「特殊詐欺をやっていた頃から、渡邉のグループは“イカれてる奴ら”として有名でした。詐欺をやらせるのもゲーム感覚。自分たちは常に安全な場所（フィリピン）にいますから現実感もなく、何をやっても構わないという空気感は絶えずありましたね」（渡邉容疑者の元部下）
’22年10月頃から関東を中心に全国各地で相次いだ広域強盗事件。その首謀者とされるのが渡邉優樹容疑者（38）、今村磨人容疑者（38）、小島智信容疑者（45）、藤田聖也容疑者（38）だ。リーダー格の渡邉容疑者をはじめとした４人はメッセージアプリ上で「ルフィ」「ハンマバキ」など様々なコードネームを名乗り、日本国内にいる実行犯らに強盗の指示を送っていたとみられている。
<figure id="attachment_295985" aria-describedby="caption-attachment-295985" style="width: 5568px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="5bc76d7f"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/02/6SH_2528_original.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-295985" class="wp-caption-text">渡邉容疑者らの強制送還を待つ大勢の報道陣</figcaption></figure>
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彼らが強盗に手を染める前に行っていたのが大規模特殊詐欺である。フィリピンから日本に電話をかける“かけ子”と、日本で被害者の自宅を回りカネを引き出す“受け子”に分かれ、特殊詐欺は全国的に行われていた。渡邉らは大量の“手下”を集め、残虐非道の限りを尽くしていたという。元部下は組織についてこう語る。
「フィリピンには全部で約80人のメンバーがいました。箱（拠点）はフィリピン国内に４つあり、それぞれ20人ずつくらいに分かれて日本に電話をかけ、特殊詐欺を行っていました。渡邉はその中のトップ。“ボス”と呼ばれていました。当初、グループのメンバーたちはボスの地元である北海道から集められていましたが、人が足りなくなると、Twitterを使って日本全国から募集をかけるようになりました。その後はボスたちのツテでフィリピンに来る奴らもいれば、Twitterから応募してくる奴らもいて……どんどん有象無象のグループに。特殊詐欺が上手くいけばいくほどに応募も増えていき、ヤクザなど個人で力を持った人間もグループに在籍していました。最後のほうは本当にヤバいやつらの集団でしたね」
犯罪集団として巨大化していった渡邉グループ。その特殊詐欺の手口は狡猾そのものだったという。
<figure id="attachment_296022" aria-describedby="caption-attachment-296022" style="width: 2263px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="2b1aade8"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/02/IMG_0872-1-1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-296022" class="wp-caption-text">羽田空港に降り立った渡邉容疑者</figcaption></figure>
「金融庁の職員を騙って電話をかけるというのがグループの基本的な手法でした。封筒にキャッシュカードと暗証番号を書いたメモを入れるよう促し、その後、被害者の自宅を訪ねた受け子が封筒を別のものとすり替えるというもの。当時はこのやり方が詐欺グループの主流になっていましたが、ボスは『この手口を考え付いたのは俺だ』と豪語していました。本当かどうかはわかりませんが、頭のいいボスならあり得る話だと思います」（同前）
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別の事件関係者はこうも話す。
「今回の事件では“名簿屋”の存在が疑われていますが、渡邉グループが特殊詐欺をしていた頃は名簿屋は一切使わず、自分たちでリストを作っていましたよ。電話をかけるときに使っていたのは、電話帳情報が転載されたサイトなど、誰でもアクセスできるもの。住所と名前と電話番号さえ合っていればそれでいいわけですから。そこから実際に電話をかけ、言葉巧みに資産を聞き出す。これが一番大事な作業になります。渡邉のグループではそうやってブラッシュアップしたオリジナルのリストを作って、犯行に利用していました」
関わった“アルバイト”たちを掌握する術も、渡邉グループは極めて巧妙だった。
「SNSで応募してきた受け子には、まず免許書から何から個人情報をすべて提出させます。親の職場まで聞き出し、会社に電話して在籍確認までしていましたね。そうやって受け子の素性をすべて把握してから、仕事を回す。もちろん指示役の情報は一切渡しません。ボスが事務所に来ることはほとんどなく、直接の指示も出しません。それぞれの箱にトップがいましたが、リクルーター（受け子たちのスカウト、管理を行う役割）を仕切っていたのは藤田で、彼が数十名というメンバーの前でいつも説明をしていました。藤田はボスから仕事のノウハウを学び、実践していた。グループの幹部やかけ子が日本国内にいる時は足がつかないよう基本的にはタイのプリペイド式のSIMカードを使ってやり取りをしていました。このSIMは現地で身分証なしで購入でき、日本でも１週間程度使えます。SIMは１枚１万円でグループがメンバーに売っていましたが、受け子は捨て駒なので渡しませんでした」
