「サスペリア」77年大ヒットホラー ガチのリメイクで空前の賛否
あの「決してひとりでは見ないでください」から38年! 非ホラー系トップクリエーターが結集した「再構築」は「アートテロ」「ホラーポルノ」
2019年は、映画界にとってメモリアル・イヤーとなりそうだ。世界的ヒットシリーズ「アベンジャーズ」が完結し、実写版「アラジン」、実写版ポケットモンスターの「名探偵ピカチュウ」! ハリウッド版「ゴジラ」の新作、邦画でも、あの新海誠監督の「天気の子」……大作・話題作・気になる作品群が、観客たちの時間と財布を奪いに来る。
そんなお祭り騒ぎを前に、観客“そのもの”をガチで現実から奪い去ってしまうような奇怪で強烈なトラウマ映画が日本に上陸。世界中で賛否両論を巻き起こしている狂った傑作、「サスペリア」(1月25日公開)だ。はっきり言って、2019年上半期で1番「ヤバい」映画であることは間違いない。
ん? 「サスペリア」だって……? そう、本作は「決して、ひとりでは見ないでください」の名キャッチコピーで1977年に日本公開され、興収換算で約20億円のスマッシュヒットを記録した名作イタリアンホラーのリメイク版である。
「またリメイクかよ、ネタ切れか?」なんて声もあるかもしれないが、それは早計だ。本作は、オリジナル版とはまるで別物(故に、無理に予習する必要はナシ!)。大胆にアレンジ&再構築し、スタイリッシュとグロテスクがせめぎあって観客の心を徹底的に切り刻む「アートテロ」映画へと変貌を遂げている。
名門舞踊団を訪れたダンサーが目の当たりにする、世にも恐ろしい秘密とは? レーティングはR15+となっているが、その中身は想像以上におぞましく、不穏で、トラウマ的。肉が○○○よじれる残虐シーン、カラダに紐だけ巻き付けた(ように見える)美女たちが踊り狂う悪魔的なダンスシーン……。152分全編、どこを切り取っても徹底的に「エキセントリック」だ。
それは裏返せば、他の映画では絶対に味わえない“個性”を撒き散らしているということ。恐ろしいのに目が離せない。もう見たくないと思うのに、気づくととらわれている。まさに、鑑賞料金を払って見るに値する「地獄絵図」なのだ。
「ヤバい映画」だからといって、イミフなカルト映画とは全く異なる次元にいることも声を大にして言いたい。その証拠が、製作陣。
監督は、アカデミー賞4部門にノミネート(脚色賞を受賞)された青春恋愛譚の新傑作「君の名前で僕を呼んで」のルカ・グァダニーノ。実は同監督が25年以上温めて来た念願企画で、より進化した映像センスを見せ付けつつ、前作のファンが見たら卒倒(あるいは感嘆?)するような鮮血のサバト(魔女集会)を嬉々として描いてみせる。カメラの置き所からカット割りに至るまで究極的に妖しく、一気に振り切った異質な作家性が大きな見どころだ。
さらに、結成から30年経った今もトップアーティストとして活躍を続ける神バンド「レディオヘッド」のトム・ヨークが映画音楽に初挑戦。エモーショナルな旋律が抜群に気味悪い、という計算された「映像×音の不協和音」を構築し、鮮烈なデビューを飾った。
俳優陣においても、その神々しさから「二次元女優」といわれるティルダ・スウィントンがカリスマ振付師と舞踊団の謎に迫る老人、書くとネタバレになってしまう激ヤバキャラの3役を演じ分けている。性別も年齢も全く違う3役で、言われるまでは全く気付かないレベルだ。
こうした、ホラー畑ではないトップクリエイターたちが異能をいかんなく発揮した結果、美醜が入り混じった「芸術」にまで昇華されたのである。
冒頭、上半期で1番ヤバい映画といったが、これほどの強烈なショック状態を引き起こす映画は2019年は出てこないだろう。世界中で猛烈な賛否両論を巻き起こして来た「サスペリア」、果たして日本の観客たちはどう受け止めるのか?
場内が明るくなり、劇場を後にするときには、これまでのあなたは消失している。1800円を握りしめて、異界へいってらっしゃい。
- 文:SYO
映画ライター。1987年福井県生。東京学芸大学にて映像・演劇表現について学ぶ。大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション勤務を経て映画ライターへ。現在まで、インタビュー、レビュー記事、ニュース記事、コラム、イベントレポート、推薦コメント等幅広く手がける。