。実弾射撃による鎮圧も各地で起きて、多くの死傷者が出た。それでも反政府運動はその後も粘り強く続いている。

10月

▽ロシア軍、ウクライナ各地で民間施設をミサイル攻撃

主に砲兵を中心とする火力による戦闘が継続。とくに南部戦線のヘルソン州では、ドニプロ川の橋をウクライナ軍が砲撃で破壊し、優位に戦いを進めた。

10月8日にはケルチ海峡のクリミア橋がおそらくウクライナ軍の破壊工作により爆破され、片側車線が大きく損傷した。

対するロシア軍は、地上の戦いでは防戦気味だったため、巡航ミサイルや無人機によるウクライナ各地への攻撃を続け、とくに発電所などのインフラ施設を破壊した。

▽北朝鮮ミサイルが日本を飛び越える

北朝鮮は9月下旬から10月にかけて多種類のミサイル発射を連続して実行した。その多くは既存のミサイルの実戦的な訓練だったが、貯水湖発射式KN-23短距離弾道ミサイルなどもあった(9月25日発射)。10月4日に発射された火星12中距離弾道ミサイル改良型は5年ぶりに日本列島を飛び越えた。

中国の独裁体制が強化

▽中国共産党大会で習近平独裁が強化され、より対外強硬路線へ

10月中旬、中国では中国共産党大会が開催され、従来の2期10年までという総書記任期の慣例を破り、習近平が3期目に入った。台湾統一の公約では「武力行使は放棄しない」とし、強硬な姿勢をみせた。

11月

▽ウクライナが南部の都市・ヘルソンを奪還

ロシア軍がヘルソン州からの撤退に転じ、11月9日には公式にヘルソン市からの撤退を発表した。ウクライナ優勢の流れになったと言っていい。

▽北朝鮮が超大型ICBM「火星17」発射

11月3日、ICBM「火星15改良型」を発射するも失敗。続いて11月18日、火星17の発射に成功した。火星17成功は初のことである。このミサイルは米国全土を射程に収めるうえ、多弾頭化を目指しているものと推測される。

▽中国で政府批判デモが拡大

11月24日、新疆ウイグル自治区ウルムチでの火災において、厳格なロックダウンによって消防車が近づけなかったという情報が拡散し、強権的に自由を奪う長期のゼロコロナ政策に対する批判のデモが中国各地で広がった。デモはすぐに政府批判デモになり、驚くことに習近平批判の声も続出した。公安当局は力で抑えているが、不満は燻り続けることになるだろう。

12月

▽ウクライナ各地へのミサイルと無人機での攻撃が継続

ロシア軍はウクライナ各地への巡航ミサイルおよび無人機での攻撃を継続。地上での戦闘では、とくにドネツク州バフムートを中心に攻防戦が続く。なお、同戦線ではロシア側の民間軍事会社「ワグネル」が最前線に投入されている。

▽北朝鮮が新たな固体燃料型ICBM用エンジンの燃焼実験

12月15日、新型兵器開発のための高出力の固体燃料ロケット・エンジン燃焼実験を行なわれた。今後近いうちに新型の固体燃料型ICBMを開発する可能性が高い。

また同18日には、準中距離弾道ミサイルのロケットを使って軍事偵察衛星の実験機が打ち上げられた。北朝鮮は2021年1月に発表した国防5カ年計画で偵察衛星開発を公言しており、今後も進めるものとみられる。

また、同26日には、北朝鮮軍の無人機が韓国領空に侵入した。ちなみに無人機も前出・固体燃料型ICBMも、さらに前述した多弾頭ICBMもいずれも5カ年計画で開発を明言している。

▽中国軍が台湾周辺で大規模軍事演習

12月25日から翌26日にかけて、中国軍は艦艇7隻、軍用機71機を投入し、台湾周辺で大規模な軍事演習を行なった。中国側は「米国と台湾による挑発への対応」と主張している。

▽ロシアとアルメニアに軋轢

アルメニアとアゼルバイジャンが争っているナゴルノ・カラバフで、12月上旬からアゼルバイジャン側がアルメニア側への回廊を封鎖。現地に平和維持軍として駐留しているロシア軍はアゼルバイジャン側の停戦違反行為を黙認している。ロシアはもともとアルメニアの後ろ盾だったが、その役を果たしていないとアルメニア側から不満の声が高まっている。

2023年、世界はどうなるのか

以上のように、2022年はとにかくロシア軍のウクライナ侵攻という大きな事件を軸に動いてきた。

大まかに言えば、2月下旬にロシア軍が侵攻し、東部と南部で支配地を大きく広げたが、首都キーウはウクライナ軍がなんとか守り抜き、4月上旬にはロシア軍は完全に北部から撤退。その後、撤退した部隊を東部戦線に振り分け、6月から7月にかけてルハンシク州を制圧。8月末から南部戦線の戦闘が激化したが、9月にウクライナ軍が電撃的な奇襲でハルキウ州を奪還。その後、ウクライナ優位で戦局は推移した。

こうしたウクライナでの戦争の陰で、北朝鮮はミサイル発射を年間を通じて継続し、日本を射程に収める滑空ミサイル(イージス艦では撃ち落とせない)を開発。さらに多弾頭化を狙っているとみられる超大型ICBM「火星17」の発射にも成功。さらに新型の固体燃料型ICBM用のロケット・エンジンの燃焼実験も行った。まだ核実験は行っていないが、いつでもできる準備はすでに整っているものとみられる。

中国はあいかわらず軍拡を進めているが、10月の共産党大会で習近平が独裁を強化し、対外的な強硬路線をさらに確実にしている。

また、中国とイランでは強権的な政府に反対する大規模な反政府デモが発生した。

こうした状況のなか、2023年が始まった。世界では、ますます平和から遠ざかる徴候しかみえない。

  • 取材・文黒井文太郎
  • 写真AP/アフロ

黒井 文太郎

軍事ジャーナリスト

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