<figure id="attachment_296020" aria-describedby="caption-attachment-296020" style="width: 3712px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="bad6329c"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/02/IMG_0871.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-296020" class="wp-caption-text">渡邉容疑者と共に強制送還された小島容疑者</figcaption></figure>
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目先のカネ欲しさに一度でも犯罪に加われば、グループから抜け出すことはできなかった。
「一度、受け子をやって『やっぱり辞めたい』という奴もいる。でもこっちは本人の情報から犯罪行為まで把握してますから『お前、前の受け子の件、警察にチンコロ（通報）するぞ』と脅して、無理矢理働かせます。受け子に報酬を払いたくないからといって、警察に通報するリクルーターもいました。受け子に現場を伝えた後、警察に同じ現場を通報し、逮捕させるんです。フィリピンから日本に電話をかけるかけ子が欲しくなったら、日本の受け子をわざと指名手配されるように追い込んでフィリピンに呼び寄せるケースもありました。受け子が捕まろうが、何をしようが結局、こちらの足はつかない。受け子は駒なんですよ」（同前）
ときには、ヤクザから受け子を紹介してもらうこともあったという。だが、渡邉グループはヤクザ相手にも強気だったようだ。
「ヤクザへの報酬はちぎって（減らして）渡してました。ボスは『こっちはフィリピンにいるんだから、あいつらは何もやってこない。むしろこっちからヒットマンを飛ばせる』とまったくビビッていなかった。グループの下は無数に枝分かれした状態で、末端で動いているヤクザも大勢いましたよ」（前出・元部下）
<figure id="attachment_296023" aria-describedby="caption-attachment-296023" style="width: 5568px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="d4647e45"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/02/IMG_0874.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-296023" class="wp-caption-text">渡邉容疑者（手前）と小島容疑者（奥）</figcaption></figure>
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多くの被害者を生み出した渡邉グループによる特殊詐欺だが、その分、売り上げは莫大な額にのぼった。
「毎月、ボスの取り分はアベレージで１億５０００万～２億円ぐらいでした。もちろん全体の売り上げで言えばもっとです。かけ子や受け子への報酬は振り込みで行っていた。ボスは毎日のようにフィリピンのカジノに入り浸って、バカラに熱中。ボスはミニマムレート（掛け金の最低額）２００万円のところで勝負していました。シティ・オブ・ドリームではVIP、岡田マニラではVIPより上のVVIP扱いでした。シティ・オブ・ドリームは中国の富裕層が多数来ていたので、ボスでもVVIPになれたのは数回程度です」（同前）
今年２月の会見で露木康浩警察庁長官は渡邉らのグループの特殊詐欺による被害が60億円にのぼると発表。渡邉グループのカネを狙う敵対組織もあったが、そういった相手には容赦ない対応をしていたという。
「受け子を装ってボスのグループに応募してきて、被害者から金品を奪ったらトンズラする奴らもいました。ボスの情報網でそれを察知すると、騙されたふりをして受け子に受け取り先の住所を伝え、警察にも通報しておく。そうやって敵対する奴らをパクらせてました。受け子とは常に電話をつないでいるので、警察が来ると『お前ら、前にも同じことしたな。こっちはわかってんだよね。まぁ刑務所、頑張ってね』とゲラゲラ笑いながら電話を切る。本当にゲーム感覚でしたね」（同前）
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<div data-friday-nextpage-lead="「敵も味方も食いつぶしてきた」&#8220;></div>
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そんなグループを束ねる渡邉容疑者とは一体、どんな男なのか。
