コンビニ成人誌の販売中止で、日本のサブカル文化がピンチ!?

指南役のエンタメのミカタ 第10回

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成人誌の取り扱いを続ける方針だったファミリーマートは、1月22日に突如前言を撤回し、発売休止を発表

それは、先週の今日のことだった。

コンビニエンスストアの業界1位のセブンイレブンと同3位のローソンが、そろって成人向け雑誌(以下、成人誌)の販売を今年8月末までに原則中止すると表明した。背景に、ラグビーワールドカップや東京オリンピック、大阪万博など、これまで以上に訪日外国人の増加が見込まれ、女性や家族、高齢者も含めて、より幅広い層に快適にコンビニを利用してもらいたいとの思惑があるという。

一方、業界2位のファミリーマートは、問い合わせに「成人誌の取り扱いをやめる方針はありません」と返答した。ところが――

一夜明けて、翌日に一転、ファミリーマートも「今年8月末までに成人誌の取り扱いを中止します」と前言を撤回する。一体、一日で何があった?

容易に想像できるが、SNS界隈を中心とする猛烈なバッシングだ。いわゆる意識高い系の人たちや女性層を中心に、同社への罵詈雑言の乱れ撃ち。中には「いや、その批判は曲解し過ぎじゃね?」と言いたくなるような酷いものまで。仕舞いには、ファミマの不買運動に発展しそうな勢いで、そうなると1万7,000もの店舗を構える大手コンビニチェーンとしては、もはや折れざるを得ない。

そんな次第で、コンビニ大手三社と、既に昨年1月をもって成人誌の取り扱いをやめた業界4位のミニストップも併せて、全国約5万店ものコンビニからこの夏、成人誌が一斉に姿を消す。なんだか右向け右で、業界が揃いも揃って同じ方角を向くのはちょっと怖い。個人的には、清く正しく美しい社会というのは、息苦しくてあまり好きじゃない。

そもそも、外国人や女性、高齢者が利用しやすい店作りというが、その三者が成人誌を買わない前提で話が進んでいるのが気になる。外国人の中にも成人男性はいるし、最近は女性だってAV女優の握手会に参加する時代だ。高齢者に至っては、ぶっちゃけコンビニの成人誌の主要なお客さんでもある。

今回、ネットの反応を見ると、大体、販売中止に賛成している人たちの意見はこんな感じに集約される。

「子供も出入りするコンビニで、18禁の成人誌が堂々と売られているのは、欧米ではありえない。先進国で日本くらいだ。恥ずかしい!」

――これ、実は二つほど誤解が入ってるんですね。

まず、コンビニで売られている成人誌は、「18禁」でもなんでもないんです。

いわゆる成人誌は大きく3つに分類され、1つは都道府県の青少年育成条例などが指定する「有害図書」。これは、18歳未満は購入できず、コンビニでも扱えない。

2つ目が「表示図書」。有害図書ではないが、出版社側の判断で「18禁」とされ、表紙に「成年向け」と表示が入ったもの。文字通り18歳未満は購入できない。これもコンビニでは扱われず、書店でも成人コーナーのみで販売される。

そして3つ目――「類似図書」。法的には18歳未満でも購入できるが、出版社側の自主規制で青いシールで閉じられ、18歳以上の購入が推奨される(表記はない)。現在、コンビニで扱われる成人誌がこれ。一般誌と分けてゾーニングされている。

つまり――そもそもコンビニで「18禁の成人誌」は売られておらず、置かれている成人誌を18歳未満が購入しても、法的には何ら問題ない。

次に、欧米では成人誌をコンビニで見かけないとする指摘――。

これも、ぶっちゃけ厳しいのはアメリカくらいで、それも州によって扱いが異なるんですね。例えば、ニューヨークやボストンなどのコンビニではプレイボーイやペントハウスを見かけないけど、ハワイのコンビニには普通に置いてあるという具合。

一方、ヨーロッパは全体に成人誌の扱いがユルい。ドイツのコンビニでは普通に成人誌を見かけるし(日本以上だ)、イギリスやフランスはそもそもコンビニがない。代わりに、ニューススタンドやキオスクが発達しており、そこでは新聞や他の雑誌と一緒に、普通に成人誌も売られている。

つまり――ひとくくりに「欧米」と言っても、対応はバラバラである。そもそも欧米では雑誌(月刊誌)は定期購読されるのが主流で、店頭で買う習慣はあまりない。そこで、“外圧”に弱い日本人の習性につけ込んで、自分たちに都合のいい情報のみをピックアップして、それをあたかも欧米全体のルールのように印象付けるのは――あまりフェアじゃない。

え? そうは言っても、コンビニの成人誌なんて大して売れてないんだから、やめてもいいだろうって?

