「数字があやしい」コロナ情報が溢れる今こそ読むべき本『統計でウソをつく法』のメッセージ | FRIDAYデジタル

「数字があやしい」コロナ情報が溢れる今こそ読むべき本『統計でウソをつく法』のメッセージ

「だまされないで生きる」〜医師・大脇幸志郎が読むブルーバックスの「名著」

  • Facebook シェアボタン
  • X(旧Twitter) シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン

<新型コロナが世界を席巻してから3年が経った。日常のあれこれが変化した。そして日々、感染拡大やワクチン接種、予防法について、多くの医療情報が「統計的に」解説されている。けれども…その「情報」「統計」は本当に信じるに足るものなのだろうか。

医師として医療現場で働き、国内外の論文を読み、発信を続けている大脇幸志郎氏が読む『統計でウソをつく法』。ここに、わたしたちが今こそ知っておくべきメッセージがあった。2023年必読の名著を、大脇氏が紹介するー>

コロナ禍にあふれた「医療情報」。そのほとんどが「統計」によって語られていた。数字はウソをつく。数字にだまされないためには…2023年の必読書を、気鋭の医師が紹介する
コロナ禍にあふれた「医療情報」。そのほとんどが「統計」によって語られていた。数字はウソをつく。数字にだまされないためには…2023年の必読書を、気鋭の医師が紹介する

コロナ禍に「作られた統計」数字の罠

コロナ、認知症、健康診断、体にいい食べものなどなど、健康の話題がいろいろある中で、どこにでも顔を出すのが統計です。「今日の感染者は先週と比べてXX倍に増加」とか、「認知症の患者数は年々増加を続けてXX万人に」「一生のうちにXX人に1人がXX病になる」というふうに、数字で言われると本当らしく、目の前に差し迫った問題のように思えてきます。

しかし、その数字があやしいらしい。そんな話もよく聞きます。コロナ関連の数字は3年あまりですっかり注目されなくなりました。テレビや新聞に出てくる数字はたいてい、ちょっとした細工で大きく見せることも小さく見せることもできそうです。

では、数字のウソをどうやって見抜けばいいのでしょうか? 確率とか統計は小中学校の算数・数学にも出てきますが、大人になっても覚えているのは難しいし、改めて勉強しなおすにも手が出しにくいものです。『統計でウソをつく法』という、日本では1968年(原著は1954年)に出た本が50年以上にわたって読まれている背景には、そんな事情があるのかもしれません。

50年以上前の名著が教えてくれること

この本は一般家庭向けの楽しい読み物として書かれていますが、その中で現代にも通じる数字の読みかたが易しく説明されています。著者は学者ではなく、一般家庭向けの雑誌の編集などを経験したライターです。本は小話を集めた構成になっていて、統計について気を付けるべきことをひとつひとつ、世帯収入とか大統領選挙といったわかりやすい例をつうじて説明しています。中には「シラミは健康のもとだから、みんなシラミを身につけるべきだ」といったいっけん奇妙な話も出てきます。

古い本なので、出てくる題材は古く、たとえば第1章冒頭には「1924年度のエール大学卒業生の年間平均所得は、25,111ドルである」という雑誌からの引用があります。当時の2万ドルというのが現代のどれくらいに当たるのかと思ってしまいますが、文脈から読み取ると、かなりのお金持ちに当たるようです。こうした時代の違いを補って読むのはストレスに感じられるかもしれません。

しかしだからこそ、「50年前からやってることは同じなんだなあ」という発見もあるはずです。エール大学の例は、年間所得の調査に答える人は高所得の人に偏ることなどで説明されています。いまで言うと、朝日新聞の調査に協力する人には産経新聞の読者が少ないかもしれませんし、ネット世論調査ではYouTuberの影響力が過大評価されるかもしれません。第3章に出てくる「鉄の硬度を3倍にする新しい焼き入れ剤をウェスチングハウス社が発明」という雑誌記事の文言などは、いまでも毎日SNSで拡散される「XX病のしくみに関与する物質をXX大学が発見 新薬に期待」といった見出しにそっくりです。こうしたワンパターンなまちがい(というか、同じまちがいを報道のプロが絶えず指摘されながら50年繰り返すとしたら、それは意図的と言うべきかもしれませんが)をどんな気持ちで受け取ればいいか、この本に書いてあることは大いに参考になります。

「統計のウソ」を暴く

……が、残念ながら、時代は変わりました。第5章・第6章にある誤解を招くグラフはもっと多様に、もっと高度に発達し、ニュースをにぎわせています。第7章にある「諸君のこしらえた妙薬がカゼにきくという証明ができなくても、その薬の半オンスで、11秒間に、試験管の中身の細菌を31,108個も殺すことができたという、しっかりした研究報告を大きな活字で印刷して発表することはできるのである」もまた、この3年ほど飽きるほど見てきた光景にそっくりですが、「排出されるウイルス量が減るのだからほかの人に感染させるリスクを減らすと考えられる」とか「抗体価が上がったのだから免疫力は高まっている」と説明されてしまうと、「それは論点が違います」と指摘するには相当の自信が要ります。そんなことを言う人は当然の論理がわかっていないと思われるかもしれませんから。

