「注射1本でがん消滅」の治療がうけられるニッポンの病院はここだ

米国でがんを消した新たな免疫療法、“中村祐輔メソッド”の治験が日本でも始まろうとしている  取材・構成:青木直美(医療ジャーナリスト)

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「がん研」研究室で語る中村医師。遺伝子解析を行うシーケンサー(右の機械)は劇的に小型化された

今年6月、国際学術誌『ネイチャーメディシン』に米国立がん研究所(NCI)の研究者が発表した、ある論文に世界中から注目が集まっている。

その論文には、乳がん患者に見つかった複数の肝転移などが半年で50%に縮小、そして1年後には完全に消滅し、そのまま2年が経過しているという、驚くべき治療法が紹介されている。

がん治療は日々進歩しているが、再発したがんの治療は現在でも難しい側面がある。そんな中でも有効な治療法こそが、本誌前号にて紹介した「がん研究会がんプレシジョン医療研究センター」所長・中村祐輔医師(65)が研究を進める、”新たな免疫療法”なのだ。

冒頭の患者は、乳がんを患っていた49歳の米国人女性。乳がんの初回治療後、良好な状態が続いていたが、しばらくして再発が見つかった。肝臓や胸膜に複数、数㎝径の腫瘍が多数あり、いくつかの抗がん剤治療やホルモン療法を受けたが、最終的にはがんの増大を抑えることができなかった。そんな状況の中、前出の”新たな免疫療法”(免疫チェックポイント阻害剤『キイトルーダ』と併用)を用いた治療を行ったところ、がんが完全に消滅し、2年間、再発なしという劇的な変化が現れたのだ。

治療の責任者でNCI外科部長のスティーブン・ローゼンバーグ医師は、「『キイトルーダ』による影響を評価したところ、それ自体は治療効果にあまり寄与していないという判断に至った」と語っている。つまり、現状では、腫瘍に存在していた免疫細胞を利用する療法だけの効果で、がんがすべて画像上から消えたことになるのだ。さらにNCIのローゼンバーグ医師は、この患者の他にも、「結腸がんや胆管がんで腫瘍に存在していた特殊なリンパ球を投与した2名の患者の腫瘍が縮小した」と報告をしている。

がん細胞の中には、がんを「敵」とみなしてがん細胞を攻撃するリンパ球が存在している。患者のがん細胞を調べてリンパ球を活性化するワクチンを投与したり、このようなリンパ球を人工的に作って注射で投与すれば、がん細胞を消滅できる可能性がある。これは「もう治療法はない」と宣告を受けた患者にとって、新たな希望となる方法になることだろう。まさに、「手術なし、注射でがんが消える」時代が到来しようとしているのだ。

発信元の『ネイチャーメディシン』は、最先端研究に特化した国際学術誌。世界中の医学者が投稿してきた論文は精査され、基準を満たすものだけが掲載される。この論文が採択されたことは、「がん細胞の中に、がんを攻撃する性質を持つリンパ球がたしかに存在する」という事実が証明されたことを意味している。中村医師は、次のように語る。

「たとえ1例であっても、この論文によって、がん細胞に存在している目印を見つけて攻撃するリンパ球ががん組織の中に存在すると立証されたことに大きな意味があります。それに、このような報告があれば、ゲノム医療は『たまたまよく効いた』で終わらせることなく、なぜよく効いたのか、どうすればすべての患者さんに同様の効果を出せるようになるのか、遺伝子解析という見地から科学的に分析することができます。この新しい免疫療法は、患者さん自身が持つ免疫をさらに活性化してがん細胞を攻撃するため、形勢が逆転するまでに一定の時間がかかります。投与から半年後に大きな変化が現れたのはそのためです。それが様々な免疫療法の特徴とも言えます」

この女性には、がん組織に存在した「がん細胞を攻撃する」特殊なリンパ球を体外で増やして治療に利用された。前号で紹介した通り、日本ではこのようながん細胞の特徴を見つけて攻撃するリンパ球を人工的に作り出す技術も確立されており、かつて中村医師が行った動物実験ではネズミにできた1cmのがん細胞が綺麗に消えている。

「1cmというと小さく感じるかもしれませんが、人間に置き換えるとちょうど肝臓くらいの大きさに相当します。それくらいがんが大きくなっても、理論的には完全に叩ける可能性があるということ。この論文もそれを示しています」

実は、米国女性の例だけではなく、すでに日本国内でも遺伝子情報に基づく新たな免疫治療を受けられる整備が始まっている(保険が適用されない自由診療)。

こうした治療が行えるようになったのは、中村医師が’80年代から遺伝子研究に携わり、’03年にヒトの全遺伝情報が解明され、がん細胞の遺伝子変異まで詳しく調べられるようになったことが大きい。

20世紀の頃、遺伝子解析に用いられるコンピュータは研究室が埋まるほどの巨大な機械だったが、現在はデスクトップ型のパソコンと変わらないサイズまで小型化され(1枚目写真)、解析スピードも精度も、格段に上がってきている。

「一人のゲノムを解析するために、当初は十数年で3000億円かかっていたのが、この17年間でシーケンス(遺伝子解析)にかかる時間やコストは、時間が50万分の1、価格が100万分の1になりました。こんなに早く患者さん個人の遺伝子変異を解析して治療に役立てることが可能になるとは思いませんでした。このスピードは想像以上です」(中村医師)

