深刻なフードロス事情の救世主になるか…現場ルポ「廃棄食品の山が飼料に再生されるまで」
’21年の東京五輪では弁当約30万食を処分 毎日10トントラック約1430台分の食物が捨てられている
コンテナから大量の食品が流し出される。まだ食べることができるのに捨てられた「廃棄食品の山」だ。神奈川県相模原市にある食品リサイクル会社『日本フードエコロジーセンター』は、深刻な食品ロス事情の救世主となりうる画期的な「再生活動」を続けている――。
食品ロスの問題は、けっして他人事ではない。大量の食品が廃棄されるだけでなく、我々の生活を圧迫しているからだ。フードシステム論が専門で、日本女子大教授の小林富雄氏が解説する。
「’20年度の食品ロスは522万トンにのぼります。国民一人あたりに換算すると、年間42㎏になるんです。経済的な損失も大きい。廃棄食品を自治体などが焼却処理する際のコストは、単純計算で約2500億円になります。原資は税金。国民一人あたり年間2000円以上払って、食べられる食品を捨てているんです」
「規格制度」と「3分の1ルール」

日本では、毎日10トントラックで約1430台分の食物を廃棄していることになる。なぜ、これほどの無駄が起きるのだろうか。小林氏が続ける。
「様々な要因がありますが、一つは厳格な『規格制度』です。野菜や果物は卸売市場に出す際、それぞれ規格が決まっている。キズがあったり形がおかしいと、規格に満たないとして廃棄されるんです。
食品業界の慣例も影響が大きい。代表的なのが『3分の1ルール』です。例えば製造日から賞味期限まで3ヵ月あるとすると、3分の1にあたる1ヵ月が経つと納品期限となり店に出荷できなくなります。さらに3分の2となる2ヵ月が経つと、店頭で売れ残った食品はメーカーに返品され捨てられてしまうんです」
食品ロスはスポーツの祭典でも起きていた。昨年12月に会計検査院が発表した報告書では、’21年の東京五輪・パラリンピック大会でスタッフらに提供された弁当約160万食のうち、2割ほどの30万食が食べられずに処分されたという。
こうした現状を打破しようと廃棄食品の再利用をしているのが、冒頭で紹介した『日本フードエコロジーセンター』だ。社長の高橋巧一氏が語る。
「食べられる食品を税金まで払って捨てる無駄を解消しようと、リサイクルのループを作ったんです。まず、食品関連業者から廃棄食品を搬入します。それを破砕機(はさいき)でペースト状にし殺菌、発酵処理を経て、飼料として養豚農家へ納める。低コストで栄養価の高い飼料を食べた豚の肉を、再び食品業者へ送る仕組みです」
同社の活動は他にもメリットがある。
「ウクライナ侵攻や新型コロナの影響で、穀物の価格が高騰しています。わざわざ海外の高価な穀物を購入し飼料を作るより効率的でしょう」(高橋氏)
再利用の試みは、小売店にも広がりつつある。安く仕入れられる「規格外野菜」を販売するのは、東京都渋谷区で『代官山青果店』を経営する色川裕哉氏だ。
「規格外野菜の詰め放題サービスなどをしています。基本価格は300円。野菜にもいろいろな形があり個性があると、子供たちも大喜びです」
形が悪くてもキズがあっても味は同じ。食品も持続可能な活用ができるのだ。

『FRIDAY』2023年2月3日号より
撮影:小松寛之