酒類資格を10以上持つプロが明かす「冬の家飲み」でラガービールを美味しく飲むたった2つの工夫
10個以上の酒類資格を持つ佐藤翔平氏が明かす「楽しい家飲み」のためのウンチク
夏に飲むビールは格別うまい。ビール好きならどなたでも頷いてくれるだろう。
では、「冬に飲むラガービールはもっとうまい」ということは、ご存じだろうか?
■ビールには飲む適温が存在する
そもそも、お店で飲むビールがあんなにも美味しく感じるのはなぜだろうか?仕事後の労いの一杯が身体に染み渡るから…というのもあるが、1つに『温度』が関係している。意外と知られていないが、クラフトビールをはじめビールには飲む『適温』が存在する。
例えば、私たちが普段飲むラガービールは5℃前後が望ましいとされており、これはラガービールの持つ「のどごし」「爽快感」をより楽しむのに適した温度である。温度が低いほど甘味が感じづらくなり、相対的に苦みや酸味が引き立つ。炭酸も飛びづらくなるため、シャープなラガーの味わいを長く楽しむことができるのだ。
逆に、クラフトビールに代表されるようなエールタイプのビールは7-10℃などやや高めの温度で飲む方がよく、ふくよかな香りや味わいをより感じやすくなる(アルコール度数と同じくらいの温度で飲むと覚えておくとわかりやすい)。
飲食店で提供される多くのラガービールは、ビールサーバーから5℃近くに冷やされた状態で提供される。さらに言えば、グラスも冷蔵庫などで予め冷やされているため、液体の温度が上がりづらく、飲み進めても味わいのバランスが崩れにくい。よって、大ジョッキでも最初のひと口から最後の一滴までごくごくのどを鳴らして楽しむことができる。
ラガーは冷やした方がうまい。ではそのことと「冬」に何の関係あるのか?ビールを冷やして飲むのがよいのなら、ビールもグラスも冷蔵庫や冷凍庫で冷やせば済むことではないのか?
ここでもう一つ工夫が必要なのが、「グラス」である(缶から直接飲む方もいらっしゃるし、私も否定派ではないが、ぜひグラスがある環境では注いで飲んだ方が美味しく飲めるので試していただきたい)。『ビールを注ぐ前に、流水でグラスをすすぐだけ』で格段に美味しくなるのだ。
実は、ビールを飲むときの1番の大敵は「ほこりやグラス内の傷」「油脂」である。グラスにこれらがついていると格段にビールが不味くなる。ビールは炭酸飲料であるから、栓を開けた瞬間から炭酸はどんどん抜けていく。加えて、グラスに傷やほこりがついているとそこを起点として液体内から炭酸が逃げ出していくため、炭酸が抜けるスピードも速くなり、合わせて香りも一緒に揮散することで平坦な味わいのビールになってしまう。たまにグラスの側面や底から泡の筋ができているのを見たことがあるのではなかろうか?それはキズやほこりがまだついている=グラスが汚いサインの1つでもある。

油脂はビールの泡立ちや持ちを悪くする。ビールそのものの味わいに影響するのはもちろん、『料理は見た目が8割』と言われるように、ボロボロの蟹泡よりはふっくらと純白な泡が乗っていた方が格段に飲みたくなるし、口当たりも段違いだ。よってビールにこだわりのある専門店では、提供前に水にグラスをくぐらせる(または「リンサー」というグラス内を洗浄する水が噴き出す装置を用いる)ところがほとんどである。水を通さなくともグラスがきれいであれば問題ないが、よりリスクは下げることができるのでぜひおすすめしたい。

■ビールをもっとうまくする「冬の水道水」
ここまで来て、ピンときただろうか?
・ラガービールは低い温度の方がよりその特徴を楽しめる
・注ぐ前にグラスを水ですすぐことでビールの味わいを損ねずに済む
ということは…
冬は水道水が非常に冷たいので、『30~60秒ほどグラスを水道水に当てておくだけ』で格段にビールを美味しく飲むことができるのだ!
さらに言えば、グラスに油脂がつかないよう食器用とは別の『グラス用スポンジ』でグラスを洗う(100円ショップに売っているスポンジと普段の中性洗剤で構わない)、ビールも前日から冷蔵庫で静置させておくとより温度も適温に近づき、きめ細かいプチプチとした炭酸感を味わうことができる。
また、冷凍庫でグラスを冷やしておく手もあるが、氷や霜、冷凍庫内の臭いが付くのでそのまま注ぐのはおすすめしない。夏場で水道水が冷たくない季節は、直前まで冷凍庫で冷やして置き、飲む前に流水に軽く当てるのがなおよいだろう。
この一工夫だけでビールの味わいが化けるなら、試さない手はないだろう。



取材・文・写真:佐藤翔平