二酸化炭素排出量をゼロにしても海面は上昇し続ける…「日本沈没」の可能性はどれだけあるのか | FRIDAYデジタル

二酸化炭素排出量をゼロにしても海面は上昇し続ける…「日本沈没」の可能性はどれだけあるのか

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海面上昇の原因の半分は「海水の熱膨張」

「現在、水位が上昇しているのはヒマラヤなどの山岳氷河と南極やグリーンランドの氷床が溶けたことが半分、残りは海水の熱膨張によるものと考えられています」 

こう言うのは、海洋研究開発機構の鈴木立郎さん。

小学校でも学んだ通り、水は温めると膨らむ。地球の表面に蓄積された熱エネルギーの90%は海に貯められる。温暖化によって海水が1℃上昇すると体積は0.025%膨張するのだとか。

「今は熱膨張のほうが影響を与えています。ただ、あるところまでくると、それほど膨らまなくて、それからは氷床が溶ける影響が大きくなる。しかし、今世紀中に南極やグリーンランドの氷床が全部溶けることはないでしょう。

今世紀中に溶けることはなくても、2200年、2300年以降も溶け続けます。また、2300年には海水位にして15mを超える水位上昇は否定できません」 

海面上昇により海岸線に建てられた家屋が破壊され、村人が移転を余儀なくされたメキシコのエルボスケ。世界各地で海面上昇による洪水が起きている(2022年11月6日撮影/アフロ)
海面上昇により海岸線に建てられた家屋が破壊され、村人が移転を余儀なくされたメキシコのエルボスケ。世界各地で海面上昇による洪水が起きている(2022年11月6日撮影/アフロ)

この100年で海面水位は20㎝上昇…日本も沈んでいるのか?

温暖化による海面上昇が話題になって久しい。ツバルでは海面上昇によって島民が引っ越さなければいけない事態にまで陥っている。しかし、海は地球全体を覆っているもの。ツバルだけが沈むというのは不自然だ。日本も沈んでいるのか?

「全地球的に、産業革命前と比べて、気温は約2℃上昇し、海面水位は約20㎝上昇しています。もちろん、日本も例外ではありません」

日本の海面も上がっているのか、実感はないけれど。

「もともと日本付近の水位は季節変動が大きいですし、潮汐の変化もある。そのため20㎝ほど上昇しても気がつかないのだと思います。何も対策をとらなければ、今世紀末にはかなりたいへんなことになる可能性が高い。ツバルだけでなく、日本も安全ではありません」

全地球的に水位が上がっているのに、日本は気がつかないほど。なぜツバルはたいへんなことになっているのか。

「おそらくインフラが弱いのではないかと思います。日本だったら堤防を高くするなどの対策がとれますが、経済的にそのようなことができない国もある。ツバル以外にも影響を受けている地域はあると思います」 

青線は2050年までにCO2排出量をゼロにした場合、赤線は何もしなかった場合に、水位上昇を示したもの(出典:IPCC第6次評価報告書第1作業部会報告書「よくある質問と回答」暫定訳〈文部科学省及び気象庁〉より、図FAQ 9.2を転載)
青線は2050年までにCO2排出量をゼロにした場合、赤線は何もしなかった場合に、水位上昇を示したもの(出典:IPCC第6次評価報告書第1作業部会報告書「よくある質問と回答」暫定訳〈文部科学省及び気象庁〉より、図FAQ 9.2を転載)

世界中で洪水が頻発する恐れも…

実は日本も影響をまったく受けていないこともないのだとか。

「たとえば高潮などで湾の中に水がたくさん入ってくると、川が海に流れなくなり、上流のほうまで影響して、排水できなくなって洪水を起こすこともあります。海面水位が上昇すると、ベースの水位が上昇して、これまでは排水できていたところも排水できなくなり、洪水になることが考えられます」 

2021年9月に大型ハリケーンがニューヨークを襲い、地下鉄のホームに濁流が押し寄せたことがあったが、あれも海面が上昇したことが影響しているというのだ。日本も最近台風によって洪水が起きることが増えているが、沿岸部で洪水が起こったときは、海面上昇の影響と考えられるという。

「東日本大震災のときには、30㎝ほどの地盤沈下が起きて、下水や排水といった都市インフラが寸断され、大きな問題になりました。海面上昇によって、それと同じことが世界的規模で発生する恐れがあります」

もっとも高いところで海面から4.5mという、サンゴ礁と環礁で形成されているツバル共和国。海面上昇の影響で数十年後には沈没してしまう可能性があるといわれている
もっとも高いところで海面から4.5mという、サンゴ礁と環礁で形成されているツバル共和国。海面上昇の影響で数十年後には沈没してしまう可能性があるといわれている

CO2排出量をゼロにしても2100年には海面水位は50㎝、このままだと1.1m上昇! 

今、2050年までに二酸化炭素排出量をゼロにしようと世界的に動き出している。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の研究によると、このまま何もしないでいると、2100年には気温は4℃上昇し、海面水位は最大1.1m上昇。2300年には15m上昇する可能性も排除できないそうだ。

どのくらい海面水位が上昇するか予測に幅があるのは、氷床が溶けるメカニズムが複雑だからだとか。 

「氷河は流れています。流れる速度が変わったり、複雑なメカニズムがあって、それが解明されていないんです。だから、1℃上がると、どれだけ溶けるかわかっていない。そのために予測の幅が大きくなってしまうんです」 

ボリビア高地にあるワイナポトシ氷河。ヒマラヤ山脈からアンデス山脈に至るまで急速に溶ける氷河は、海面上昇の要因となっているだけでなく、水力発電や飲料水にもリスクをもたらすと懸念されている(2009年11月7日撮影)
ボリビア高地にあるワイナポトシ氷河。ヒマラヤ山脈からアンデス山脈に至るまで急速に溶ける氷河は、海面上昇の要因となっているだけでなく、水力発電や飲料水にもリスクをもたらすと懸念されている(2009年11月7日撮影)

いずれにせよ、このままではいけないことは確かだ。がんばって二酸化炭素排出量を抑えなくてはいけない。

「極力努力して、気温上昇を2℃に抑えたとしても、海面水位は上昇し続けてしまう。というのは、これまで気温が上昇したことによって、海水は温まり続け熱膨張し、加えて氷床が溶け続けてしまうからなのです」

なんと、たとえ二酸化炭素排出量をゼロにしても、海面は上昇し続け、2100年には海面水位は50㎝上昇するというのだ。海面上昇を止めるためには気温を現在より下げるしかないという。いつか日本は沈んでしまうのか?

「50㎝上昇しても、沈むことはないと思いますが、水位のベースが上がることで、今まで1mほどだった高潮が1.5mになるかもしれない。100年に一度の高潮が、全潮位計設置場所の半数以上で、2100年までには少なくとも年1回発生するという警告も出されています。また、強い台風の割合が増加し、洪水被害が増えることも考えられる。最悪の場合を想定すると、かなりたいへんです」

どうすればいいのか? 

「まず二酸化炭素排出量を減らすこと。化石燃料を使わなくなれば、かなり減っていくと思います。そして、堤防を高くするなどインフラの整備をしっかり行う。できることを一つ一つやっていくしかないと思います」

鈴木立郎 国立研究開発法人海洋研究開発機構 地球環境部門所属。専門は海洋物理学・気候学。海洋大循環モデルや気候モデルの開発、気候変動、海面水上昇に関する研究を行っている。

  • 取材・文中川いづみ写真アフロ

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