金正恩の最終計画「核実験」実現へ…北朝鮮軍事パレードに世界が瞠目した2つの理由 | FRIDAYデジタル

金正恩の最終計画「核実験」実現へ…北朝鮮軍事パレードに世界が瞠目した2つの理由

軍事ジャーナリスト黒井文太郎レポート

新型ミサイルの開発によって、核実験への道が拓かれた。北朝鮮が目論む「恐怖のシナリオ」とは
新型ミサイルの開発によって、核実験への道が拓かれた。北朝鮮が目論む「恐怖のシナリオ」とは

2月8日夜、軍創建75周年記念日の軍事パレードを行った北朝鮮。このパレードによって2点、軍事的に大きく注目すべきことが明らかになった。

1つ目は、2022年11月に発射実験に成功した大型ICBM「火星17」が、少なくとも10基以上、登場したことである。

これが意味するのは、このミサイルを載せる11軸22輪もの巨大な「自走発射機(TEL)」が、少なくとも「10台はある」ということ。この超大型TELを作るのは、技術的にかなり難しい。しかし今、北朝鮮はその量産能力を独自に獲得したことがうかがえる。となれば、北朝鮮はさらに増産して、近い将来、多数のTELを持てるだろう。

これだけでも、北朝鮮の脅威は「かなり増した」といえる。このTELを使って一斉に数多くのICBMが発射されれば、米軍といえども迎撃は難しくなる。北朝鮮の対米核攻撃力が一段と強化されるのだ。

発射までの準備を大幅に短縮

さらに注目されるもう1点は、これまでまったく知られていなかった新型のICBMの存在。今回のパレードで、初めて披露されたのだ。

この新型ミサイルは、そのサイズから3段式の固体燃料型ICBMと思われる。発射機(TEL)は9軸18輪のもので、「火星17」より小型のICBM「火星15」のTELと同等の大きさだ。

火星17や火星15などの液体燃料型ミサイルを実戦で使用する場合、原則的には地下施設から出して発射地点に移動した後、ミサイル本体を直立させてから燃料を注入して発射する。液体燃料は腐食性があることに加え、注入後に強い振動を与えると故障する懸念があるためだ。

その燃料注入作業には、数十分を要する。急に発射することはできないのだ。一方、固体燃料型は初めから燃料がセットされているから、すぐに発射できる。実戦を想定した場合、ICBMを発射しようという時は、北朝鮮全土が米韓軍の猛烈な爆撃下にあるだろう。そのような状況では、即時発射が可能な固体燃料型のほうが、発見・破壊されるリスクが低く、格段に有効だ。そのため北朝鮮にとっては、固体燃料型ICBMの開発、実用化は悲願なのだ。

過去には「ハリボテ」を登場させたことも

じつは北朝鮮は過去に一度、2017年4月の軍事パレードで、固体燃料型ICBMを登場させたことがある。しかし、その後は長く固体燃料型ICBMが登場することはなかった。北朝鮮としては珍しいことだが、おそらくこの時のICBMは、完成からはほど遠いいわば「ハリボテ」だったとみられる。

しかし、対米核戦力としてきわめて強力な固体燃料型の核ICBMの開発は、水面下でずっと続けられてきたのだろう。2021年1月には、金正恩自身の声明として、いくつもの対米核戦力の強化策を列記した国防5カ年計画が公式に発表されている。そこにも固体燃料型ICBMの開発が掲げられていた。金正恩本人の言葉であれば、まったく具体的な成算のない夢物語が書かれることはない。

「核実験」実現への段取りが整った

そうなれば北朝鮮は、近い将来、完成した段階で即座に発射実験を行うだろう。新技術は、実証してこそ実用化が可能になるからである。そして、この固体燃料型ICBMの発射実験が成功すれば、次はいよいよ核実験の強行に進む。

核実験は弾道ミサイル発射よりもはるかに、国際社会からの強い非難を受ける。したがって北朝鮮としては、国際社会の批判をかわすため、米国からの脅威を口実にミサイル発射実験のレベルを上げ、最後に核実験という「段取り」が必要だ。最終計画はあくまで核実験であり、その前にやりたいミサイル発射を進めるのが北朝鮮の常套手段なのだ(注:2017年だけは、核実験の後にICBM発射を行っている)。

既知の北朝鮮のICBMとして最大のものは火星17で、2022年11月に、その発射実験に初成功している。その時も米国は強く北朝鮮を批判した。が、北朝鮮はその時、米国の敵対的姿勢を口実とした核実験を行っていない。その理由が不明だった。この新型の固体燃料型ICBMの発射実験まで待って、その後に核実験という計画だったのなら辻褄が合う。

北朝鮮による前回の核実験は2017年9月で、それから5年以上が経過している。北朝鮮は、比較的小型な弾頭の短距離ミサイルの部隊を、すでに対韓国・在韓米軍の核ミサイル部隊化したことを公言している。それには小型化した核起爆装置の実証実験が不可欠だ。

さらにそうした小型化技術が実証できれば、対米国の「火星17の多弾頭化」の道も拓ける。今年の北朝鮮の計画として、まずはこの固体燃料型ICBMの完成を急ぎ、発射実験を行い、最後に核実験ということではないだろうか。

加速する北朝鮮の脅威

北朝鮮の核ミサイル戦力の強化は、もう止められない。核爆弾の数そのものも大幅に増やすだろう。ロシア軍のウクライナ侵略が続くなか、東アジアでは中国軍による台湾侵略の危険性に注目が集まっているが、今、北朝鮮の脅威が加速度的に高まっていることを忘れてはいけない。

  • 取材・文黒井文太郎

黒井 文太郎

軍事ジャーナリスト

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