享年82歳・市原悦子さん 名優が人生をかけて伝えたかったこと
女優業を通じ平和な世の中を作りたい――
’16年10月、NHKの近くで市原さんを目撃
「市原さんは昨年末まで仕事をしていましたが、周りに『もう危ないのでは』と思わせる様子は一切なかった。体調が悪くても、気丈に振る舞っていたんです」(芸能ジャーナリスト・佐々木博之氏)
1月12日、心不全のため亡くなった女優の市原悦子さん(享年82)。『まんが日本昔ばなし』(TBS系)での独特な語りや『家政婦は見た!』(テレビ朝日系)でのコミカルな演技で人気を博した。
市原さんと親交の深かった俳優の小倉一郎(67)は、彼女のお茶目な一面をこう振り返る。
「デパートでシヤチハタのハンコを見つけ、彼女は『エッ、朱肉がいらない。こんなモノができたの』と驚いて、事務所のスタッフに買ってあげたんです。でも、スタッフからは『こんなモノ、30年前からありますよ』と呆れられてました。一緒にスペインに行ったときも、パエリアのお米を食べて、『アラ、ご飯に芯があるワ』と。パエリアの米に芯があるのは当然なのに。天然なところがある方でした」
そんな市原さんだが、女優業にかけては超ストイック。監督がOKを出しても、自分が納得しなければ何度でも演技を繰り返すほど真面目だったという。
「彼女の演技にかける思いは人一倍。以前、通りがかりの劇場で大衆演劇を鑑賞したことがあったんです。すると客席にいる彼女を見つけた座長が、上演中に『市原さん! お忙しいのにありがとうございます』と大声で呼びかけた。客もみんな喜んでいるのに、市原さんは頭を下げて『申しわけございません』と謝罪。芝居を中断させたことに罪悪感を抱いたのです。市原さんの芝居に対する厳しさを垣間見た思いでした」(前出・小倉氏)
また、市原さんを語るうえで欠かせないのは、彼女の平和に向けた活動だ。
市原さんは幼少期に空襲に遭い、飢えに苦しんだ経験から、女優業のかたわら、反戦を訴えてきた。「戦争をなくすこと、世界の問題と関わることも、女優の大事な仕事」と語り、’14年には「集団的自衛権」行使の閣議決定に対して「”戦争の抑止力”とか信じられない」と怒りをあらわにした。ここ数年は反原発の運動も行うなど、「人々が平和に暮らせるように」と精力的に活動を続けていた。
人々の幸せを思いやる彼女の”真心”は、こんなエピソードにも表れている。
「芸能界では、人と別れるときに『お疲れさま』と声をかけますが、市原さんはまた会おうという気持ちを込めて、『またネ』と言う。その温かみのある言い方、声の響きが心地よくて、亡くなった今でも心に残っています」(前出・小倉氏)
女優業を通じ平和な世の中を作りたい――彼女が人生をかけて伝えたかった思いは、日本人の心に届いているだろうか。
『まんが日本昔ばなし』の収録風景
夫の故・塩見哲さんと
舞台では気迫のこもった演技
- 撮影:原一平(1枚目写真)
- 写真:アフロ(2~4枚目)