この本で紹介されている統計のウソは、専門用語で「サンプリングバイアス」「交絡」「代理アウトカム」などと呼ばれ、統計を日常的に使う人たちのあいだではよく知られています。しかし、そうした用語を知っている人がデータを読み違えないとも限らないのです。それほど現代の統計は見極めにくいものになっています。この本の結論にあたる第10章は「統計のウソを見破る5つのカギ」と題されていますが、このカギもいまでは錆びつき、回せないものになっています。利益相反を言えば陰謀論だと笑われ、エビデンスの質に疑問を投げかければ専門用語をたたみかけられ、常識に照らし合わせても、信じられないことがじっさいにつぎつぎと起こっています。

だまされない生き方をするために

この本の全体にわたって、わたしは「このていどのウソしかない、のどかな時代があったのだな」と思わずにいられません。現代の統計を相手にするなら、この本はあくまで入門編として、もう少し難しい本に(たとえばわたしが翻訳した『悪いがん治療』という本に)挑戦しないと太刀打ちできないでしょう。

とはいえ、みんながそんな難しい勉強をしないといけないのでしょうか?

少し発想を変えてみます。だまされない生き方のために大事なのは、ちょっとだまされることです。「だれにもだまされない、絶対に真実一路で生きていく」という考えには現実味がありません。学者だろうとなんだろうと、だれにもだまされない人はいません。むしろ、「ウソを見抜く」という考えは陰謀論と隣り合わせです。「政府やマスコミは真実を隠している」というのはトンデモ理論を唱える人が必ず口にする言葉ですね。そうならないためには、「ウソかもしれないが、とりあえず信じておき、ウソとわかったときにすばやく柔軟に態度を変える」という能力が必要です。言い換えれば、だまされることがあっても傷が浅く済むようにリスクヘッジしておくことです。

「一貫しない」こと「警戒心をもつ」こと

たとえば、新型コロナウイルスのワクチンの中でも、最近出てきたオミクロン株対応のワクチンをわたしはあまり信用していません。「あまり」というのは、古いワクチンと大きな違いがないだろう、という意味です(詳細は省きますが、この結論に至るまでに数えきれないほどの英語の論文を読み比べています)。それでもわたしはこのワクチンを打ちました。たとえ効果が小さいとしても無意味ではないだろう、重大な副作用があるとしても自分が出会ってしまうことはほとんどないだろう、と思ったからです。そして、自分の考えはまちがっているかもしれないのだから、他人に打つように強要したり、逆に打たないことを勧めたりしないよう、気をつけています。一貫しないようですが、これでいいのです。どちらかに振り切った態度はリスクが高いからです。

だからこうも言えます。『統計でウソをつく法』はいまこそ読むべき本です。そして、さらにレベルの高い本にはあえて手を出さず、「世の中にはもっと巧妙なウソもたくさんあるらしい」という警戒心を忘れないようにするのが、「だまされない生き方」に一番近いのかもしれません。

けっきょく読むべきなのか、読まなくていいのか、わからなくなりましたか? それは自分で考えてください。結論を他人に丸投げすることなく、自分で考えること。そのために知識と技術と、常識を働かせること。これこそが『統計でウソをつく法』の一番大事なメッセージです。

『統計でウソをつく法』日本版の初版は1968年。現在「102刷」が、絶賛発売中の超ロングセラーだ
『統計でウソをつく法』日本版の初版は1968年。現在「102刷」が、絶賛発売中の超ロングセラーだ

統計でウソをつく法 数式を使わない統計学入門(ブルーバックス)』ダレル・ハフ著/高木秀玄訳(1968年・講談社)

大脇幸志郎氏は「自分で考える」ことがなにより重要と言う
大脇幸志郎氏は「自分で考える」ことがなにより重要と言う

大脇幸志郎:1983年大阪生まれ。東京大学医学部卒。フリーター、出版社勤務、医療サイトのニュース編集長を経て医師に。2020年、初めての著書『「健康」から生活をまもる 最新医学と12の迷信』で、「健康業界」に大きな衝撃を与える。高齢者の訪問診療業務に携わるとともに、著作や放送を通して医療情報を発信している。2022年3月には『運動・減塩はいますぐやめるに限る!』、『医者にまかせてはいけない』の2冊を上梓。訳書に『悪いがん治療』など。配信プラットフォーム「シラス」で健康問題の解決に役立てることは目的としない大脇幸志郎のもっと不健康でいこう』を配信、最新の医学情報を紹介している。1児の父。

  • 大脇幸志郎

Photo Gallery3

FRIDAYの最新情報をGET!

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事