確かに、大して売れていない。ただ、全然売れてないワケでもない。先にも書いた通り、コンビニの成人誌の主要なお客さんは高齢者である。実際、コンビニの成人誌は熟女・人妻ものが多い。ネットやスマホでいくらでも過激なものが見られる時代に、それら成人誌が売れるただ一つの理由――ネットやスマホに疎い高齢者が買っているからである。

今や、コンビニは好むと好まざるとに関わらず、社会インフラ化している。昨年の北海道地震でも改めてその重要性が認識された。もはや僕らはコンビニなしでは生きていけない。ならば、高齢者のエッチなニーズを満たしてあげるのも、それはそれで社会インフラとしてのコンビニの立派な役目じゃないだろうか。

更に言えば、パソコンを持たない女性が、スマホじゃ画面が小さいと、グラビア目的で成人誌を購入するケースがあってもいいと思う。そもそも女性だって男性同様、エロに興味がある。そしてエッチであることは、少しも恥ずべきことじゃない。人としてごく普通の感情だ。

外国人だって、日本観光のついでに、日本の成人誌をお土産に買いたい人たちもいるだろう。忘れちゃいけないのは、日本は海外からサブカル大国と崇められていること。マンガ・アニメ・ゲーム・アイドル・コスプレ――etc 「グラビア」一つとっても相当クオリティが高い。はっきり言って、日本の成人誌のグラビアと、欧米諸国のそれを比べたら、天と地だ。欧米のそっち系のグラビアはとにかくハードで、ストレートで、あけっぴろげ。それに対して、日本のグラビアはソフトで、物語性があり、隠すことで逆にエロティシズムを表現する。サブカル大国の本領発揮だ。外国人が憧れ、欲しがるのはごく自然な流れだろう。

え? それでも興味ない人たちにとって、あの表紙が並んでるだけでも苦痛だって?

いや、コンビニの成人誌を発行する出版社側だって、何も対策を講じてないワケじゃない。この数年――表紙における胸の露出は避け、お尻でセクシーさを表現するようになったり(おかげで美尻のモデルが急増した)、文字で内容を表現するようにしたり(結果、コピーの精度が上がった)――現状、そこまで過激な表紙はない。ネットの記事などに使われる写真は数年前のものだったりして、なんだったら直接あなたの目で近所のコンビニで確認してほしい。

そもそも、成人誌が子供の目に触れると毒だというが――エロが子供にとって害悪とする風潮自体がどうだろう。かの手塚治虫だって、藤子・F・不二雄だって、宮崎駿だって、作品の中によくエッチなシーンが登場する。エロはクリエイターにとって創作における一種の潤滑油なのだ。そして子供たちはそれらを目にして、ちょっと喜ぶ。なに、エロと言ってもソフトで可愛い描写である。欧米みたいなハードコアじゃない。

僕は、コンビニの成人誌に代表される、いわゆる日本独自のエロ文化――ソフトで、物語性があり、隠すことで逆にエロティシズムを表現するようなサブカルの世界観は、できることなら守りたい。なんでもかんでもグローバルスタンダードを当てはめるのはどうかと思う。そして――ここからが大事なことだけど、日本のサブカル文化をこれまで支えてきたのは雑誌なんですね。最盛期に比べて売上が半分以下に激減した雑誌だけど、それでも今なお、日本は世界に冠たる雑誌大国であり、個々の雑誌のクオリティは世界一と言っていい。

日本の雑誌文化を育てたのは、世界でも珍しい日本独自の出版取次システムである。それは「再販制度」と「委託販売制度」の2本柱であり、全国津々浦々の書店やコンビニには毎日、十数種類もの雑誌が配本され、それらは一定期間並べられ、売れなければ返品される。書店やコンビニは売り場を提供するだけで、ノーリスクで商売できる。結果、巨大な雑誌市場が形成され、日本のサブカル文化を育てた。一方、外国では雑誌の仕入れは買取りが基本で、大量に仕入れることはない。結果、雑誌の市場もそれほど大きくない。

そう、今後、成人誌の規制を皮切りに、コンビニで扱う雑誌が続々と縮小されるような非常事態になれば――日本の出版取次システムは早晩崩壊しかねない。何せコンビニの数は5万で、書店は1万。雑誌の命運のカギを握るのは、もはやコンビニなのだ。

今回のコンビニにおける成人誌の取り扱い中止が、後から振り返って、日本のサブカル文化を衰退させた分岐点と言われない保証は、どこにもないのである。

  • 草場滋(くさば・しげる)

    メディアプランナー。「指南役」代表。1998年「フジテレビ・バラエティプランナー大賞」グランプリ。現在、日経エンタテインメント!に「テレビ証券」、日経MJに「CM裏表」ほか連載多数。ホイチョイ・プロダクションズのブレーンも務める。代表作に、テレビ番組「逃走中」(フジテレビ)の企画原案、映画「バブルへGO!」(馬場康夫監督)の原作協力など。主な著書に、『テレビは余命7年』(大和書房)、『「朝ドラ」一人勝ちの法則』(光文社)、『情報は集めるな!」(マガジンハウス)、『「考え方」の考え方』(大和書房)、『キミがこの本を買ったワケ』(扶桑社)、『タイムウォーカー~時間旅行代理店』(ダイヤモンド社)、『幻の1940年計画』(アスペクト)、『買う5秒前』(宣伝会議)、『絶滅企業に学べ!』(大和書房)などがある

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