シンガーソングライター・小林私「曲の制作は仕事というより一種の自己研究ですね」
【Next Generation Star 最終回】「目立てばモテる」と思い高校1年でギターを手に取った 無骨な歌い方がSNSで話題
「あ、ギター忘れてきちゃいました」
ジーンズにサンダル姿で現れたシンガーソングライターの小林私(わたし)(23)。家からそのまま出てきたような自然体が、かえって人々の耳目を引く。
東京・八王子で少年時代を過ごした小林は、多摩美術大学在学中の’18年、YouTubeで弾き語り動画の配信を開始。端正な顔立ちとは裏腹の無骨な歌い口がSNS上で話題になり、総再生回数は2500万回を突破。’21年にはファーストアルバムをリリースした。
「ギターを始めたのは高校1年生の頃からです。目立てばモテると思って……。けど、モテませんでしたね。高2の時に『ゴッドタン』(テレ東)の『芸人マジ歌選手権』を観て、『誰でも曲って作っていいんだ』って思って曲を書くようになりました。音楽の影響を受けたのは、『ボカロ』を作っている人たちです」
大袈裟な言葉は使わず、等身大の歌詞が同世代のリスナーの心を掴む。
「制作は仕事というよりも一種の自己研究ですね。言葉の響きがいいから、というだけで曲を作ることもあります。『スープ』という言葉を使いたくて『スープが冷めても』と書く、とか。失恋やショックな出来事を歌詞に落とし込む人もいますけど、僕は曲を作るために不幸になっていくのはあまりいいと思わないです。曲を作る時はフラットな感情でいたい」
アコースティックギター一本の弾き語りが小林の作曲スタイルだが、アルバムにはドラムやベースなどバンドアレンジで収録されている。
「自分ではギター一本で曲が完結する魅力に希望を感じているので、バンドのアレンジはスタッフにほぼ丸投げしています。だからアコギで書いた曲が『原作』で、バンドアレンジはあくまで『二次創作』だと思っています。でも、二次創作だからこそ一人では辿り着けない領域がある。自分の作品を聞いて、驚きがあるのがいちばん嬉しいですね」
時にはゲームを手に、5時間近く生配信を行うこともある。軽妙なトークもファンのツボを突く。
「僕ってネットに『顔出し』をするかどうか狭間の世代なんですよ。上の世代はあまり顔出ししないほうがかっこよくて、下の世代は出すのが当たり前。同世代は僕みたいな人もいれば、Adoさんやyamaさんみたいに顔を隠す人もいる。僕もネットに顔なんか出さなければいいんですけど、もう出しちゃったので(笑)。
ライブは配信の延長線上で、家から出てきて『ハイ、演(や)りますよ』って感じが僕にとってはいい。その代わりライブに来てくれた人にはプレミア感を感じてもらいたくて、曲間のMCにその日あったこととかを盛り込んでいます」
CDの売り上げ枚数がアーティストの″絶対″だった時代から早幾年、次世代が気にする「数字」とは?
「僕が増えて嬉しいのは、生配信の同時接続数ですね。最初、配信を始めた時は延べ接続数で10人なんてザラでしたから。逆に、再生回数は減ってもいいと思っています。再生が急に伸びるのは『バズる』ことですけど、僕の中でバズは『炎上』と表裏一体で、瞬間的に消費されるのは怖いんです」
Profile
こばやし・わたし/1999年、東京都生まれ。多摩美術大学絵画学科油画専攻在学中の’20年に初EP『生活』をリリース。音楽活動のほか、『WEBザテレビジョン』の連載「私事ですが、」など文筆業も手がけている
「FRIDAY」2023年1月20・27日号より
- 撮影:濱﨑慎治