1975年生まれ。大学卒業後、編集プロダクション、レシピ本の出版社勤務を経て、2005年にフリーランスの記者になる。㈱柴田書店発行の飲食店経営誌「月刊食堂」の記者として15年以上にわたり、大手、中堅の外食企業や話題の繁盛店などを取材してきた。地味だけど堅実なチェーンモデルとして注目しているのは埼玉県下を中心に店舗網を拡げている「ぎょうざの満洲」

栗田 利之

<figure id="attachment_282414" aria-describedby="caption-attachment-282414" style="width: 1965px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="f93325db"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/12/de84ba15041e5f474c83e537bd5d593a.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-282414" class="wp-caption-text">海外経験豊かな本田氏からすれば、牛丼やラーメンなどのチェーン店の価格設定は安すぎるように見えるのかもしれない(写真・足立百合)</figcaption></figure>
<h2>ラーメンにいくらまで出せるか</h2>
<p>サッカー元日本代表の本田圭佑氏が<span class="strongInContent">「ラーメン屋、あの美味さで730円は安すぎる」「次ラーメン食うときは2000円支払います。必ず」</span>とTwitterで発信したことをキッカケに「ラーメン適正価格論争」が勃発した。</p>
<p>ラーメン１杯に2000円を支払えるか否か？　著名人も交えた喧々諤々の意見がネット上に飛び交っているが、ラーメンの適正価格に関して、業界全体で長年にわたって課題になっているテーマがある。それは「1000円の壁」問題だ。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>ラーメンには1000円以上出せない。この消費者心理を打ち破るのは、業界全体のある意味で「悲願」であると言える。同じ麺類でも、スパゲティチェーン「洋麺屋 五右衛門」は1000～1100円台、「鎌倉パスタ」は1200～1300円台、うどんチェーンであれば「つるとんたん」は1100～1700円台という価格帯。1000円超えはさほど珍しくないように見える。</p>
<p>個人店レベルまで見れば、さらに高単価なパスタやうどん、蕎麦などの麺類を出す店はいくらでもあるが……ラーメンは極めて少ないのだ。「全部乗せ」などトッピングを追加した商品や期間限定の商品を除くと、単価1000円を超えるラーメンの成功事例をずっと打ち出せずにいるのが現状だ。</p>
<p>その難しさを物語るエピソードして挙げられるのが、豚骨ラーメンチェーン「一風堂」のチャレンジだ。いまから遡ること16年前。一風堂は当時の二枚看板メニューであった「白丸元味」、「赤丸さかね味」に次ぐ第３のラーメンとして、税抜1300円のラーメン「極（きわみ）新味」を2007年４月に投入した。</p>
<p>経営母体の（株）力の源ホールディングスの会長であり、創業者の河原成美氏は並々ならぬ想いで極新味を開発した。「ラーメン業界のプライスリーダーを担ってきた」という自負があったからだ。</p>
<p>一風堂の創業は1985年。河原会長はインタビュー記事で<span class="strongInContent">「博多ではラーメン１杯250～300円が当たり前の時代に『一風堂』は400円からスタートした。それから500円、600円と単価を上げていくにつれて、九州のラーメン業界全体の底上げが進んできた」（柴田書店刊『プロのためのラーメン本２』）</span>と答えている。</p>
<p>一風堂は全国各地に店舗網を拡げ、博多ラーメンを全国区にした。内外装にスタイリッシュなデザインを施しているのも特色のひとつで、サービス力の強化にも力を注ぎ、従来は男性客メインだったラーメン店の客層を女性やファミリーにまで広げた。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="一風堂も越えられなかった壁"></div>
<h2>一風堂も越えられなかった壁</h2>
<p>「店舗投資や人件費の原資を得ること」が単価アップの目的で、その成功モデルを示すことがラーメン業界の発展のために必要だと考えた。単価アップのゴールラインのひとつが「1000円の壁」を打ち崩すことだった。だからこそ、他社に先駆けて単価1000円を超える極新味を定番メニューのひとつとして投入したわけだが、結果として「極新味」は２年足らずでメニューから消えてしまう。</p>
<p>調理が煩雑な商品でオペレーションの負荷が大きい、出数があまり伸びなかったなど、さまざまな要因があったが、結果的に「単価1000円を超えるラーメン」は一風堂のレギュラーメニューとして定着しなかった。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>ただ、こうした河原会長の想いは次世代のラーメン経営者にきちんと引き継がれている。そのうちのひとりがAFURI(株)の中村比呂人社長である。</p>
<p>2003年に東京・恵比寿に1号店をオープンした「AFURI」は、国内に15店を展開するほか、米国やシンガポールなど海外にも12店を出店している。看板商品である「柚子塩らーめん」の創業当初の価格は850円。５回にわたって価格改定を重ねており、2018年６月に980円から1080円に値上げして1000円の壁を超え、さらに22年10月には1180円に値上げしている。</p>
<p>中村社長は値上げの目的を「健全な給与資源の確保のため」と明確に述べており、<span class="strongInContent">「アルバイトの時給1200円がその指標ですが、正社員の待遇改善も含め、これを実現することが値づけの大原則」</span>(柴田書店刊『月刊食堂』2019年８月号)と説明している。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="「いつものラーメン店」が苦しい状況に"></div>
<h2>「いつものラーメン店」が苦しい状況に</h2>
<p>もちろん、「1000円の壁」の分厚さについては中村社長も十二分に承知していた。価格に見合う商品クオリティの磨きあげを重ねてきたのはもちろん、神奈川県西部にある阿夫利山から湧き出る水でスープを仕込むなど、食材一つひとつにストーリーを持たせて付加価値を創出。また、恵比寿、原宿、六本木、中目黒などのように、出店立地も「店を構えることが価値につながるロケーション」をセレクトしていた。</p>
<p>ブランディング戦略までしっかりと講じることによって1000円の壁を壊したわけだが、逆に言えば、そこまでしないと突き崩せないほど1000円の壁は分厚いのだ。</p>
<p>神奈川・湯河原の「らぁ麺 飯田商店」が2022年５月に主力商品の「しょうゆらぁ麺」と「しおらぁ麺」を1600円に値上げして話題を集めるなど、行列ラーメン店の中には主力商品の価格が1000円を超える事例もポツポツと登場しはじめている。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>ただ、そのいずれの店も遠方からわざわざ店に訪れる”目的客”をターゲットにしている。普段使いできるラーメン店にとっては、1000円はいまだに高い壁として立ちはだかっている。食材原価の高騰が続く中、利益や人件費を切り詰めてまで900円台以下に収めようとする店舗も出てきているだろう。</p>
<p>値上げは客にとって痛い。だが、小麦粉や油、ガス代など必需品の値上がりが顕著なラーメン店も、深刻な状況に直面している。低価格路線で勝負している店舗はなおさらだ。「国民食」のボトムが総崩れになる「暗い未来」を案ずれば、冒頭の本田氏の問題提起はかなり重要な意味を持っていると言える。</p>


栗田利之

海外経験豊かな本田氏からすれば、牛丼やラーメンなどのチェーン店の価格設定は安すぎるように見えるのかもしれない(写真・足立百合) ラーメンにいくらまで出せるか サッカー元日本代表の本田圭佑氏が「ラーメン

本田圭佑が火をつけた「適正価格論争」…果たして私たちは「ラーメンに2000円」を出せるのか

あなたへのオススメ

関連記事