では、ゲノム医療が進むと、今後、どのような変化が起きるのか。

たとえば、現在、がんの確定診断には、「生検」が必要(患者の身体に大きな負担がかかる)だが、すでに患者の血液から遺伝子変異を調べるだけでがんがわかる方法が開発されているのだ。これは「リキッドバイオプシー」と呼ばれるもので、世界中でその応用が進められているところだ(3・4枚目)。

また、2度目の「がん診断」を受けたとしよう。病理診断だけでは、がん再発なのか、新たな別のがんができたのか判断がつかないことが少なくない。再発したがんなのか、新たに発生したがんなのか。同じがんでも治療方法は大きく異なる。それも、がん細胞の遺伝子変異を調べれば、明確にわかる。

そして冒頭の米国人女性のケースのように、治療の場でもこれまでの常識がひっくり返ることが起きてくる。

「一般的に、遺伝子変異の数が多いがんは進行も早く、難治性だと考えられていた。しかし、新しい免疫療法では、遺伝子変異が多いがんのほうが、がんを攻撃する目印が多くあり、効果が現れやすい。つまり、新しい免疫療法に限って言えば、難治性と言われるがんのほうが、高い治療効果を期待できるのです」(同前)

いま、中村医師のもとで治験の準備が急ピッチで進められているが、この新たな免疫療法の相談に応じてもらえるクリニックが複数ある。中村医師が信頼し、協力している2施設を下記にまとめた。

また、免疫療法の”治験”を行っている医療機関も増えてきた。がん治験のリサーチ方法も下記にまとめたので、参考にしてほしい。

中村医師の生み出したワクチン療法と、日々進化し続けるゲノム解析。これらによって、がん治療は確実に新たな時代へと突入しているのだ。

先週号で話題を呼んだ、がんが消滅する決定的瞬間。リンパ球ががん細胞を「敵」とみなして一斉に包囲。総攻撃をしかけ、すべてのがん細胞が消えていくのがわかる

研究室では血液でがんを見つける「リキッドバイオプシー」の臨床応用も進む

研究に使用するための遺伝子は常時マイナス80℃以下で保存されている

全国民必読!ここが「がん消滅」の治療がうけられる病院だ

大阪がん免疫化学療法クリニック

総院長:武田 力 医師

大阪府大阪市北区

大阪初の総合的ながん免疫療法センターである「大阪がんクリニック」内に設置された自由診療部門。数ある「免疫療法」の中から患者の病態にあわせて最も適した方法を選択。免疫療法と「少量の抗がん剤」「免疫チェックポイント阻害剤」「分子標的薬」などを組み合わせることもある。治療は、がん治療を熟知した「認定医・専門医」が施術。個人的な病状や治療法の相談は、セカンドオピニオンや個別面談(家族のみでも可)で受け付けている

福岡がん総合クリニック

院長:森崎 隆 医師

福岡県福岡市博多区

完全予約制のがん免疫療法専門施設。培養技術者を置き、無菌培養室を併設。患者の病状に応じた免疫細胞療法の治療計画から細胞の培養管理、治療に至るまでを森崎院長が一貫して行っている。治療は、数種類の「免疫細胞療法」(必要に応じて患者のさまざまな免疫細胞を取り出し、がんの病態に合わせて加工後、最適な部位に投与)と、保険適応外の薬剤(保険外の抗がん剤、個人輸入が可能な分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤など)を使用する「化学療法」の2本柱。対象となるがんは、HPで確認を。がん診療に関する相談やセカンドオピニオンも受け付けている。手術を終えた後の再発予防として考えている場合は、術前に相談が必要となる

末期がんでもあきらめないで!
あなたも「がん治験」が受けられる

中村医師が研究を進める”免疫療法”を一般の患者がすべて受けられるまでには、もう少し時間がかかる。しかし、様々な免疫療法の研究開発は他施設でも行われている。ここでは現在参加できる臨床試験(治験)の検索方法を紹介しよう。

まずは国立がん研究センターの『がん情報サービス 一般の方向けサイト』を見ていただきたい。トップページの真ん中にある「おすすめページ」箇所の左下、「がんの臨床試験を探す」というアイコンをクリックすると、検索の画面に切り替わる。

そこで調べたいがんの種類、住んでいる地域、患者の年齢を選んで「検索する」をクリックすれば、対象となる臨床試験の一覧が出てくるのだ。この「検索する」という表記左上の「詳細検索へ」をクリックすると、さらに細かい条件での検索が可能だ。

たとえば、東京に住む進行食道がんの人が薬剤やがんワクチンの治験を受けられるか調べる場合、「食道がん」と「関東」をチェック(遠くても構わないという人は、対象地域を広げてもいいだろう)。さらに「試験の種類」の「介入の目的」は「治療・ケア」を、「介入の種類」は「医薬品」「ワクチン」「遺伝子」をチェックすれば、参加者を募集している臨床試験が表示される。

検索結果の表示内容は専門家向けで一般の人には難解なものもあるが、「実施責任組織」の病院名をクリックすると、そこから詳しい臨床試験の内容に飛べる。もしわからない場合は、グーグルなどの検索サイトで「進行食道がん」「治験」「実施責任組織(病院名)」を検索ワードにして再検索すれば、その病院の臨床試験の説明ページにたどり着けるはずだ。

一般的に臨床試験は自身の主治医を通して申し込む仕組みになっているが、患者の症例が募集要項の条件に合えば、無料で受けることができる。もし、”免疫療法”に関心を持ったのであれば、躊躇(ちゅうちょ)なく主治医に相談するべきだろう。

サイト内には、臨床試験の基礎知識などを確認できるページも。がん情報サービスHPより

撮影:浜村菜月(1〜4枚目)

 

Photo Gallary5

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