さらば福永祐一騎手！間近で見守ってきた”兄貴分”が漏らした「本当にもったいない…」

「ユーイチはやっと努力が実ってこれだけの成績を残せるようになったのだから、いま騎手を辞めるのはもったいない気もします。でもユーイチは落馬事故で腎臓を一つ摘出している。万が一、もう片方の腎臓に何かあったら騎手はもちろん、普通の生活すらままならなくなる。ユーイチの人生を考えるとこのタイミングでの騎手引退は良い選択だったのかな、と感じます」

騎手・福永祐一（46）は調教師に転身するべく2023年2月いっぱいで引退する。そんなユーイチを惜しみつつ安堵しながら見守るのは中山義一氏（66）。中山氏は福永騎手がデビュー時に所属していた北橋修二厩舎の一員であり、デビュー時から支え見守り続けながら競馬雑誌に10年間ユーイチの応援コラムを連載しながら間近で見守ってきた。

「ユーイチとの出会いはお父さんの洋一さん(福永洋一元騎手)がまだ元気だったときなので、彼がまだ1～2歳の頃です。当時、小学生のユタカ(武豊騎手・53)がユーイチと幸四郎(武幸四郎調教師・44)の面倒をみて遊ばせていました」

その後、父・洋一氏は1979年の落馬事故で瀕死の重傷を負い、重度の障害が残る身体になった。それ故に親族の反対もあったが、祐一は騎手の道を選び、幼い頃から懇意にしていた北橋調教師を頼り、厩舎の所属となった。

「ユーイチは頭が良くて素直な子でした。ただ、けっして上手ではなかったし、身体も硬く、むしろ騎手には向いていないと感じるほどでしたね。それでも、勝負の世界ですから。デビューの頃、北橋はメディアでは『勝って勝って勝ちまくれ』とハッパをかけました。でも内心ではユーイチはお父さんのような特別なセンスが武器というタイプでもないと感じていた。だから『人に信頼され、好かれ、少しずつ積み上げていけばいい』のが本音であり、何より身体が無事でいてほしいと願ってきました」

しかしデビュー4年目の1999年。プリモディーネで桜花賞を制し、晴れてGⅠジョッキーになった翌週、中京競馬場での落馬事故で腎臓を一つ摘出した。

「落馬直後は病院のICUに入り、面会謝絶。不幸中の幸いで、翌週に見舞ったときには差し入れにシュークリームを欲しがるほど回復しました。3ヵ月後には無事復帰しましたが、あのときはまだ若かったし、もっと騎手として活躍してほしいと願う一方で、無理はしてほしくないと思いましたね」

その後、まさに一つひとつ積み上げるようにキャリアを残していった。2018年にワグネリアンで日本ダービーを制覇、2020年はコントレイルで牡馬クラシック三冠を制覇。翌2021年はシャフリヤールで日本ダービー連覇、と名実ともに“勝って勝って勝ちまくる”騎手になった。

「研究熱心で真面目なので、キャリアを重ねるごとに自分の中で知識が蓄えられ、それが生かせるようになったと感じました。結果が出れば自信が増すし、ここまですごくいい流れがつくれていたと思います」

福永祐一騎手は調教師合格にあたり、「騎手はレースにおいて最後のバトンを受け取る立場。もっと馬と深くかかわりたいという気持ちから調教師を志した。騎手よりやりたい仕事が見つかったということです」と抱負を述べた。2月19日には日本でのラスト騎乗も終え、2月最後の週末はサウジアラビア(キングアブドゥルアジーズ競馬場)で行われるリヤドダートスプリント(GⅢ・ダート1200m)とサウジダービー(GⅢ・ダート1600m)に騎乗する予定となっている。

「とにかく最後まで怪我なく、無事に騎手を引退できるよう願います。調教師になったらユーイチは人柄がいいから、馬も人も大切にして和を重んじる信頼させる厩舎をつくってくれることでしょう。人も馬も大事にする良い調教師になると思います。しかし、それでもやはり、勝負の世界ですから。やはり『勝って勝って勝ちまくる福永厩舎』になってほしいですね」