初代『マネーの虎』出演者・飲食の虎 安田久が語り尽くした「虎になった男」その後の人生
番組に出演し絶頂期を迎えるもやがて番組は終了、自身の会社も破産して一文無しに…… リアリティ番組『令和の虎』が流行っている今だからこそ聞きたい
「正直、『令和の虎』は本家本元の『マネーの虎』には遠く及ばないかな。あの熱量はなかなか生まれないですよ」
そう語るのは、’00年代初頭に放送された伝説のリアリティ番組『マネーの虎』で人気を博した安田久氏(60)だ。「飲食の虎」として安田氏は、ときに志願者をぶった切り、ときに虎同士で激論を交わした。当時の熱気を安田氏が振り返る。
「虎は40~50人ほどいたと思いますが、みんな少しでも長く出たいから必死。『なんでんかんでん』の川原(ひろし)さんや自動車輸入会社社長の南原(竜樹)さんは前へ、前へと喋りまくっていたけどほぼカット(笑)。私は前半を抑えて、後半に専門用語などを使い畳み掛けるスタイルでした。虎も志願者も爪痕を残そうと、ギラギラしていました。だからこそ予定調和では出せない面白さがあった」
番組出演後、自身が携わるレストランの売り上げは爆発的に伸び、講演の依頼もひっきりなしに入った。だが、そんな″良い時代″は長く続かなかった。’04年に番組が終了、その後のリーマンショックや東日本大震災の影響で、安田氏の会社は’11年に破産。一気に財産を失った。
「上場してビジネス拡大を目指していたんですが、それがコケて家族以外のすべてが一気に去っていった。車や時計など、現金化できるものは全部したけど、それでも全然足りない。債権者の方に追われ、街を歩く人々も自分を追っているように見えてきて……。顔を隠すため帽子を常に被るようになったのもこの頃から。子供がいじめられないか、家族が生活できるのか、常に不安だった。ただ、自己破産はせず、家族の生活水準は守る、という意地だけは持っていましたね」
その後、外食産業の仲間の助けもあり、安田氏の事業は少しずつ上向き、経営するコンサルタント会社「外食虎塾」は年商3億円を売り上げるまでに成長した。かつてのような大きなビジネスではなくなったが、「それでも今のほうが生き生きした毎日を送っている」と安田氏は語る。
講演活動も再開しているが、番組終了から20年近く経った今も『マネーの虎』の知名度は抜群だという。
「特にウケがいいテーマは、『失敗』についてですね。番組に出て得をしたこともありますが、注目される辛さも私の場合はあった。当時の虎にも同じような苦労をした人がいるんじゃないかな。不思議なことに当時大嫌いだった川原さんや南原さんが、今は一番仲が良いんです(笑)」
『令和の虎』が流行っている今だからこそ、元祖・虎のその後の人生はしみじみと胸に響いた。

『FRIDAY』2023年2月17日号より
PHOTO:小川内孝行