「とにかくいつも冷静です。『ONE PIECE』が好きとは聞いたことはないです。テレグラムはコードネームをつけなくてはいけなくて、他のメンバーたちも適当につけていたので『ルフィ』もその程度の感覚で名乗っていたものだと思います。ちなみにボスのコードネームは『シマダ』『ハオ』、小島は『エイト』でした。ボスが好きなのはレゲエグループの『ファイヤーボール』と『ケツメイシ』。いつも銃を持たせたフィリピン・ギャングのボディーガード２人をつけて行動してました。そういえば、常に冷静なボスですが、女性には甘い一面もありましたね。ボスと関係のあったオンナで10代の日本人女性がいたんですが、何も知らない彼女を幹部にしようとしたことがあったんです。そのときは他の幹部が猛反発して止めていました」（同上）
<figure id="attachment_295992" aria-describedby="caption-attachment-295992" style="width: 534px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="f0f6c419"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/02/6SH_2333a.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-295992" class="wp-caption-text">特殊詐欺の現場を仕切っていたという藤田容疑者</figcaption></figure>
元部下は共犯者であった他の３人についてはこう話す。
「藤田はもともと、北海道時代にボスの店で働いていたと聞きました。詐欺グループでは幹部をまとめるリーダーで『大野』と名乗っていました。小島は足首に『８』の刺青がありました。小島は渡邉にも内緒で大麻を捌く副業をしていて、仲間を集めて自分でも吸ってましたね。小島と藤田はマニラにあるプール付きの高級レジデンスに住んでいました。一番不可解なのは今村です。報道では詐欺グループの共同経営者とも言われていますが、今村自体を見たことがない。今村は’19年４月に日本国内で警察官になりすまし、キャッシュカードを盗んだ上で現金70万円を引き出した疑いで逮捕状が出されていますが、グループのトップが受け子や出し子をやるわけがない。そんなことあり得ないんです。明らかに下っ端の仕事です。恐らくですが、ボスは今村に逮捕状を出させ、フィリピンまで逃亡させるよう追い込んで、自分の身代わりとして用意したんだと思います。あの人はそれぐらいのことは平気でやりますよ」（同前）
<figure id="attachment_295991" aria-describedby="caption-attachment-295991" style="width: 548px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="30bfaa89"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/02/6SH_2263a.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-295991" class="wp-caption-text">成田空港から移送される今村容疑者</figcaption></figure>
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司法の裁きを待つ渡邉たちに対し、元部下はこう心の内を明かした。
「このグループはとてつもない数の人たちを不幸にしてきました。大げさではなく、敵も味方も関係なく食い潰してきた。詐欺グループでもこれほど末端の人間が潰される組織を見たことがない。今回、実行犯として逮捕された者たちが、今度は自分で渡邉のような犯罪組織を作り、リーダーになるかもしれない。この不幸の連鎖はずっと続くと思います。これで終わりじゃありません」
多くの犠牲者を生み出してきた渡邉グループ。負の連鎖を断ち切るすべは果たしてあるのだろうか。
<figure id="attachment_295993" aria-describedby="caption-attachment-295993" style="width: 529px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="86c964cf"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/02/6SH_2545_original.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-295993" class="wp-caption-text">渡邉・小島両容疑者が乗っていた航空機</figcaption></figure>
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蓮尾真司

「特殊詐欺をやっていた頃から、渡邉のグループは“イカれてる奴ら”として有名でした。詐欺をやらせるのもゲーム感覚。自分たちは常に安全な場所（フィリピン）にいますから現実感もなく、何をやっても構わないとい

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